ダイナミックに跳躍する曲げ木什器製作
制作本部プロダクトマネジメント部
文化開発ユニット プロダクトディレクター
エクスペリエンスマーケティング事業ユニット2 デザイナー
Introduction
はじめに
桜が咲き誇る春の東京、原宿の『THE NORTH FACE Mountain』(東京都渋谷区)のウィンドウと店舗内に、ダイナミックな形状の什器が期間限定で設置されました。最新のテクノロジーの搭載し「解き放たれた推進力」を実現したトレイルランニングシューズから着想を得て、イベント・展示会の空間デザインを行う株式会社博展(以下、博展)がデザインを担当。ヒダクマは全製作工程を統括し、広葉樹を曲木技術で成形した什器製作に飛騨の職人とともに奮闘しました。
山の急斜面で育つことから加工前は細くて曲がりくねった形状であるため、一般的には扱いにくく、家具用材になりにくい飛騨産の小径木。ヒダクマは、野性味溢れる小径木にポテンシャルを見出し、積極的に活用することを試みます。その魅力を製作パートナーたちへ伝えながら、幾多の実験を経て、極限まで薄さに挑戦した結果、躍動感のある造形と木目が目を引く什器が完成しました。
山の急斜面で育つことから加工前は細くて曲がりくねった形状であるため、一般的には扱いにくく、家具用材になりにくい飛騨産の小径木。ヒダクマは、野性味溢れる小径木にポテンシャルを見出し、積極的に活用することを試みます。その魅力を製作パートナーたちへ伝えながら、幾多の実験を経て、極限まで薄さに挑戦した結果、躍動感のある造形と木目が目を引く什器が完成しました。
【プロジェクト概要】
- 支援内容:
木材コーディネーション・製作・製作ディレクション - 期間:2020年9月〜2021年1月
- 体制:
クライアント:博展
プロダクトマネジメント:熊崎 耕平 (博展)
デザイン:青栁 龍佳 ・志波 友樹 ・西村 直気(博展)
木材コーディネーション・製作・製作ディレクション:門井 慈子(ヒダクマ)
製作 : 博展、中央産業株式会社、飛騨無垢屋、飛騨職人生活
スケール感と薄さを追求した先に見せる、木の新しい一面
曲木什器
<置き型仕様>
材料:ナラ/トチ サクラ/クルミ
台数:5ウェーブ一組
サイズ:W50~300mm / L6,000mm程 / t6mm
仕上げ:オイル
<吊り型仕様>
材料:ナラ/トチ サクラ/クルミ
台数:3ウェーブ二組
サイズ:W50~300mm / L2,500mm / t6mm
仕上げ:オイル
店舗内装空間に合わせ、飛騨産材のナラをメインに使用。ダイナミックな動きを感じさせながら荒々しい木目が活かされるよう加工しています。曲率を安定的に固定するため、3mmの薄板2枚重ねの仕様にしました。その際、色のコントラストを出すことで側面小口の薄さが際立つと考え、異なる樹種を合わせることを考案。上面の渋い色味のナラに対し、下面に白い色味のトチを合わせることで、軽やかな印象を持たせました。
置き型のアクセントとして配置したW50mmの細いウェーブには、優しいピンクの色味のサクラ、赤茶系のクルミを採用し、全体に対してアクセントの役目を担っています。
いずれも支柱は用いず、床との接着面にアクリル板を貼り付けずれないように固定。まるで什器全体が浮いているような印象です。
吊り型はサイド、真中の3箇所でテグスで吊るし、しなやかさと軽量感を表現しました。
看板
<仕様>
材料:ナラ
台数:1台
サイズ:W2000mm×H600mm×D200mm
仕上げ:オイル仕上げ
有機的で波打つ木を背景に、新商品のテクノロジーの名称を示すネオンサインは、博展の高い技術力を持つ製作チームによりつくられました。ヒダクマは木材コーディネーションのみを担当。
Process
有機物である木を極限まで薄く、軽く見せるための実験
「新製品のシューズを展示するための、軽やかでしなやかな什器をつくりたい」。クライアントからこんな依頼を受けた博展のデザインチームが起こした意匠デザインは、木を素材として採用したものでした。これを見たプロダクトディレクターの熊崎さんは、ヒダクマ門井へ製作の相談を持ちかけます。熊崎さんはちょうど『飛騨市・広葉樹のまちづくり』ツアーにも参加し、森や製作の現場を訪れ、広葉樹の特性とその可能性を感じていたのです。
木でどこまでの薄さ・軽さにチャレンジできるかを目指し、ヒダクマは早速1ヶ月に及ぶ試作を開始。細く曲がった木が多い飛騨の広葉樹のなかでも、どの樹種が適しているのか、どこまで曲げることが可能なのか、リミットを知ることでそれに合わせた工法を見つけていこうと考えました。
6mmの無垢板をまず水に浸し、一度蒸してから曲木の機械に投入。高周波の熱を加えることで形を固定していきますが、蒸す過程で焼きむらが出てしまいます。
そこで蒸さずにそのまま機械に投入できる3mm板を二層にし、間に接着剤を入れてプレスする工法へ変更。電子レンジのように木の水分を飛ばし、かつ接着効果も有し、この方法であればどんな樹種も曲げられそうである、という展望が開けてきました。
ここから、どのくらいの長さにするか、切り欠きをどう作るか、といったテーマが浮かび上がります。
試作のチェック、そして曲木の型をオリジナルでつくる
こうしてオリジナルの型に鉄板を取り付け、曲面加工の成型合板を生産する中央産業へ運びます。コロナ禍の影響もあり、合板製作パートナー探しに苦戦していた折、同社の長瀬さんからは「やってみないとわからない」との回答が。この一言が決め手となり、製作をお願いすることに。持ち込んだ型を用いてのテスト作業では、高周波の温度を適宜調整し、その熟練の技術により、二層の板が綺麗に曲がりました。
試作に1ヶ月をじっくりと費やしたことで、納品物のイメージや収め方、生物である木の動き、図面とのずれなどを、事前に博展側と共有し、すり合わせることができました。
合板をつなぎ合わせて巨大なウェーブを生み出す加工
こうして試作を終えた後、1.5ヶ月というタイトなスケジュールの本製作に突入しました。
完成した曲木の合板を、飛騨職人生活へ運びこみ、6mの長さに繋げる加工を木工職人の堅田さんへ依頼します。二層の上下の樹種指定、接着点を確認できるよう図面を共有し、製作が進められました。
置き型の幅の広いタイプの什器は横はぎをする際にボンドがはみ出てしまうため、綺麗に切り落とす必要があります。さらに最終幅に合わせる加工、木端に接着剤を挟みクランプで固定、最後に研磨をして4つの板を一体化させる加工が行われました。こうして急ピッチの本製作が無事完了します。
実験的プロジェクトから得られた、広葉樹の新しいマテリアルとその可能性
ヒダクマにとって初めてのチャレンジとなった曲木の製作プロジェクト。人目による細やかなチェックが必要な曲木製作ですが、型を持ち込み、通常使わない多種類の木にトライしてくれた中央産業。薄板の製作を担当してくれた飛騨無垢屋、巨大な什器に仕上げる加工を担ってくれた職人堅田さん。そして広葉樹の個性を理解し、スピーディーにデザイン・製作してくれた博展のみなさん。こうした製作チームの連携がヒダクマの新しい挑戦を成功へ導いてくれました。
株式会社博展
博展は、イベントやショールーム等を中心に、企業・団体のマーケティング、ブランディング活動の支援をするExperience Marketing Companyです。人と人が出会う“場”と、そこで生みだされる”体験”を、より価値あるものにするために、“コミュニケーション”に関わる様々な「表現」「手段」「環境」を“デザイン”しています。 より良い「Communication Design®」を通して、感性あふれる豊かな社会づくりに貢献すること。それが私たち博展のミッションです。
https://www.hakuten.co.jp/
Member’s Voice
始まりはプライベートでFabCafe Hidaを訪れ箸作りを体験した際に「広葉樹って綺麗だなー」と感じてから、いつか広葉樹で何かをご一緒して製作したいと考えていました。
今回は、展示製品の特性をストレートに伝えるために木材の軽さやしなり、薄さ、といった要素が上手く生かせたプロダクトに仕上げられたかなと、嬉しく思っています。
人間の加工技術だけでは表現できない歪みや伸縮など、木材の良さが存分に生かせたのかなと。
今後も、木材の新たな可能性を考え、提案し、木材を生かしていければなと思っております。
また、木材を通じてヒトの繋がりをつくっていければと。皆さん、また飛騨で会いましょう!
熊崎 耕平
株式会社博展
制作本部プロダクトマネジメント部
文化開発ユニット プロダクトディレクター
広葉樹の、香り、手触り、しなやかさなどの特徴と面白さを、五感で感じながらデザインできる、貴重な機会をいただきました。
今回出来上がった曲面の造作は、人間の手で作り上げたものとはいえ、木という素材そのものが持つ力によって生み出されたかたちです。だからこそ、軽やかで、しなやかで、しかし力強い、不思議な美しさを持ったものに仕上がったと思っています。
木という素材は身近でよく使用しますが、今回のように素材の特性そのものを突き詰めたり、樹種を細かく選定したりなど、ヒダクマさん、飛騨の職人さん方にご協力いただいたことで、非常に贅沢な経験をさせていただきました。飛騨の木、飛騨のひとに感謝です。
この体験をきっかけに、人間中心のデザインから、少しずつ、木や自然などに還元できるようなことに目を向けていけたらと思います。
志波 友樹
株式会社博展
エクスペリエンスマーケティング事業ユニット2 デザイナー
飛騨の広葉樹という自然素材を使うので、ただ作って終わりでなく育った命を絶ってまで使うのですから、その生命や表情を、どう生かして仕上げるかを、大事にしつつ制作しています。
時々「この材料、寸法足りないから、取れないよ!」といっても、ヒダクマさんは「あっいいです。そのまま使って下さい。」と返ってくる飛騨の木は小径木が多いので、多少の寸法違いは、致し方ないと……
しかし、完成したものは、ビビッと来るような、有機的な美しさ!を失わない完成度で仕上がっていきます。
僕たち職人も、毎日そんな木と向き合ってるので理解してるのではなく、常に勉強しながら関わらせて頂いてます。
堅田 恒季
飛騨職人生活
木は生活空間に溢れているからこそ、人にとっての木の姿は様々だと思います。
【木】から想像するものが、プロダクトアウトされた静物としてでなく、元々の森に生えた生物としての木の姿をイメージするきっかけに、この什器がなれば嬉しいなという思いで製作していました。
志波さんや熊崎さんたちが飛騨に来てくれて、木の割れや節などの(なぜか嫌われがちな)チャームポイントを「かっこいい・面白い」と受け取ってくれて、素材として多く入れていくことが出来たからこそ、生物の様な躍動感が宿り、木で作られているんだけど、木っぽくない、けれども木でしか出せない表情を出せたのではないかと思います。
門井 慈子
ヒダクマ
森のクリエイティブディレクター