森の記憶が封入されたマテリアル「Forest Bank」ができるまで
営業開発部長
クリエイティブディレクター/5軸CNCオペレーター
Introduction
はじめに
Forest Bankは、大小の枝や葉っぱ、木の実や根っこなど、森が持つ様々な要素を内包するマテリアルです。デザイナーの狩野佑真(STUDIO YUMAKANO)さんが、飛騨での滞在制作を通じて開発しました。
本記事では、淺沼組名古屋支店を環境配慮型ビルとして改修するプロジェクト「GOOD CYCLE BUILDING」に触れながら、同ビル2Fのラウンジテーブル天板に採用された「Forest Bank」の魅力やその製作過程を紹介します。
Writing:志田 岳弥(ヒダクマ) Photography:長谷川 健太 *竣工写真のみ Editing:ヒダクマ編集部
本記事では、淺沼組名古屋支店を環境配慮型ビルとして改修するプロジェクト「GOOD CYCLE BUILDING」に触れながら、同ビル2Fのラウンジテーブル天板に採用された「Forest Bank」の魅力やその製作過程を紹介します。
Writing:志田 岳弥(ヒダクマ) Photography:長谷川 健太 *竣工写真のみ Editing:ヒダクマ編集部
淺沼組のGOOD CYCLE BUIⅬDING
淺沼組が「人間にも地球にもよい循環」をコンセプトに立ち上げたリニューアル事業ブランド『ReQuality』を実現する、環境配慮型リニューアルに取り組んだプロジェクト。淺沼組名古屋支店改修プロジェクトはそのフラッグシップとなる第一弾。既存建物の躯体を活かしたリニューアルや環境に配慮した建材やマテリアルを採用し、地球に良い循環をもたらす持続可能な建設業のあり方を提示しています。
その時々の断面でしか出会えない表情
Forest Bankは、有機溶剤フリーの水性アクリル樹脂「ジェスモナイト」に森で採れた素材を骨材として混ぜ込み固め、木工機械で木と同じように加工できます。その造形の大きな特徴は、断面に現れる素材の輪郭です。無数の輪郭がつくり出す断面の表情は、加工度合いに日常生活にも溶け込んでいるからか、木板の断面はどこか身近な印象。一方で、枝や葉っぱ、松ぼっくりに対して様々な角度から与えられるユニークな断面は、想像力を刺激します。それら固有の輪郭を無数に含んだ天板は、森の水溜りなのか、表土あるいは土中なのか、森という“環境”のひと区画をそのまま持ってきたかのよう。天板という機能名より環境要素という呼び方が相応かもしれません。
<仕様>
・材料:
骨材:森の要素(木片、枝、葉、樹木の種子、根、キハダなどの樹皮、吉野杉の端材、チップ、土、炭、淺沼組名古屋支店改修中に生じた天井材の端材など)
・樹脂:ジェスモナイト
・サイズ:φ800×1台 φ1200×7台 φ1500×1台
・仕上げ:ウレタン艶消し塗装
飛騨と吉野で森そのものに触れ試行する
今回のForest Bankに使用された素材は、飛騨の広葉樹の森で採れたものだけではありません。製作にあたり狩野さんが訪れたのは、淺沼組名古屋支店のファサードで使用された樹齢約130年の吉野杉の伐採現場。吉野杉の端材や枝木、土といった、建材や家具の材料としては通常使われない材料をテーブル天板に使用することを考えました。
製作現場となる飛騨では、6月に森をリサーチ。「岡田さんの森」の愛称で親しまれる、飛騨古川の里山を訪れました。季節ごとで採取できる森の要素が異なるため、改めて狩野さんとともに森を散策し、骨材になる素材をハンティング。
「岡田さんの森」から持ち帰った素材を使って、FabCafe Hidaで製作について検討。調達した素材を自由にカットしたり、浮かんだアイデアをその場で実験できるのが、FabCafe Hidaのいいところ。
同時に、目指す骨材の密度、それに必要な骨材の量、理想的と思われる仕上がりに必要な型枠の深さ、仕上げの塗装なども検証。木枠は製作で発生する様々なシーンを想定し、安全や効率を考慮した形に設計。ジェットナイトを流し込み硬化させると、天板一枚あたりの重量は、切削前で100kgに及びます。フォークリフトで運搬するため、フォークが入る隙間を設けたり、場面によって人力でも移動しやすいよう、御神輿の様に梁を通しました。
スピード感のあるフィジカルな製作
ここからは製作の山場。ジェスモナイトと骨材を混ぜ、型枠に流し込み硬化させ、CNC加工により天板に仕上げる、という順序で製作を進めました。実施したのは暑さが増す7月。期間はおよそ1週間で、丸太が集まる土場(どば)を持つ柳木材の製作スペースで行いました。FabCafe Hidaに滞在した狩野さんとともにヒダクマメンバー総出となって、毎日、材料を混ぜては流し込む作業を繰り返しました。
流し込み時、骨材自体はジェスモナイトが纏わり白色になります。何がなんだか分からなくなりますが、手触りを当てにしながら骨材の配置をコントロール。一見、誰がやっても同じ結果を生む作業に思えますが、狩野さんによる骨材の配置や混ぜる土の量などの細やかな調整が仕上がりに大きく影響しています。
一連の作業にはときに地域の職人が加わり、地元の木材事業者の方も作業を覗き見。淺沼組や建築家の川島さん等、プロジェクト関係者も応援に駆けつけてくださいました。
硬化した天板のうち、ひとつは飛騨の職人の元で試験加工を実施。大きな直径の天板を一気にCNC加工できるアーティストリーに依頼する前に、検討事項を洗い出すためです。Forest Bankは変数の多さや新しさから完成度が測りにくいマテリアルですが、試験加工にプロジェクト関係者が参加するなどして、認識をすり合わせました。
Forest Bankはマテリアルとしての柔軟性が高く、木加工と同じ工法や機械での加工が可能です。そう考えたとき、Forest Bankが様々な人の手に渡って加工されること、つまり手加工の実績をもとにCNC加工を試みたことは、Forest Bankが持つマテリアルとしての可能性を示すチャレンジでもありました。
生まれ変わった淺沼組名古屋支店を彩る計9台のForest Bankテーブル。そこに現れる森の姿は、席に着いた方それぞれの想像力や好奇心をくすぐるものであるはずです。そこが人にとっても地球にとってもより良い循環の始まりになることを願っています。
Members
狩野 佑真|Yuma Kano
studio yumakano Design Director / Designer
1988年栃木県生まれ。東京造形大学デザイン学科室内建築専攻卒業。アーティスト鈴木康広氏のアシスタントを経て2012年にデザイン事務所「studio yumakano」を設立。ネジ1本からプロダクト・インテリア・マテリアルリサーチまで、実験的なアプローチとプロトタイピングを重視したプロセスを組み合わせて、様々な物事をデザインの対象として活動している。主な受賞にグッドデザイン賞、IFFT ヤングデザイナーアワード、German Design Award、Maison&Objet Rising Talent Awardなど。
https://yumakano.com/
大西 功起|Atsuki Ohnishi
株式会社アーティストリー
営業開発部長
クリエイティブディレクター/5軸CNCオペレーター
1985年伊勢市生まれ。名古屋芸術大学卒業後、柏木工にて木工を学び、2015年アーティストリーへ入社。家具職人、5軸オペレーターを経て営業職に。多数の挑戦的なPJを手掛ける。「木に関わる仕事を憧れの職業Best10に入れる」を人生テーマにし、モノづくりの魅力を発信し続けている。
http://www.artistry.co.jp/
門井 慈子|Chikako Kadoi
株式会社飛騨の森でクマは踊る
森のクリエイティブディレクター
東京藝術大学 美術研究科先端芸術表現専攻修了。空間デザイン会社にてイベント装飾や店舗内装の空間デザイン・コミュニケーション設計を複数経験。人と森の関係性という、時間軸の長いコミュニケーションやそこに生じるコミュニティ創り・価値創造に心を惹かれ、2020年「クマが喜んで踊り出すくらい豊かな森」を目指すヒダクマに入社。クマと一緒に踊るのが夢。
Member's Voice
そもそもは”森の豊かさ美しさ”をそのまま表現したいというコンセプトから生まれたForestBankマテリアル。今回のプロジェクトでは森の素材のみならず、建設現場の端材や残土まで混ぜ込み有効活用しました。完成した天板には”森の生の素材”と”現場で人工加工された木材”が混ざり合った完全オリジナルの模様が表れました。森林や現場の素材だけでなく、このプロジェクトに関わった様々な”記憶”までもがこのマテリアルに封入されていると思います。
木材は人々の生活には欠かせない素材。今後、様々なプロジェクトを通して、また新たなForestBankが生まれることを楽しみにしています。 狩野 佑真|Yuma Kano
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今回のプロジェクトは、狩野さん・門井さんがアーティストリーの工場に数日滞在していただき、共にセッションしながら作らせていただきました。 少しずつ表面を削っては、森の記憶を探るお2人は真剣でありながら、子どもがカブトムシを探すようなワクワクした表情を常にしておられたのが印象です。僕達もそれにつられて笑顔になり、本来のモノづくりの楽しさって、こういうことなんだよなーと改めて実感しました。 私たちにとってもForest Bankは未知の素材でしたが、おふたりと挑戦できたことはとても価値ある時間となりました。ありがとうございます。 大西 功起|Atsuki Ohnishi
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Forest Bank はその時々の森の水たまりのように、その地域の森や採取する季節がそのまま表れてきます。今回みんなで岡田さんの森に入って、自由に森の素材を拾わさせてもらいました。森と人との関係を近づけてくれてる人が居て、スタートできるマテリアルだと思います。 また、製作工程は切削を除けば比較的誰もが「作り手」として参加できるものでした。「作り手」として関わったプロダクトの「使い手」にもなれるのは大切なことだと思いました。 これからもいろんな森のForest Bankが誕生していくことを想像するとワクワクします。 門井 慈子|Chikako Kadoi |