#制作秘話
Column

小径木の端材を活用したテーブル「あおまめ」「はなまめ」

FEATURED PEOPLE
登場人物
山道 拓人
Takuto Sando
法政大学デザイン工学部建築学科山道拓人研究室
ツバメアーキテクツ
板坂留五
Rui Itasaka
建築家
法政大学デザイン工学部都市環境デザイン工学科教育技術員
田中 一也
Kazuya Tanaka
田中建築/代表
門井 慈子
Chikako Kadoi
ヒダクマ 森を事業部 森のクリエイティブディレクター

Introduction はじめに

ブナ、ミズナラ、クリ、ホオノキ、ヤマザクラなど11種類もの広葉樹の小さな板が寄り合って繋がった2台のテーブル。外径に独特なカーブが連続するテーブル、名付けて「あおまめ」と「はなまめ」。その形状もさることながら、天板を構成する板の木目や節といった個性が目を引きます。

このテーブルは、法政大学デザイン工学部建築学科山道拓人研究室のプロジェクト。山道さんと板坂留五さん(建築家/同学部都市環境デザイン工学科教育技術員)が監修し、法政大学内で有志を集めてコンペとして実施。最終的に建築学科の大岩樹生さんと都市環境デザイン工学科の森谷光緒さんがデザインを担当しました。

元を辿れば様々な点で森と繋がっている都市における暮らしの中で、いかに森と人との距離を縮めるかを考え、個性に満ちた小さい板を集めたテーブルとなりました。

小さい板、言ってしまえば端材です。端材は例えば、一枚板から家具用の板を木取るとき、強度などの条件から外される部分として生じます。しかし、その中にはユニークな木目や表情がたくさんあります。

今回のプロジェクトの一つのチャレンジは、その端材のポテンシャルを最大限活かしたプロダクトをつくることでした。見た目や手触りだけではなく、それぞれのパーツの角をあらかじめ切り落として丸くすることで、樹種の違いによってパーツ同士が暴れても角が出ないように配慮されています。

製作にあたり飛騨を訪れたメンバーは、板の配置や加工の度合いを飛騨の職人と相談。メンバーそれぞれが木に愛着を寄せ、ときに職人の仕事に見入り、ときに作業に加わり、テーブルが完成しました。

【プロジェクト概要】

  • 支援内容
    木材コーディネーション・家具設計製作・家具製作ディレクション
  • 期間
    2021年04月〜2022年02月 
  • 体制
    監修:山道拓人(法政大学デザイン工学部建築学科山道拓人研究室/ツバメアーキテクツ)、板坂留五(建築家/法政大学デザイン工学部都市環境デザイン工学科教育技術員)
    デザイン:大岩樹生(法政大学)、森谷光緒(法政大学)
    木材コーディネーション・家具設計製作・家具製作ディレクション:岩岡孝太郎、門井慈子
    製作:田中建築

Outputs
木の固有性を際立たせたRと配置

あおまめ(左)とはなまめ(右)
2台の曲線を合わせ切らないことで定位置がなくなり、様々な寄り添い方ができる
台の脚の高さを変えた場合の使い方

リズミカルな配列で接ぎ合わされたテーブル板は、寒色系の樹種と暖色系の樹種を振り分けたことで、異なる二種類の雰囲気をまとっています。種ごとで異なる色味や表情をふたつに分類した、広葉樹が持つ種の多様性をより体系的に示すデザインです。各板が固有の木目や表情を持つ意味では不均一であるものの、全ての板に外径の曲線が与えられることで、不思議な一体感が生まれています。

あえて外径に配置したクルミの節

樹種や性質によって異なる膨張・収縮といった動き方に対応するために、横方向の継ぎ目の角にRを付けて削り落としました。天板の随所には、節や割れといった目を引く表情を配置。角の加工と木の個性、この二点により、単に接ぎ合わされたテーブルとは異なり、ユニークさを発揮した多樹種の集合体であるような印象が際立っています。

通常であればはじかれる大きな割れ

<あおまめ 仕様>
素材:ホオノキ、トチ、クリ、キハダ、ミズナラ(天板と脚)
(他のプロジェクトで発生した短材を中心に利用)
サイズ:W970mm D 650mm H 30mm
仕上げ:使用者によるミツロウ仕上げ、浸透ガラス塗装(脚のみ)

<はなまめ 仕様>
素材:ミズメ、ケンポナシ、クルミ、シュリザクラ、ヤマザクラ、ブナ、ミズナラ(脚のみ)
(他のプロジェクトで発生した短材を中心に利用)
サイズ:W970mm D 760mm H 30mm
仕上げ:使用者によるミツロウ仕上げ、浸透ガラス塗装(脚のみ)

Process
飛騨だからできる、関係づくりと家具づくり

プロセスの途中、メンバーたちが飛騨を訪れました。森のことや、そこから生まれる木材産業や木工技術を知りながら、まめテーブルの天板を完成させるための滞在です。製作ディレクターの門井は、訪問先のリアルな空気を肌で感じてもらうことで、「形をつくる」ではなく飛騨との「関係をつくる」ためのプログラムを組みました。

テーブルの製作を依頼した田中建築の工房では、樹種の配置を検討。「この節は入れたい」「この木目とこの木目をつなげてみたい」といった会話の中で、田中建築の田中一也さんが希望通りにその場で板をカットします。寒色系の「あおまめ」の配置が決まり、メンバーが暖色系の「はなまめ」の検討に移る中、その横で「あおまめ」の角Rを着々と進める田中さん。

正確さが求められるクランプでの接着。小さな板を天板にしていく職人の作業を見守る

板同士の接着は、まず短手をビスケットで接着し、接着剤が硬化したのち長手方向をビスケットで接着するという手順。シンプルな工程に聞こえますが、接着前には面取りや接着痕を防ぐマスキングなど、細かな作業が発生します。田中さんの所作を観察しながら、デザインをしたメンバーも作業に加わりました。

ヒダクマ岩岡や浅岡によるレクチャーも。その他スタッフとも交流
広葉樹の使われ方や個体差を解説する西野製材の西野さん

土場と製材所にも訪れ、原木や製材された板を観察。種だけでも豊富な広葉樹が、それぞれの種でも個体差を持つことを実感します。ヒダクマワークスペースでは二又の木や、曲がり木、樹皮などにも触れ、木という素材に生々しい情報が加わる時間が過ぎました。

田中建築の工房を再び訪れる一行。外径がカットされた天板の面取りを、田中さんとメンバーで加工の度合いを話し合いながら進めました。

木あるいは板が持つそれぞれ固有の魅力に、見る人の視線はときに釘付けになります。飛騨は、木という素材のそうした性格に、製材やものづくりといった仕事で丁寧に関わり続ける職人たちと出会える地域です。その瞬間を目にし対話した短くも濃密な滞在の終わりに、まめテーブルの天板ができあがりました。

Member's Voice

今回は、日本における森林の状況を議論することから始めました。それから材料は何を使うのか、その材料はどこから来るのか、作る手順をどうするか、乾燥収縮などの時間的な変化をどう取り込むか、など非常に多くの変数を扱いました。
こういった観点でデザインに取り組むと、学生自身も、いつの間にか自分が引く線が、資源に関わるネットワークの再編をしていたり、環境に対する自分の立ち位置を変えていたり、思考の補助線になっていることに気づいたことでしょう。さらにそれが妄想で終わらないように、現場との生々しい議論を繰り返すことで、ようやく実際のプロダクトに結実しました。
2022年は、さらに難しいお題を設定し、活動を継続していこうと思います。

山道 拓人
法政大学デザイン工学部建築学科山道拓人研究室/ツバメアーキテクツ

自分達が自由に描いた絵が、誰かの手を通して実際の物として出来上がって目の前に現れる経験は、結構感動的で特別な出来事です。学生のふたりにとっては初めてで、きっと嘘とか魔法みたいな出来事だったのではないかと思います。
パソコンで図面を書いている時は、木材を〈群〉として捉えて、反りなどの経年変化に対するディテールの検討を行い、工房へいくと、今度は木目や色、節や穴が全て違う〈個〉として木材に触れて向きや配置を決める。と思えば、山に連れられ、資源の循環やまちのあり方を体感する。
そうやって木を軸にあっちへ行ったりこっちへ行ったりしながらも、まとまりあるひとつ(ふたつ)のテーブルを作り上げられたことを誇りに思って、これからも進んでいってもらえるといいなと思います。
見るたびに、ヒダクマさんとのやりとりや、田中建築さんの工房の匂い、いろんな広がりを想像させてくれるテーブルになりました。

板坂 留五
建築家/法政大学デザイン工学部都市環境デザイン工学科教育技術員

建築の観点からすると節や割れは、あとあとどうなるか分からないので、使うことをなるべく避けようとします。ただ、跳ね除けられる部分も面白いので入れたい。その発想は自分自身も好きなので、トラブルにならないように加工するベストな方法を考えました。
工場に来てくれたメンバーが真剣そのものだったので、こっちも真剣になります。木が好きで学んだりしている人からその場で相談を受けて、こちらも木が好きな者としてその場で考えて応える、とても良い刺激のある製作でした。

田中 一也
田中建築 代表

「ここの木目は活かしたい!」「逆にこっちの綺麗な柾目もいいな」「この割れを入れたいんだけど、そうするとこっちの節が入らないなぁ」
今回のテーブルはそんなポテンシャル豊かな端材が、切って、揃えて、繋がって、でっこみひっこみ心地のいいスポットだらけのまめテーブルを形作っています。
フンッと呼吸を合わせて緻密にズレが生じないようにトントンと優しく木を揃えていく丁寧さと緊張感。田中さんの木の触れ合いを見つめる皆さんの眼差しが印象的でした。
作り手の使い手が交差したテーブル。これから研究室で多くの方々に囲まれていくことを嬉しく思います。

門井 慈子
ヒダクマ

写真:門井慈子
文:志田岳弥

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