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デジタル技術なしでは成り立たない設計と加工。3DスキャニングとARは曲がり木のあり方をどう変えたのか。
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Outline

ふたりの建築家、浜田晶則さん・住友恵理さんとの試み

美しい曲線を描く広葉樹の曲がり木。その要因は様々で、光を求めて枝葉を次々に分岐させながら生育する過程で曲がる場合や、斜面の木々に雪の重みが加わり根元が曲がるという豪雪地帯ならでは理由が挙げられます。針葉樹も雪の重みで根曲がりを起こしますが、「頂芽優勢」という幹や枝の先端がよく成長する性質により、基本的には真っ直ぐと上に育ちます。

曲がり木は、人と自然が今よりも生活レベルで密接に関わっていたころには、その形を活かした梁として建築に利用されていました(参照元:http://shirakawa-go.org/zaidan/zaidan_files/2011k.pdf)。現在は人の暮らし方とともに曲がり木の利用も変化し、チップとして加工されたのちパルプや燃料となって活用されています。

ヒダクマは曲がり木を活かすプロジェクトに、コンピュテーショナルデザインを用いた設計手法を得意とする建築家の浜田晶則さん、拡張現実(AR)を使った新しいファブリケーションの仕組みを研究する住友恵理さん、飛騨の職人と挑戦してきました。デジタル技術を駆使しなければ成り立たない手法は曲がり木の加工そして利用に再び変化を起こし、6本の丸太が互いに支え合い自立する構造物「Torinosu」が生まれました。

この記事では、宮下パーク内のカフェ「パンとエスプレッソとまちあわせ」のテラスに設置されたTorinosuというプロダクト、デジタル技術と職人技が融合したその制作プロセスを紹介します。

【プロジェクト概要】

  • 支援内容

広葉樹の森レクチャー、曲がり木調査・調達、設計支援、制作及び制作管理

  • 期間

2020年4月〜8月(制作期間)

  • 体制

クライアント:カフェ「パンとエスプレッソとまちあわせ」(運営会社:株式会社じそく1じかん、株式会社日と々と)
設計:浜田晶則建築設計事務所
技術協力:ERI SUMITOMO ARCHITECTS
制作:柳木材、飛騨職人生活
協力:飛騨市森林組合、奥飛騨開発

Output

人が集い、多様なアクションが生まれる設計

Torinosuは、6本の曲がった丸太がレシプロカルフレーム(Reciprocal Frame)構造※によって相互に支え合い自立した構造物です。利用した樹種は、ミズナラやエノキなど6種類。成長する中で曲がり、ねじれ、表面がうねった丸太には、野性的な美しさと見る者がつい触れたくなるような自然物としての存在感が残っています。

丸太同士が重なる高さは各箇所で異なっており、その時々に応じた使い方が生まれる設計がなされています。切断面は、AR技術を活用した加工・設置によりテーブルとしても利用可能です。

「パンとエスプレッソとまちあわせ」前に設置されたTorinosuは、カフェのお客さんが一息ついたり、道ゆく人がメモを取ったり、無邪気な子どもによじ登られたりと、多くの人々に親しまれています。例を見ない試みを多分に含んだプロジェクトから生まれたTorinosuは、プロダクトとしても今までにない曲がり木の姿を見せてくれています。

※レシプロカルフレーム構造:ひとつの接点に部材が集中することを避け、部材同士が互いに他の部材を支持し合う構造形式のこと

<仕様>

材料:ナラ、エノキ、コブシ、ミズキ、カバ、ホオノキ

サイズ:W2580×D2660×H1090

仕上げ:屋外用防水、防虫、防カビ防紫外線、割れ止め塗料(キシラデコールなど)を重ね塗り

Process

重量級の丸太を自由自在に動かして設計

ヒダクマが浜田さんに飛騨を案内したのは、2019年10月のことでした。紅葉が始まりかけた池ヶ原の森や製材所、広葉樹を使った家づくりをする建築会社などを訪問。浜田さんからはその後、できるだけ曲がった木をプロジェクトに使いたいという相談をいただきました。目指していたのは、単に曲がりを活かした構造物をつくるだけでなく、デジタル技術を活用すればどんなに曲がり木でも厳密に設計可能であることを証明すること。そして、飛騨市森林組合と奥飛騨開発の協力により飛騨地域の森から曲がった木が集められました。

柳木材の土場に集められた曲がり木

正確な3Dスキャンのために樹皮を剥くヒダクマスタッフ

周囲の光も3Dスキャンに影響するため、ブルーシートで光を遮ってスキャニングを実施した

丸太の曲がりを設計に落とし込み、いまだかつてないプロダクトに仕上げるために、まず伐出した原木の3Dスキャンを行いました。数百kgの丸太でも3Dデータを取得することで、デジタル空間で自由自在に動かしたり加工しながら、設計や加工をシュミレーションできるのです。構造計算もデータを元に実施。そうしてTorinosuの設計図が出来上がりました。

資料:浜田晶則建築設計事務所

リアルとデジタルが交わる空間

設計図通りに丸太を加工するために用いたのは、HoloLens(ホロレンズ)というARデバイス。ゴーグルのような形状をしており、現実空間に仮想空間を重ね合わせ、現実のモノと仮想的なモノがリアルタイムで共存させることが可能です。このプロジェクトでは、切断面をグラフィカルに現実空間上に浮かび上がらせ、加工者をガイドする役割を果たしました。通常、大工や家具職人は木材を加工する際にその目印を付ける「墨付け」を行います。ただ、曲がりひねった丸太に人の手で正確な墨付けをし、それに従った加工をすることは容易ではありません。そこで、ホロレンズを用いたいわば「デジタル墨付け」を行ったわけです。

しかし、3Dデータがホロレンズによってただちに現実空間に浮かび上がるわけではありません。加工時に丸太を配置する座標情報を3Dデータに追加し、実際にリアルな空間でもその座標に丸太を置くことで、ホロレンズを通して現実空間に浮かび上がる3Dデータと実際の丸太が合致する仕組みだからです。

ホロレンズを装着して見える現実と仮想が重なった様子

ホロレンズを掛けての丸太加工を担当したのは、飛騨で木材業を営む「柳木材」の柳和憲さん。通常使っているチェーンソーよりもガイドバーが長い、30インチのものを用いて加工に臨みました。チェーンソーを使い慣れている柳さんも、いつもより重量のあるチェーンソーを用いながらの初めての試みには緊張感があったそう。このAR技術を活用したチェーンソー加工は、おそらく世界あるいは日本で初の事例です。

飛騨古川の木工職人・堅田恒季さんは、ホロレンズを使用しながら組み立て時に必要となる穴あけ加工などを担当。特に丸太と丸太が接する面の削り具合は、デジタル技術で精密度を上げることが難しい領域で、ARを利用しつつも堅田さんの職人技が必要とされました。

ホロレンズを装着して丸太を加工する木工職人の堅田恒季さん

コンピュータ上では自在に動かせた丸太も、現実で動かすにはかなりの人手が必要。設置現場では搬出から設置までを8人で行いました。丸太の組み立てにもホロレンズを用い、Torinosuが完成しました。

現場の組み立てでもガイドとしてホロレンズを使用

Torinosuを制作したこのプロジェクトは、デジタル技術によって自然の都合を上手に汲み取りながら、現在活用方法が限られている曲がり木という素材の幅を拡張させる取り組みでした。ヒダクマは今後も地域内外でパートナーとなって下さる方々と、今までにない森の活かし方を考え、実践していきます。

Members

浜田 晶則|Aki Hamada
建築家・teamLab Architectsパートナー
AHA 浜田晶則建築設計事務所

1984年富山県生まれ。2012年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。2012年Alex Knezoとstudio_01設立。同年teamLabにアーキテクトとして参加。2014年AHA 浜田晶則建築設計事務所設立。同年よりteamLab Architectsパートナー。2014年-2016年日本大学非常勤講師。2020年-日本女子大学非常勤講師、明治大学兼任講師。

コンピュテーショナルデザインを用いた設計手法で建築とデジタルアートの設計を行い、人と自然が持続的に共生する社会構築をめざしている。

主な作品に「綾瀬の基板工場(2017)」、「パンとエスプレッソと自由形(2018)」、「魚津埋没林博物館KININAL(2018)」など。グッドデザイン賞2019、Iconic Award 2019, Best of Best、the 2A Continental Architectural Awards 2017, Second Placeなど国内外で受賞。

https://aki-hamada.com/

住友 恵理|Eri Sumitomo
ERI SUMITOMO ARCHITECTS

1986年東京都生まれ。2010年東京大学工学部建築学科卒業。2010~2014年千葉学建築計画事務所勤務。フリーランスを経て、2016~2018イギリスのバートレット建築学校にて修士号取得。ARを使った新しいファブリケーションの仕組みを研究する。2019年帰国の後、建築設計およびARと建築のコラボレーションをリサーチするERI SUMITOMO ARCHITECTSを開始。2019年11月慶応義塾大学SFC上席所員、2020年7月同大学特任助教。

https://www.erisumitomo.com/

岩岡 孝太郎|Kotaro Iwaoka
ヒダクマ代表取締役社長 / CEO

1984年東京生まれ。千葉大学卒業後、建築設計事務所に入社し個人住宅や集合住宅の設計を担当。その後、慶應義塾大学大学院に進学しデジタルものづくりの研究制作に従事。2011年、クリエイティブな制作環境とカフェをひとつにする“FabCafe”構想を持って株式会社ロフトワークに入社。2012年、東京渋谷にオープンしたデジタルものづくりカフェFabCafeのディレクターとして企画・運営する。2015年、岐阜県飛騨市にて官民共同企業である株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)の立ち上げに参画し、2016年FabCafe Hidaをオープン、森林資源を起点とした新たなプロジェクトに挑戦する。2018年4月同取締役副社長、翌年より現職。

浅岡 秀亮 |Hideaki Asaoka

株式会社飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)所属。岐阜県飛騨市出身。名古屋芸術大学卒業後、家具メーカーやインテリアデザイン事務所で家具制作・デザインを経験。2016年にヒダクマに参加し、プロダクト開発や設計、制作、施工など幅広く担当。木に対する幅広い知識や、職人への深いリスペクトを持ち、木に新しい価値を付与すべく日々奮闘中。

Member’s voice

制作のための木を見に飛騨の森に行った。そこで斜面地に生える根曲がり木に出会った。それはとても伸びやかなカーブを描いていた。根曲がり木はかつて建築の梁などによく使われていたが、現在では使いにくい材としてチップにされていることが多いという。

製材された木は、蒸気で曲げることもできれば、3次元的に削ることによって曲面をつくることもできる。しかし森で根曲がり木を見たときに、生命力あふれるそのままの美しいカーブを厳密に設計の中に組み込んで扱うことができないかと思った。

木を3Dスキャンをして、複雑な形状を3次元的に扱い厳密に利用する。そしてHololensを用いたAR技術で墨出しを容易にし、高度な職人の技術とAR技術を組み合わせることによってこの構築物は成立している。Reciprocal frameの原理の構造によって、150kgを超える重い木が相互に支え合いながら自立している。

人類はこれまで自然がもつ形や力を、人間が扱いやすいように合理化して制御しようとしてきた。これからは自然と人間が豊かに、かつ高度に共生していく未来を描きたい。そんな世界を象徴するような構築物として、人々が生態系について思索するきっかけをつくることができればと思う。

浜田 晶則|Aki Hamada
建築家・teamLab Architectsパートナー
AHA 浜田晶則建築設計事務所

AR技術を応用したファブリケーションは、建築界でも広まりつつあります。Hololensを始めとするARデバイスを装着することによって、現実が拡張され新しいものづくりが可能になります。

面白いことに、こうしたものづくりでは最先端の技術以外にも、人間の「センス」のようなものが常に現れます。ARによって可視化された3Dホログラムがあったとしても、それは決して万能ではなく、精度や環境に左右される「ゆらぎ」があります。人間はARをガイドとしつつも、常に考え、試行錯誤し、直感的に判断しながらものづくりをしていく。そして出来上がったものを見たとき、やはり今までには簡単にはできなかった作品が完成しているのです。

Torinosuはまさにそういった醍醐味が随所に活かされたプロジェクトです。1本1本違う曲がり木が3Dスキャン、AR墨出し、AR位置合わせによってデザインになっていく。マテリアルの複雑さをデジタル技術でカバーしつつ、職人技、そして木材への知識があわさることによって、そのままの形では活かされてこなかった曲がり木に新たな価値が生まれたのです。

こうした技術を用いることによって生み出される作品は、人間や自然物の価値を再発見するきっかけになるでしょう。これからもこうしたものづくりに関わっていきたいと思います。

住友 恵理|Eri Sumitomo
ERI SUMITOMO ARCHITECTS

このプロジェクトは「飛騨の広葉樹活用の合理的な道筋を示した」と総括したい。(広葉樹)林業の大きな課題の一つが材価が安すぎて経済的な自立を阻んでいることです。質の良い家具用木材としてそれなりの価格で取引されるのは一握りであり、その他雑多な木々は伐採して町まで運んできてもその時点でおそらく赤字です。雑多な木の中から一定の条件を満たすものの材価を上げることができたら、林業の成長へのきっかけとなります。既存の素材加工の中で価値を見出せないのであれば、これまでと違う技術や道具の使用を試みればよい。それが3Dスキャナーであり、ARゴーグルであり、コンピューター上での3Dモデリングと構造計算でした。今回の方針では、より曲がりの強い木がより有用であるとの基準を設けました。既存の価値基準とはまったく逆方向です。個々の曲がり木の形状から最適な全体形状(構造)を導いているため、制作のために板状の中間材料にする手間を省き、加工中に発生する端材量を予め最小限にすることができます。材価を高めて無駄を省くことを考えれば、これは新時代の林業の合理性であると言えるのではないでしょうか。

二股の大根や曲がった胡瓜を目にしないことに疑問を持つ人は少なからずいるでしょう。それら流通しない野菜に着目して積極的に活用し、農業の課題解決に取り組もうとする料理店に対して共感する人もいるでしょう。林業においても同じような状況が起こっています。今回の方法で、全ての木々を有用にして林業全体を救えるとは思っていませんが、雑木の一部の価値を高めながら、育成木施業によって家具用材の質と量を高める合わせ技で、将来的な森の価値向上に繋げていきたいと考えています。

岩岡 孝太郎|Kotaro Iwaoka
ヒダクマ代表取締役社長 / CEO

レーザーカッターや3Dプリンターなどでものを作っていると、そんなものに頼っちゃいかん、自分の手で作ってこそ職人やとか、俺たちの技術は要らんくなってまうんやな…などの意見を聞くことがあります。古代エジプト時代から「近頃の若いもんは…」と言われ続けているように、手で木を切っていた時代に電動丸ノコが登場した時も同じやり取りがあったのではないかと想像しています。

新しい技術の登場は、これまでの仕事を奪うことは確かです。しかし、新しい技術は新たな表現を生み出します。電動木工機械が登場したことで、これまで硬すぎて使われていなかった木材を扱えるようになり、その強度を生かしてより細くて繊細な家具が作れるようになったといいます。

このプロジェクトは、ARがなければそれぞれ異なるサイズや曲面に対して一定の角度や寸法で加工をする際に、膨大な手間や労力を必要としたでしょう。丸太を3Dスキャンをしてコンピューター上で形状を把握していなければ、100キロの丸太を1回30分くらいかけてひっくり返して検証、を延々と繰り返す必要があります。

ホロレンズとAR位置出しによって、そのような単純作業を劇的に効率的に進めることができました。しかし、本質はそれだけではありません。テクノロジーだけでは完結することができない、熟練の職人の技術でないとできない加工により多くの時間を使うことができるようになりました。木目の流れを読んで加工したり、手に伝わる感覚によって微妙に力加減を調整する必要がある繊細な作業などは、職人の経験や技術が必要です。

素材に関しても、今まで安く買い叩かれていたような材料に付加価値をつけることができました。

これからも、新しいテクノロジーが次々と登場してくると思っています。それによって職人の仕事は減るどころか、逆にどんどん増えるでしょう。何より、作り手というのは、新しい技術を身に付けたときのこの上ない喜びを見いだせる生き物なのです。

浅岡 秀亮 |Hideaki Asaoka

文:志田岳弥
竣工写真:Gottingham