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Column

ツバメアーキテクツの千葉さんと考える、木(もく)のアクセシビリティとソーシャル・テクトニクス(前編)

FEATURED PEOPLE
登場人物
千葉 元生
Motoo Chiba
ツバメアーキテクツ 共同代表
岩岡 孝太郎
Kotaro Iwaoka
ヒダクマ 代表取締役社長/CEO
浅岡 秀亮
Hideaki Asaoka
ヒダクマ 森を事業部 森のイノベーター

Introduction はじめに

ツバメアーキテクツは、設計業務を行うデザイン部門と、設計の枠組みや竣工後の利用についてリサーチを元に考えるラボ部門を持つ建築設計事務所です。ヒダクマは3月18日、ツバメアーキテクツの千葉元生さんをゲストにお招きし、同事務所の設計に対する考え方や、建築や家具を通じてモノとモノ、あるいはモノと人をつなげるとはどういうことなのか、といったことを考えるオンラインイベントを実施しました。

キーワードは「木(もく)のアクセシビリティ」と「ソーシャル・テクトニクス」

イベントレポート前編では、千葉さんに解説していただいたツバメアーキテクツの取り組みを事例とともに紹介します。

【イベント概要】

開催日時:2021年3月18日(木)16:00-17:30 

会場:オンライン開催(Zoom)

スピーカー:
千葉元生(ツバメアーキテクツ)
岩岡孝太郎(ヒダクマ)
 浅岡秀亮(ヒダクマ)

主催:株式会社飛騨の森でクマは踊る

「森を身近にする木のソーシャル・テクトニクス」

現代建築史(ケネス・フランプトン著) 有名な建築史家でケネス・フランプトンという方がいます。そのフランプトン氏はテクトニクスを「重力の作用に逆らって物質をそこに定着させる建築的手法。そのモノとモノの結びつきのあり方」と言い表しました。 「建築というのは色々なモノを組み合わせてつくるものです。その組み合わせの手法を“テクトニクス”と呼んで、彼は現前という言葉を使ってますけど、それを表現することが、建築をつくる上で重要という話をしています」(千葉さん)
千葉さん:

有名な建築史家でケネス・フランプトンという方がいます。そのフランプトン氏はテクトニクスを「重力の作用に逆らって物質をそこに定着させる建築的手法。そのモノとモノの結びつきのあり方」と言い表しました。

「建築というのは色々なモノを組み合わせてつくるものです。その組み合わせの手法を“テクトニクス”と呼んで、彼は現前という言葉を使ってますけど、それを表現することが、建築をつくる上で重要という話をしています」

ツバメアーキテクツが実践するソーシャル・テクトニクス

資料提供:ツバメアーキテクツ
千葉さん:

「私たちはそれ(テクトニクス)に加えて、建築というのは単純なモノとモノの組み合わせだけでなく、様々な要素の組み合わせで成立すると考えてます」と千葉さん。その要素として、Micro、Macro、Material、の異なる3つのスケールとTimeを挙げました(図参照)。

「例えば建築を考えるときには、風や光をどのように取り入れるかあるいは、どの程度の二酸化炭素が排出されるかなど、Macroな要素との関係性があります。同時に、建築が建つ地域の文化や伝統といったMicroな条件も考えなければなりません。また、Materialと呼んでいるのは利用する人やモノなど、より小さな条件で建築に関わる要素のことです。そういった要素をバランスさせて、歴史といった時間軸の要素(Time)も考慮しながら、その関係性をどうバランスさせるのかが建築だという認識で設計しています。そうした認識で持って建築を捉えることを私たちはソーシャル・テクトニクスと呼んでいます」

ヒダクマが関わった3つのプロジェクト

千葉さんには、ソーシャル・テクトニクスの視点から、これまでヒダクマが関わった3つのプロジェクトを紹介していただきました。

KINOKO

©Motoo Chiba
©Motoo Chiba

一本脚を持つ円弧を、割れ対策に使われる「千切り」で連結した「KINOKO」。飛騨の森という土地が持つ、樹種が多様で小径木が多いという特徴、職人が持つ木工技術といった人的資源を組み合わせ成立したKINOKOは、木材流通の連関を可視化しています。また、大きさも樹種も異なる円弧を組み合わせたデザインは、そのときどきの森の状況を家具として体現するものといえるでしょう。

BONUS TRACK

提供:ツバメアーキテクツ

「BONUS TRACK」は、東京・下北沢にある、地下化した小田急線跡地につくられた商店街のような場所。大きな建物が既存の街と空間的な断絶を起こしたり、大手チェーンのみが入れるような家賃設定になりがちなこれまでの都市開発ではなく、下北沢の特徴である小商いが盛んな街並みを引き継ぐ開発コンセプトに基づいた設計がされています。

千葉さん:

設計のひとつ目のポイントは「5坪(店舗)+5坪(住宅)から始める職住一体の小商い」。BONUS TRACKを構成する5つの建物には全て、店舗と住宅のセットが3区画ずつ入っています。

「小さな区画ですが、その代わりに自由に使える外部空間は大きく取られています。外部空間は各店舗が自由に使ってよく、それぞれが家具や屋台を出して外に客席を広げていけるようにしています。ここでは働いてる様子や住んでいる様子、また住宅地の中にあるので近隣の人がふらっと散歩しにくる様子など、働く場所が日常的な風景の中に混在する面白さが生まれています」

©morinakayasuaki
千葉さん:

ふたつ目のポイントは「建物の改変・街並みへの参加を促す仕組みづくり」。

ツバメアーキテクツは、下北沢の街並みを引き継ぐ設計を考える際、場所をデザインしつくすのではなく、入居者自身が手を加えられる余地を残そうと考えました。そのためにまず、下北沢の街で起きている改変や店のつくりなどをリサーチし、同じ状況が生まれるような下地としての建築のしつらえを検討したり、改変のルールづくりを行ったそうです。

「この時に考えたのは、素材にアクセシビリティというか、人の関わりやすさみたいなものがあるということでした。コンクリートや鉄は固くて腐らない、そして加工しづらいですが、耐久性の高いものができます。ですが、人のアクセシビリティは低い。布や木というのは柔らかく、腐ったりもしますが、人が簡単にビスを打ったり、加工したりしやすいです。なので、入居者にいじってもらう部分には木を多用して、その下地としてつくる部分に鉄とかコンクリートを使うつくり方をしています。そういう風に考えると、木のある場所は人が関わる余地を生み出すようなものとして考えられるんじゃないかと思います」

庇は入居者が変えられる仕組み。鉄のフレームをつくり、そこから先は入居者自身が木製下地をつくって屋根を仕上げるといった実践が生まれている ©morinakayasuaki
バリアフリーな手すり。上部に木を張れる形にしたことで、夜になると人が滞在し、飲食を楽しむ場所になった。介助が必要であれば、滞在者が自然と手を差し伸べることができる ©morinakayasuaki

リノア北赤羽

街とのつながりを考えた、開放的なエントランス ©️Kenta Hasegawa

147個の部屋がある社員寮だったものを分譲住宅に改修したのが、昨年11月に竣工したリノベーションマンション「リノア北赤羽」です。そのプロジェクトでツバメアーキテクツは、住民がカフェを出店できるスペースや音が出せる空間など、5つの共用部分をデザインしています。

セミプロ用の洗濯機を設置した共用部分は家事を拡張するとともに、住民同士の交流の場にもなる ©️Kenta Hasegawa

カフェが出店できる共用部分の家具には、一度粉砕した木材を再形成した素材「ストランドボード」を使用。3mmや5mmといった厚みのボードを積層させることで、地層のような表情を持ったカウンターや可愛らしい楕円のちゃぶ台まで、様々なサイズの家具を製作しました。

©️Kenta Hasegawa
8種類の広葉樹をはぎ合わせて製作した直径3mにおよぶ巨大なテーブル ©️Kenta Hasegawa
千葉さん:

「共用部分には住民の部屋にないようなサイズの家具や、特殊なしつらえが生まれてくるところを、木という素材を組み合わせて連続させることで、木の幅といった制約に縛られずに全く違うスケールのものをつくることができます。リノア北赤羽では、そういった共用部分の使われ方とマッチしたつくりの家具を考えました」

千葉さんの解説からは、様々な要素を考慮し織りなすことで、建築や家具がただ使用されるのではなく、使用者との間の双方向性の中で生かされていくということが分かります。イベント後半のトークセッション「主体性を喚起するテクトニクス」では、ヒダクマの岩岡と浅岡が加わり、千葉さんとともに、主体性と建築物や家具といったテーマや、森と人のつなぎ方について談義を重ねました。トーク内容は、ツバメアーキテクツの千葉さんが考える、森を身近にするソーシャル・テクトニクス(後編)にまとめていますので、ぜひご覧ください。

 

森を身近にするソーシャル・テクトニクス(後編)

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