#制作秘話
Column

鈴与本社オフィスを通して見えた小径広葉樹の活用法

FEATURED PEOPLE
登場人物
後藤 周平
Shuhei Goto
高橋 卓
Suguru Takahashi
株式会社ロフトワーク Layout Unit プロデューサー
浅岡 秀亮
Hideaki Asaoka
ヒダクマ 森を事業部 森のイノベーター

Introduction はじめに

2019年9月にオープンした本社5階CODO、別館オフィスの空間は、建築家の後藤周平さんによる設計。ヒダクマは、後藤さんの思い描く形を木で表現すべく、木材コーディネーション・家具製作ディレクション・家具製作を支援しました。
本記事では、このオフィスの空間・製品ができるまでのプロセスにフォーカスし、広葉樹を有効活用するためのアイデア、製作した実験的なサンプルの数々を紹介します。

Outline

鈴与本社リニューアルプロジェクトで生まれた、木を有効活用した製品ができるまで

創業から200年以上にわたり、環境に応じて常に社会から必要とされる企業を目指し、変革し続ける物流大手・鈴与株式会社。静岡県清水区にある同社のオフィスリニューアルプロジェクトで、飛騨の木を使った家具を導入しました。
鈴与は2018年5月から株式会社ロフトワークと共同で、本プロジェクトを始動。少子高齢化や人手不足、新しいテクノロジー、時代に即したワークスタイルなど、急速に変化する状況において、働く環境と社員の意識の両面からアプローチする働き方改革です。

Process

新しい木取りルールで、廃棄を激減することに成功したフローリング

オフィス空間に広がる広葉樹フローリング。表情豊かなフローリングを広葉樹で作るために、まず必要だったのは、木取りのルールづくりからでした。

広葉樹は非常に多種多様な「自然物」です。全く同じ品質の木目やサイズ、まとまった在庫はありません。さらに、曲がっていたり節や染みがあったりと大量生産の観点では非常に効率が悪いのです。この規模のフローリングを作ろうと思うとおそらく材料は足りなかったりコストがかかったりするでしょう。しかし、これらの問題を解決できれば私達のミッションである「広葉樹の流通」を実現できることに繋がるのではないかと考え、知恵を絞りました。
そこで考案したのが、「70・90・110」という規格サイズです。
従来の方法は、ひとつのサイズ(例えば、100ミリ幅のフローリング材)でフローリングをつくることでした。

しかし、板の幅は150のものあれば200のものもあり、1枚の製材板から効率よく取れる木もあれば、2枚しか取れないというケースもあります。結果、見込みよりも1.5から2倍の量の木が必要となる場合があります。
「70・90・110」という規格サイズは、幅を一定にせず、あえて3種類の幅でつくることで、板材ごとに最もロス無く木を取れる仕組みです。

木材は一定の樹種だけを使うのではなく、近しい樹種をミックスすることで足りない木材を補い、それを効率的な木取りのルールで加工することで、廃棄率を激減させることができました。また、異なる樹種が混ざることで現れる独自な表現を生み出すこともできました。

多様な木の個性を発見する、広葉樹フローリングの樹種の組み合わせ実験

様々なサンプルを後藤さん(写真左)に紹介するヒダクマの浅岡(写真右)
施工の様子

建築家の後藤さんにヒダクマが提案するため、実験的に製作した様々な樹種で組み合わせたフローリングのサンプルは全部で27種。以下に特徴的なものを紹介します。
(鈴与オフィスの広葉樹フローリングでは、「ブナ科ミックス」、「白系樹種ミックス」、「サクラ系広葉樹ミックス」が採用されました。)

ブナ科ミックス

材種:ブナ、ナラ、クリなど
貼り方:サネ板ななめ張り
仕上げ:クリアー
ブナ科の樹種の組合せで、飛騨で最もよくとれる樹種。重厚で耐久性が高く、色々な家具に向いています。経年変化で、ナラ、クリがどんどん濃くなっていき、ブナは白さを保つので、年月が立つとコントラストがつきます。

経年変化する木のミックス

材種:ホウノキ、クリ、サクラ、キハダなど
貼り方:サネ板 ストレート貼り
仕上げ:クリアー
タンニンという物質を含んだ木は、空気中の水分と反応することで色が濃くなっていきます。年月を経るごとにより深みと味わいが増すような、変化を楽しめる木。水に強いという性質も持っています。

荒々しい木目を持つ環孔材ミックス

材種:ナラ、ケヤキ、ニレ、タモ、クリなど
貼り方:サネ板ストレート張り
仕上げ:クリアー
管が太く、荒々しい木目を持つ「環孔材」系樹種の組み合せ。木目輪郭が強く、汚れが目立ちにくいです。ツルツルすぎず、適度なザラつきをもった質感。硬くて耐久性があります。

飛騨の森の広葉樹 ヘリンボーンミックス

材種:クリ、サクラをベースとした様々な樹種
貼り方:サネ板ヘリンボーン貼り
仕上げ:クリアー
飛騨で取れる広葉樹の生態系バランスを反映した組み合せ。クリ、サクラをベースとし、差し色で他の様々な樹種を混ぜています。落ち着いたカラフルさをコントロールすることも可能。これらの木をバランスよく使うことが森をつくることに繋がるという、ストーリー性を持った組み合せでもあります。

白系樹種ミックス

材種:ミズメ、トネリコ、カエデ、センなど
貼り方:薄板板ストレート張り
仕上げ:白木仕上げ
白っぽい木肌を持つ樹種の組み合わせ。淡い感じのトーンに仕上がります。反射を抑えた白木仕上げで、目に優しく疲れにくい効果も。

サクラ系広葉樹ミックス

材種:サクラ、ミズメ、ホエビソ、カバなど
貼り方:薄板ストレート貼り
仕上げ:クリアー
ヤマザクラ、ミズメザクラ、ホエビソザクラ、カバザクラなど、サクラと名の付く樹種の組合せ。薄ピンクから赤褐系の色味で質感は滑らかで手触りが良いです。硬くて強度があり、水にも強い特徴を持っています。

クリのノコ肌仕上げ

材種:クリ
貼り方:薄板貼り
仕上げ:白木
プレーナー(自動カンナ盤)をかけず、製材時のバンドソーでカットしたままの仕上がり。横方向に無数のノコ挽き痕があり、ザラザラとした手触りが特徴です。

サクラの耳残し

材種:サクラ、カバなど
貼り方:薄板 重ね張り
仕上げ:クリアー
樹皮(耳)を活かした組み合わせ。樹皮を研磨せず、そのまま使いました。

後藤さん・ロフトワークみなさんとのミーティングを重ね綿密に話し合った
木の在庫状況と後藤さんの設計意図に合った樹種・割り振りが可能か照らし合わせていく
2019年4月時点でのヒダクマの提案。最終的に空間には10種類を超える樹種を使用

木のグラーデーションカウンターをつくる

構内の南の窓際に構えられた、長さ26メートルの超ロングカウンター。それだけでもヒダクマ史上最長のカウンターなのですが、それだけではありません。
最初の5メートルほどは、活発なコミュニケーションが生まれる賑やかなキッチンやミーティングエリアと隣接していますが、奥に行くにつれて徐々に視界からはずれた静かなエリアになっていきます。そのシーンに合わせ、「活発(赤系の木)」→「リラックス(白、緑系の木)」のグラデーションを作ることに挑戦しました。

ホエビソザクラ(赤)→ヤマザクラ(赤褐)→カバ(ピンク)→トチ(白、黄)→ホオノキ辺材(白)→ホオノキ芯材(緑)の順で、500枚に及ぶ板を一枚一枚木目や色味が近しくなるよう丁寧に並べてゆき、まるで一枚の大きな木にも見える巨大なグラデーションカウンターとなりました。

奥から「ホエビソザクラ(赤)」→ヤマザクラ(赤褐色)」→「カバ(ピンク)」→「トチ(白)」→「ホオノキ(緑)」へ徐々に変化してゆく

50~80ミリの短いスパンで、色味や木目が近い板を探し出し、一枚一枚に数字を書いていく。およそ500枚を超える板を並べました。

濃いホオノキから薄いホオノキへ。同じ樹種だけでもグラデーションがつくることができた
あまりにも長かったため、近くの木材所の広場をお借りして並べた
カウンター先端部に取り付けたキッチン用具用収納。カウンターとしての違和感の無さと、収納としての使い勝手の良さを3Dで検証
なるべく金物が見えないよう非常にシンプルな引き出しレールの機工を設計
引き出しを製作している様子
天板と収納部分の木目も全て繋げた仕上がりに
今やCODO内で最も人気のあるスペースのひとつだとか

製材所で、少しずつ色が異なる木を探し出し、無駄なく製材する。 1枚の大きな木に見えるように、500枚の部材から色や木目が近い木を1枚ずつ記録してグラデーションをつくる。さらにそれを狭いスペースで、26mに及ぶ長さをズレることなくビシッとまっすぐ取り付ける。これは完全に職人への挑戦状であり、それを見事やってのけた製材所や工房の職人さんの技術が結集された素晴らしいカウンターが出来上がりました。

それぞれの場所に意味のある木の使い方

このプロジェクトでは10種類を超える広葉樹を使用しました。その中には、森には沢山あるけれど普段あまり木材としては使われない木も多く含まれています。
ただ無闇に色々な樹種を使用するのではなくそれぞれの場所に意味のある木の使い方をするにはどうすればいいか、後藤さんや飛騨の木工パートナーと一緒に考え抜きました。
靴で歩く場所では汚れが目立ちにくい木目の木、リラックスする場所では白くて優しい木目の木、手に触れるところは手触りの良い木など、それぞれの機能に応じてそれに相応しい素材が存在します。
木は、そんな期待に応えられるもっとも柔軟な素材であるということを、改めて実感しました。
結果としてこのプロジェクトでは、ヒダクマ史上最も多くの木を使いました。
流通が難しい国産広葉樹を動かしたのは、物流大手の鈴与の新しいオフィスづくりだった、ということを意義深く思います。

あとがき

ヒダクマでは、豊かな森と人との持続的な関わりを再構築することを目指す「ファースト・プロダクト・カンパニー」として、森のバランスに寄り添ったものづくりを目指しています。伐採から製材・乾燥・加工まで一環してデザインすることで、より無駄なく持続可能な木の使い方をこれからもよりアップデートしていきたいと思います。乞うご期待ください。

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