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Column

社員の “あったらいいな” を形にした共栄鋼材の「コミュニティスペース」はどのようにつくられたのか?

FEATURED PEOPLE
登場人物
松本 英之
Hideyuki Matsumoto
共栄鋼材株式会社 代表取締役
秋田 将史
Masashi Akita
共栄鋼材株式会社 総務部
佐野 靖典
Yasunori Sano
共栄鋼材株式会社 営業部
柿木 佑介
Yusuke Kakinoki
主宰建築家
株式会社PERSIMMON HILLS architects共同主宰
門井 慈子
Chikako Kadoi
ヒダクマ 森を事業部 森のクリエイティブディレクター

Introduction はじめに

ここは自動車部品用素材の加工を行う、共栄鋼材株式会社(岐阜県可児市)の事務所2階にある「未来構想空間」と名付けられた場です。日常的に行われる会議はもちろん、社員がドリンクを片手に休憩したり、会社のお祝いごとや外部の方を呼んでのイベントにも対応できる、多用途な空間です。

この「未来構想空間」誕生のきっかけは、株式会社ロフトワークとFabCafe Nagoya、OKB総研によるオリジナル研修プログラム「未来構想スクール」でした。日本の自動車産業では安定した事業を長年継続している企業が多く、高い技術力を有するものの、電動化の波が押し寄せてきた昨今は需要減少の危機に面しています。そんな危機に対し共栄鋼材はいち早く行動を起こし、松本社長と12名の社員がこのスクールに参加しました。この一環で行われた飛騨合宿にてヒダクマは、スクールで習得した「変化に柔軟に対応できる社員を育てる」ことを社内に浸透できるような、コミュニケーションスペースを提案します。ここから社員が主役となり自ら考え、ゼロから形作っていくこととなる「未来構想空間プロジェクト」が発足したのです。

オンラインで開催した「変化を生み出すための共創」をテーマにしたイベントでは、この「未来構想空間」ができるまでのプロセスを紹介しました。本記事では、プロジェクト発足の立役者・松本社長をはじめとする共栄鋼材株式会社のプロジェクトチームの声、プロジェクトに伴走した空間・家具設計を担当したパーシモンヒルズ・アーキテクツの柿木さん、製作ディレクションを担当したヒダクマ門井による設計ポイントなどを取り上げ、まとめています。

Writing:石塚 理奈 Photography:長谷川 健太(竣工写真) Editing:ヒダクマ編集部 

【イベント概要】

■日時:2022年10月28日(金)

■登壇者:
松本 英之さん(共栄鋼材 社長)
秋田 将史さん(共栄鋼材 総務部)
佐野 靖典さん(共栄鋼材 営業部)
柿木 佑介さん(株式会社PERSIMMON HILLS architects共同主宰)
門井 慈子(ヒダクマ 森のクリエイティブディレクター )

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視野を広げ、“共栄鋼材らしさ”を育むコミュニケーションスペース「未来構想空間」

自由に発言できる闊達なチームづくりと、ものづくりからのサポートを

「1年前にはこんなことが実現できるとは思わなかった」と語る共栄鋼材の松本社長。未来構想スクールで自分たちがなりたい姿や課題を見つけ、その一環で実施した飛騨合宿で森から木が伐り出され、加工され、ものができるまでのバリューチェーンを目の当たりにします。こうしてヒダクマという新しい関係者と関わりはじめた共栄鋼材。
偶然にも、松本社長はヒダクマと同じ思いを抱いていました。

「新しい外の関係者が組み合わさることで、新しい共栄鋼材が築けるのではないか?そのためにも社内にコミュニティスペースがあったらどうかとのヒダクマさんの提案が、今回の『未来構想空間』に繋がったんです」

こうして「未来構想空間プロジェクト」が発足し、ファーストステップとしてヒダクマは共栄鋼材へ「機能を持たせた空間作り」を提案します。「外部の人を招いて講演ができるスペース、プロトタイプを作れる空間、それらをアーカイブできる場所。そういった習慣を作るための機能がしっかり整った空間を提案させてもらいました」と語るヒダクマ門井。

この提案に対して社員からは、「未来とは果たしてどこを指すのか?」「自分たちが使っていくという自己意識を、空間設計に併走して醸成したい」「それぞれが未来を考え、いつでも共有し合える関係が望ましい」という意見が出ます。

この前段階を経て見えてきたこと、それは「いきなり空間を作り上げて、ここから未来構想を考えよう、ではなく、空間を作ること自体も未来構想活動にしたい」という社員たちの思い。これを踏まえ、ヒダクマは基本設計の前にまずワークショップを設計、実施します。

社長と総務の秋田さんの他に、社内から幅広い部署と年齢層の社員15人をプロジェクトメンバーに選定。秋田さんはメンバーを選んだ理由についてこう語ります。「普段なかなか意見しないメンバーも、実際はいろいろな考えを持っている。そういう意見こそ、今までにないものを作ろうと思ったときに貴重になって来ると思ったんです」。

一方、ワークショップの設計・進行役を担当したヒダクマの門井は、初期段階でメンバー間の風通しの良い雰囲気づくりに努めます。

「最初のワークショップではまず、グリーンさん(社長)、アキさん(秋田さん)、やっさん(佐野さん)、カドチカさん(門井)とあだ名を付けたんです。普段とは違う関係性になってこそ言えることもあると思って」。こうしてフランクな関係性を築きながらグループワークを進めていったのでした。

「あったらいいな、こんな〇〇」についてのワークショップでは、フラットに全メンバーの意見を出し合い、その言葉をアーカイブに残します。「社員たちが大事にしているものを共通言語として書き分けていったんですが、これは後々、基本設計の軸にもなって行くんです」と話す門井。

ここで出てきた「信頼し合える関係」「高め合える関係」といった抽象的な言葉を、より自分ごと化できるよう、次のワークショップではレゴを使い「信頼」のイメージを具体的な形に表現していきました。ここでの収穫は「会社には違うバックグラウンドがある人が集まっているので、アウトプットもそれぞれが違う。違いを認め、会話をしないと分かり合えない」ということでした。

「あったらいいな」を具現化した設計プランとそこに込めた意図

柿木さんのメモ

「未来構想空間」のイメージがメンバー間で少しずつ固まってきた段階で、建築家の柿木さんがワークショップに参加。共栄鋼材の工場を見学し、プロジェクトメンバーの意見からインスピレーションを得て、今回改修する2階の空間イメージを具体的に設計に落とし込みます。

この空間ができる前は、1階は執務スペース、2階は多目的室として安全講習を行うエリアと、会議エリア、自販機や休憩時のトレーニング機器が設置されているスペースでした。多目的な機能はありつつ、この部屋をぐるりと壁が囲んでいたために、開けてみないと誰が何をしているのかがわからない部屋だったため、人の出入りの少ない空間になっていました。

「工場の人もオフィスの人も一緒に、気軽に休んで、交流できる場所を求められていました」とプランの背景を語る柿木さん。もともと十分な広さを保持していた2階の空間は、壁の解体から始め、家具と空間のスケールアップを提案します。「〇〇する部屋という固定概念を外して、各々が別々の価値を見出せる場所をオフィスのなかに埋め込もうと考えました。そしてワークショップで抽出された言葉をもとに、どんな家具が必要かを考え、『求心性、中心性、集まる意思』を表象できる形をつくっていこうと」

空間中心に円形テーブルを配置したこのプランについて柿木さんは、「既存のXY軸ではない、幾何学を持ち込んで中心性を持たせながら円ののびやかな広がりを持たせる、というのを同時に実現しようと思いました」と話します。

これを見た松本社長は笑顔でこう振り返ります。「これで間違いない!と思いました。多くの時間を一緒に共有することで、共栄鋼材のあったらいいなを、柿木さんに形にしてもらったと感じ、感動しました」。この言葉通り、細かな調整はあったものの、このスケッチがほぼ最終形となったのでした。

異業種、異素材が共に創る、鉄と広葉樹を掛け合わせた家具

会社を象徴するロゴと鉄のマテリアルから着想を得た巨大テーブル

柿木さんは空間設計のポイントとして次の点を挙げます。

「身体の向きがさまざまな向きになるように場所をしつらえました。座面の高さも高い、中間、低いなどとバリエーションを用意し、それぞれが自分の好きな場所を選べるようにしたんです」。

その言葉通り、みんなで集まって何かをする用途はもちろん、ひとりになってきちんと休憩したい、という相反するニーズを共存させた空間に仕上がりました。実際につくられたどの家具も、共栄鋼材の鉄とヒダクマが見立てた広葉樹のコラボレーションにより完成しました。

中央の「大きな丸テーブル」はシーンに合わせて自由にレイアウトできる

「空間の真ん中に配されたテーブルは可動式で、バラバラにしても使うことができます。またマニアックですが、家具の天板の小口処理は各所で変えているんです。小口は人が触れる部分なので、気づかぬうちに人の好みに影響を及ぼすのではと思い、ひっそり工夫を忍ばせています」

実際の使われ方について秋田さんは話します。「円形にしたパターンが一番使われますね。テレビ会議をするときはもっと近づきたいので、テーブルを動かし、中央にある鉄の大きな円のベンチに座って、向かい合わせになったりもします」

工場の休憩スペース(左)と未来構想空間の仕切り(右)

周りにあるカーテンについては、「もともと工場内にあった休憩スペースが、軽やかで居心地良さそうだなと思って。壁と扉で区切らず、暖簾や透け感のあるカーテンで仕切り、閉まっていても入りやすいようにしています」と柿木さん。

スクラップ材がシャンデリアに昇華する

パンチングメタルのシャンデリアが輝く様子

「この天井のシャンデリアはグループ会社が日頃打ち抜いているワッシャーのスクラップで出来ているんです。我々にとっては鉄鋼スクラップでしかなかったものが、ヒダクマさんが『これはパンチングメタルですよね』と仰ったときのことは忘れられません」と思い起こす松本社長。

秋田さんは「キラキラ光っているのが特徴で、上に映る影も素敵です。錆びないようにメッキ加工を施していますが、何色にしようかと相談しながら仕上げました」と話します。

さらに、「ワークショップで “あったらいいな” を出し合い、その本質を掴み、上手く形にしてくれたんだと使ってみて実感しています。柿木さんの斬新なデザイン力、表現力、遊び心。そしてヒダクマさんによる、木を使ってこんなことが出来るんだ、という見たこともない手法が各所に感じられる家具たちです」と、このチームの協働で生まれた家具について述べました。

異素材コラボレーションのディテール

空間を使い込んで、その先にある未来を描く

「(この3者で出来たのは)やっぱりご縁もあるし、直感的なものもありますよね。この人たちが好き、僕らのことも好きって思ってもらえている。こうした好き同士で創る空間は気持ちがいいです」と松本社長。

そんな空間ではランチ会を開催したり、植物に毎日水やりをしながら季節の移ろいを感じたり、ドリンクを補充する際に楽しい会話が生まれているようです。さらに、「『未来構想空間の今』として、お客様からのコメントを掲示し、外部の方にどう感じてもらっているのかを目で見て感じてもらうようにしています」と話す佐野さん。共栄鋼材にとっての当たり前の日常を、この空間が彩り、変化を与えていることも伺えました。

松本社長は当初のことをこう振り返ります。

「『未来構想スクール』から始まって、最初はこれで本当にいいのか?という悩みもありましたし、正直めちゃめちゃ手間も時間もかかるプロセスだと思うんですけど、その手間が愛着を生んだり、共栄鋼材にしかない空間を引き起こせたなと思っています」

また「工場部の社員も一緒に製作に協力し、それをみんなで使うことは初めての経験だったので思い入れがある」と語った秋田さん。部署の垣根を越えた協働作業により生まれ、自社の扱う素材を随所に感じ触れられる空間は、さまざまなシーンで使い込まれていくことでしょう。

「未来構想空間」が今後、家族や地域にもその扉を開き、ヒダクマはじめ多くの関係者を巻き込みながら、共栄鋼材らしい未来を描いていくことを願っています。

 

 

社員とともにつくる空間づくりをお手伝いします。

ヒダクマでは、オフィス・店舗・共創空間の設計・製作をサポートします。チームビルディングのためのワークショップの設計・運営、飛騨での社員研修・合宿プログラムの提供も可能です。
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組織の変化を、社員と共に起こす「ベクトルを合わせる」(2022年 11月発刊

OKB総研が発行するニュースペーパー「KBC TIMES」で、共栄鋼材の未来構想プロジェクトのプロセスや空間の魅力、社員の変化を共栄鋼材の松本社長はじめ社員の皆さんの声とともに紹介。ヒダクマ代表・岩岡のインタビューも掲載されています。(OKB総研Webに飛びます)

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