デジタル技術なしでは成り立たない設計と加工。3DスキャニングとARは曲がり木のあり方をどう変えたのか。
Overview
自然の造形の美しさを
デジタル技術で最大限に生かす
美しい曲線を描く広葉樹の曲がり木。その要因は様々で、光を求めて枝葉を次々に分岐させながら生育する過程で曲がる場合や、斜面の木々に雪の重みが加わり根元が曲がるという豪雪地帯ならでは理由が挙げられます。針葉樹も雪の重みで根曲がりを起こしますが、「頂芽優勢」という幹や枝の先端がよく成長する性質により、基本的には真っ直ぐと上に育ちます。
曲がり木は、人と自然が今よりも生活レベルで密接に関わっていたころには、その形を活かした梁として建築に利用されていました。現在は人の暮らし方とともに曲がり木の利用も変化し、チップとして加工されたのちパルプや燃料となって活用されています。
ヒダクマは曲がり木を活かすプロジェクトに、コンピュテーショナルデザインを用いた設計手法を得意とする建築家の浜田晶則さん、拡張現実(AR)を使った新しいファブリケーションの仕組みを研究する住友恵理さん、飛騨の職人と挑戦してきました。デジタル技術を駆使しなければ成り立たない手法は曲がり木の加工そして利用に再び変化を起こし、6本の丸太が互いに支え合い自立する構造物「Torinosu」が生まれました。
Project 野性的な美しさと触れたくなるような自然物としての存在感
What we did | 広葉樹の森レクチャー 曲がり木調査・調達 設計支援 製作・製作管理 |
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Credits | クライアント:カフェ「パンとエスプレッソとまちあわせ」(運営会社:株式会社じそく1じかん、株式会社日と々と) 設計:浜田晶則建築設計事務所 技術協力:ERI SUMITOMO ARCHITECTS 製作ディレクション:岩岡孝太郎、浅岡秀亮、門井慈子、黒田晃佑 製作:柳木材、飛騨職人生活 協力:飛騨市森林組合、奥飛騨開発 竣工写真:Gottingham |
Period | 2020年4月〜8月(制作期間) |
Viewpoint 建築家 浜田 晶則さんの視点
AHA 浜田晶則建築設計事務所
制作のための木を見に飛騨の森に行った。そこで斜面地に生える根曲がり木に出会った。それはとても伸びやかなカーブを描いていた。根曲がり木はかつて建築の梁などによく使われていたが、現在では使いにくい材としてチップにされていることが多いという。
製材された木は、蒸気で曲げることもできれば、3次元的に削ることによって曲面をつくることもできる。しかし森で根曲がり木を見たときに、生命力あふれるそのままの美しいカーブを厳密に設計の中に組み込んで扱うことができないかと思った。
木を3Dスキャンをして、複雑な形状を3次元的に扱い厳密に利用する。そしてHololensを用いたAR技術で墨出しを容易にし、高度な職人の技術とAR技術を組み合わせることによってこの構築物は成立している。Reciprocal frameの原理の構造によって、150kgを超える重い木が相互に支え合いながら自立している。
人類はこれまで自然がもつ形や力を、人間が扱いやすいように合理化して制御しようとしてきた。これからは自然と人間が豊かに、かつ高度に共生していく未来を描きたい。そんな世界を象徴するような構築物として、人々が生態系について思索するきっかけをつくることができればと思う。