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木を使うことは地球温暖化対策に貢献する? 林野庁が解説する今知りたい、日本の森事情

Introduction はじめに

飛騨市広葉樹まちづくりセミナーvol.6[前編]
1月25日、飛騨市主催で広葉樹のまちづくりセミナーvol.6が行われました。今年度最終回となるセミナーのテーマは、「木材はもっと高く売れる ~ 木材の価値はどこで決まるのか ~」。

第一部では、公共建築への木材利用、木づかい運動、木材輸出など木材需要の拡大に向けて全国で活動されている林野庁林政部木材利用課 課長の長野麻子氏による基調講演。第二部は、ひきつづき長野氏と、ヒダクマでも大変お世話になっている広葉樹専門の製材所を営む西野製材所のオーナー・西野真徳さん、そしてヒダクマの松本剛が登壇するトークセッションが行われました。

会場には飛騨市内外から林業関係者や家具メーカーの方など、同セミナーが始まって以来最多の50名以上の参加者が集まりました。広葉樹活用の可能性への期待の高まりを集まったみなさんの真剣な眼差しから感じることができた当日の様子をレポートします。

飛騨市広葉樹のまちづくりセミナーとは?

2019年に行われたスイス・フォレスター研修会

飛騨市のまちづくりとして様々な視点から広葉樹の活用を考えるセミナー。2019年度はスイスからフォレスターを招聘して森林づくりを学ぶ研修や、建築家による町の建築や景観にまつわるレクチャー、森の香り(アロマ)について学ぶセミナーなどが開催されてきました。2020年度もひきつづき本セミナーは開催される予定です。

これからの木材利用 〜みんなでウッドチェンジ〜

「今回の講演のテーマが「広葉樹」ということで非常に苦労をしました。」と開口一番におっしゃった長野氏。普段人工林のスギ・ヒノキの取り組みをしており、講演をするにあたり資料が針葉樹ベースでしかないため、庁内かき集めて広葉樹の資料を持ってきましたとのこと。そもそもなぜ林野庁に広葉樹の資料が少ないのか。林業関係者にとっては周知の事実ですが、説明が必要な方もいらっしゃるかもしれませんので、説明いたします。

日本では戦時中や戦後の過度な伐採により荒廃した山地の復旧や高度経済成長期における木材需要の増大など、各時代の社会・経済的要請に応えるため、木材として好まれ、成長が早く、日本の自然環境に広く適応できるスギ・ヒノキの造林を推進してきました。現在、日本の国土面積の約7割を森林面積が占めており、そのうち、人工林の面積は森林面積全体の約4割。日本の人工林面積のうち、スギ・ヒノキ林が約7割を占めています。現在、戦後に植えられたスギ・ヒノキが成長し、木材として利用に適した時期を迎えています。「木も高齢化で50年を超えるものが多くなってきている。これらを使って植えるというサイクルを回していく必要がある」と長野氏。一方の広葉樹は、日本の総資源量のうち約3割を占め、その多くは里山林や天然林です。里山林は、薪や炭、山菜や肥料などを通じて地域住民に継続的に利用されることにより、維持・管理されてきた森林のことです。天然林とは、主として自然の力によって成立した森林のことです。国の政策では植林面積が多いことなどから(広葉樹よりも)人工林の取り組みを推進しており、林野庁に広葉樹の資料が少ないのはそのためです。

育ってきた時間は価値

多くは東北や北海道に分布している広葉樹。奥地の水源や貴重な野生動物の生息地として、また里山林を含め、国土保全、自然環境の面から重要な役割を果たしています。ただその利用はほぼ木材チップ。家具などの製材用として使われるものは4%とほんの一部にとどまっています。

長野氏は、「広葉樹が育った期間から考えると、100年かけて育ってきたものを一過性の使い方でチップにしている。木が育ってきた時間も価値とした使い方をこれからやっていくべき」と話します。また、現状国産ではなく、海外からの輸入に頼っている広葉樹について「国産の広葉樹はあんまり流通をしていない。これから広葉樹の流通網をどうやってつくっていくかが大きな課題」と述べました。

国産材の明るい兆しと現状の課題

食料自給率がなかなか上がらない中、林業の自給率、国産材の自給率というのは、2002年からV字回復をしている状況にあり、主に針葉樹について国産化への動きが顕著であることを述べた上で、日本と地形や森林所有規模などの条件が類似するオーストリアと日本を比較して現状の課題について長野氏はこう話しました。

長野:

オーストリアと日本で材の価格は変わらないが、手取りの構成が日本と違い、オーストリアでは山主さんに多くお金が残ることになっている。日本の場合は伐出や流通というところにお金がかかり、山に残るお金が非常に少ない。これは課題です。これからの森づくりの費用分担をどうしていくかを考えていかないとこれからの日本の森に手が入らず荒れていくばかりでしょう。

林野庁の目指す森の姿(森林経営管理制度と森林環境譲与税)

長野:

我が国の林業の構造の問題は針葉樹も広葉樹も同じだと思いますが、非常に小さい規模で分散して所有者がいらっしゃることです。山主さんの9割が保有山林面積10ha未満。経営を効率的にする観点からすると集約していくことが必要です。私有林の人工林のうち、きちんと手が入って集積・集約化されているのは1/3。なかなか儲からないので手入れがされていない2/3をこれからどうしていくのか。林野庁の基本計画で総体として目指す森の姿は、自然条件などがよく林業経営に適した人工林はみんなで協力して維持していき、それ以外の適さない森は針葉樹と広葉樹が交じる多様な森に戻していこうというものです。

森林経営管理制度(平成31年4月1⽇施⾏) 林野庁資料
長野:

森林の所有者さんで、経営のやる気がなくなったり、これからどうしていくべきか悩んでいたり、例えば東京や名古屋に住んでいて森を先代から受け継いではいるけれども自分ではやりきれないという方がいらっしゃると思います。そのような方には、市町村に森を委託していただき、市町村がその中で例えば林業の経営者さんの仕事にもなるよう自治体が意欲ある経営者のみなさんにこれを再委託してやっていただく。経営に適さないという森は、市町村が自ら管理をしていく。市町村に対する責任が大きくなっていますがこれは、森がどうあるべきかを地域で考えるということを制度的に位置づけたものです。
森を管理するためにはビジネスにならなければならないし、お金が必要です。それに対して国民のみなさまから令和6年から森林環境税をいただき、今年度からすでに自治体には基準に基づいた森林環境譲与税が分配されています。
森林環境譲与税は、森林の整備に使うもの、また森林の整備に資するものとして木材利用にも使えます。林野庁の財源ではなく、自治体の独自財源。国民のみなさまが森を支えることに関する大事な制度です。飛騨市は、市役所の内装に地元の広葉樹を使用したり、先進的な木材利用をされていますが、山林の少ない多くの都市部の市町村は基金を積んで貯めてから使おうと言っているところもあります。ただ、基金もどんどん貯まっていきます。これをきちんと使っていかないと、お金を払う人たちからすれば何のために貯めているんだろうということになりますから、今年度、来年度以降から地域の森、地域の実情に合わせて森林整備や木材利用に工夫を凝らした活用をしていただきたいと思います。

木を使うことは地球温暖化対策に貢献する

「パリ協定でグレタさんが大人に対して厳しい声をあげています。グレタさんには木を使うことで地球温暖化対策への貢献をしたい」と長野氏。講演の日も飛騨に雪があると思い長靴を履いてきた長野さんでしたが、全く雪のない日でした。身近に温暖化を感じる私達に何ができるかについて次のようにお話されました。

長野:

木は年々年寄りになっていくと呼吸が多くなり、CO2の吸収量が減ってしまいます。地球温暖化対策のためには、「伐って、使って、植える」という、森に手を入れ続け、循環を回すことが大事です。都市地域で排出された二酸化炭素を、里山の森林づくりで吸収することだけでなく、木造建築物は一定期間炭素を固定できるため、山村地域の森林で吸収・固定した二酸化炭素を、都市部の企業の施設や、住宅、家具などに木材を利用することで吸収源としてカウントされ、パリ協定に貢献できます。また、木というのは他の資材に比べ、そもそも製造時のエネルギー消費が少なく、地球温暖化にはやさしい素材だとも言われています。

17の目標と169のターゲットからなる持続可能な開発目標(SDGs)

地球温暖化対策に貢献する以外にも木材利用の意義には、構法等の工夫による低コスト、短工期が可能になるビジネス面における効果があること。また、社会的課題解決に向けた効果として、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標SDGsの17のゴールのうち14のゴールは、森林を持続可能に経営することで貢献できると言われており、「どんな業種でも各企業のSDGs共通策として木材利用を推進していきたい」と語りました。

森を活かした地方創生を

講演の副題になっている「ウッドチェンジ」とは、今まで使われてこなかった色んなものを木に変えるという意味。長野氏は木の良さを改めて感じることの重要性にも触れました。

長野:

木から離れてしまったことで木の良さがわからなくなっている方もいらっしゃるかもしれません。最近ですと、エビデンスですとか科学で証明してくださいという方が多いと思います。木の持つ調湿能力、リフレッシュ効果や鎮静効果のほかダニを防ぐ効果のある香り、断熱性や衝撃吸収能力の高さなどのエビデンスは最近の研究成果で蓄積されてきています。今後もっと木の良さをエビデンスとしてとり、効果を発信していけたらと思います。

長野:

7割が森の日本において、多くの自治体は地方創生で森を活かさない手はないというふうに思うんです。働き方改革だったり、今人手不足で若い人にどうやって入ってもらえるかを考える時、きれいなオフィスというのはとても重要です。都会では、働いているみなさんに木のオフィス空間によりオアシス的な効果を与えることができます。過疎化の進む地域では、林業や加工などに関する産業が衰退しているところが多いですが、仕事があれば若い人も来やすくなります。
全国知事会で木材活用のプロジェクトチームができ、国産材を使おうという動きがあります。自民党の議連も森林を活かす都市の木造化推進議員連盟ができていますし、経済同友会では木材利用推進全国会議で木を使ってほしいと全国で営業をかけています。木材活用に大きな動きが始まってきており、木材を使うことに追い風を感じています。

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