Column

スコップひとつで行う道づくり。「観察と手入れ」から見えた森との関わり方

FEATURED PEOPLE
登場人物
大橋 司
Tsukasa Ohashi
新岐阜興業株式会社 代表取締役/ビル経営管理士/「来福の森」山主
後藤めぐみ
Megumi Goto
メグル水講座
松本 剛
Takeshi Matsumoto
ヒダクマ 代表取締役/COO
松山 由樹
Yuki Matsuyama
ヒダクマ 森へ事業部 森の翻訳者

Introduction はじめに

岐阜県高山市の福地温泉にある来福の森は、約50年間手入れされずにいた森を、森を楽しむ人、学ぶ人、様々な森の使い方をする方々にひらくために整備を進めている場所。
森で過ごす時間を豊かにするための道具を収納・貸し出しする「道具番屋」や、森の中の資源を使って大工や茅葺き職人、全国から集まった方々と作った笹葺きの東屋が完成し、森がひらかれています。

この森を進んだ先には、かつて集落を襲った大火の後「二度と火災が起こらないように」と地域の人々が建てた「火と風」の神様を祀る祠があります。今回、山主の大橋さんからヒダクマに祠までの道をみんなで整備したいという相談をもらい、ヒダクマは道づくりワークショップの企画・運営を担当しました。

本コラムでは、2026年9月に来福の森で開催した「スコップひとつで行う森の道の再生ワークショップ」の様子をレポートします。

■関連記事:
・もっと森をひらくために。「来福の森」の看板製作と森の道の再生ワークショップ
・森をひらく道具を収納・貸し出しする広葉樹建築「道具番屋」
・森の中で資源調達からはじめる野生の建築ワークショップ。奥飛騨温泉郷 福地温泉「来福の森」の東屋

Writing:松山 由樹 Editing:ヒダクマ編集部  

大がかりな機材を必要としない誰もが参加できる形を目指して

来福の森の入り口には、森で過ごす時間を豊かにするための道具を収納・貸し出しする建築「道具番屋」があります。道具番屋に置かれるような誰もが扱える道具でワークショップができないか、そんな考えをもとにワークショップの企画を進めました。

来福の森の道具番屋(写真:中村 絵)

そんな中、「スコップ」という誰もが扱える道具で土の中の空気や水の流れを通しながらの道づくりを行うメグル水講座の後藤めぐみさんと出会い、来福の森の道づくりワークショップの講師をお願いしました。

メグル水講座のWebサイト:https://sites.google.com/view/watercycleinsoil/home

メグル水講座の後藤さん
ワークショップの道具、スコップ

ちなみに、ワークショップで使ったのは、この小さなスコップ。関東・関西では、スコップとシャベルの呼び方が違うそうで、関東では大きいタイプのものをスコップ、小さいタイプをシャベルと呼ぶのに対し、関西では、小さいタイプをスコップ、大きいタイプをシャベルと呼ぶことが多いようです。参加者の方の中にも、大きいタイプをイメージされて来られた方がいて、ワークショップ中にちょっとした話題になりました。

歩きやすい道とは?まず学ぶのは道づくりの考え方から

メグル水講座の後藤さんのワークショップでは、歩きやすい道を考えるところからはじまりました。はじめに自由に森を歩いてもらいながら、どこで「歩きにくい」と感じるのかを参加者の皆さんに体感してもらいました。

参加者それぞれが自由に森を歩く

その後、歩きにくいと感じたところをみんなでシェアします。土が出ていて滑りやすい、傾斜が急、段差が大きい、枝木があるなどさまざまな意見が出ました。

普段、無意識に歩くことがほとんどだと思うので、「歩きにくさ」を考えながら歩く体験は非常に新鮮でした。

道づくりの基本は「水がゆっくり流れる」こと

後藤さんは、道づくりにおいて大切なことは、「水の流れをゆっくりにすること」だと教えてくれました。山の斜面に対してまっすぐな道だと、水がはやく流れてしまうため、土砂が流れ、山の荒廃につながります。逆に土の中に浸み込みながらゆっくり水が流れると、雨が降ってから川に流れるまでに時間差ができるため、川の水位の上昇がゆるやかになります。また、土の中でろ過され、水がきれいになるという良いことづくしです。

道は、土の中に水を浸み込ませるために斜面に対してV字の溝を掘って作ります。掘った土はかまぼこ状に盛り、それをつなげることで道ができます。

後藤さんに教えてもらった道の付け方

また、水の流れをゆっくりにするため、つづら折りに道をつくることと、斜面よりも段になっていた方が水はゆっくり進んでいくため、段を作ることも大事とのことです。

スコップを持って、さっそく道づくり

はじめに後藤さんにお手本を見せてもらいました。
まずは丸くわを使って表面の土の表面にある葉っぱなどを払います。

土の表面が見えたら、スコップでV字に溝を掘っていきます。掘ったところには石などを詰めると良いとのこと。

できた道がこちら。斜面を横切る道によって、水の流れがゆっくりになり、土の中に浸み込みやすくなるとのこと

道をつけた後には、水を堰き止める柵(しがらみ)を作りました。柵も水の流れをゆっくりにするために効果的で、水が流れやすい場所を予測しながら作ります。慣れていないと水の流れを読むのが難しいのですが、雨の日に森に入ってみるとどのように水が流れているのかがわかるとのこと。また、地形を見てくぼんでいるところや水が好きなドクダミやカキドオシが生えているところ、石や岩が列に並んでいるところは水が流れやすい場所で、そういったところに着目しながら、水の流れを予測してみます。

柵づくり。30~40 cmほどの枝を間隔をあけて地面に打ち込み、間に細い枝をぎっしり埋めて作る

後藤さんに教えてもらった後は、各々の持ち場に分かれて作っていきました。スコップで土を掘る作業は黙々と集中でき、かなり皆さん熱中して取り組まれていました。体も使うのでほどほどの疲労感もあり、気持ちがいい。そして何より、道がつながっているのが目に見えてわかるので、「次はここをやろう」と時間を忘れて作業がはかどりました。終了時刻になっても「もっとやっていたい」という声があがるほどでした。

2日間のワークショップで約30名の方にご参加いただいたこともあり、2日目の終わりには祠までの道が概ねつながりました。

できた道を歩いてみる

最後に参加者の皆さんと、できたてほやほやの道を祠まで歩きました。みんなで作った道を歩きながら、階段ができていることに喜んだり、誰かが作った柵がきれいで褒め合ったり、ここはもう少しやる必要がありそうだと振り返ったり、皆さん達成感で満ちていました。

今回のワークショップでは「水の流れ」に着目。いかに水をゆっくり流すかを考えながら作業しました。参加者の中には、「本当にスコップひとつできるの?」と半信半疑で参加された方もいて、「実際にやってみてできることがわかりました。これからは森の中で水の流れを観察してみたいです」とワークショップを振り返ってくださっていました。

ほかには、
「水と道づくりが結びついていなかったので、新しい視点だった」
「場所によって土の状態が異なることに気づくことができた。実際に手作業で行うことで変化にも気づくことができるし、常にケアしていくことで森との良い関係性が気づけると感じた」
などの声が上がっていました。講師の後藤さん、ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました。

道ができたその後

道づくりの翌日、雨が降っていたのですが、雨の時は水の流れを見れる絶好のチャンスということで、作った道の様子を見に行くことにしました。お帰り予定だった後藤さんも一緒に来てくださることに。

かなりの雨量だったので、壊れていたらどうしようとドキドキしながら歩いてみると、ほとんどの道が壊れることなくできていました。後藤さんは「雨が道を仕上げてくれた」とおっしゃっていました。ちゃんと土の中に水が浸み込んだ証拠ですね。

しかし、一部水の通り道につくられた道は、ぬかるんでいて、歩くと道が壊れてしまいました。後藤さんいわく、そういったところでは無理に道をつくろうとせず、別の場所を通る新たな道を作り直す方が良いとのこと。道ができた後も観察を続け、手入れしていくことが大切なのだと教わりました。

ぬかるみがひどかった場所。別の道に作り直すことに

後日、大橋さん指導のもと、福地温泉の地元の皆さんとも一緒に道づくりを行いました。道の先にある地元の皆さんが大切にされている祠の一部が壊れていたので、その修繕も。この祠は「火」と「風」の神様を祀っているのですが、どちらが火で風なのか、大橋さんも知らなかったそうで、今回地元の方との会話の中でわかったそうです。「祠までの道も、昔からの記憶も今回のワークショップではつながり大きな収穫だった」と大橋さん。

祠の前にて。真ん中が大橋さん、左が福地温泉の旅館 孫九郎の沖本さん、右が草円の坂下さん

おわりに

今回のワークショップでは、手道具を使って、森主、地元の方、参加者の皆さんが関わりながら道をつなげていきました。道づくりには終わりはなく、今後もできた道を常に観察・手入れしていきます。作って終わりではなく、常に観察し続け、綻びは修繕する。そういった行為を通して、森と人との関係が築かれるのだと感じました。
森に入るために必ず必要な道。道づくりを通して人が森に関わりながら、環境も改善されるーーそのことが実感できたワークショップでした。

今後、来福の森では、森主の大橋さんが講師となり定期的に道づくりワークショップをされるとのことです。森で土に触れながら作業するのはとても気持ちいいですよ。道づくりから森との関わりを探ってみてはいかがでしょうか?興味のある方はぜひ来福の森のWebサイトをのぞいてみてください。詳細は、こちら。

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