本巣市の地域性に向き合った「モレラ岐阜」の曲がり木ベンチ製作
Overview
川を育む森によって、地域の川らしい表現を試みる
岐阜県本巣市のショッピングモール「モレラ岐阜」の1階に配置された、7台のベンチ。商業空間のプロデュースを手がける株式会社スペースとヒダクマが協働デザインしたベンチには、「モレラ岐阜」が位置する本巣市、そして飛騨市の地域材を使用しています。「モレラ岐阜」を訪れる人々から愛される、その土地らしい家具をサステナブルな材料とプロセスによってどう製作するか。スペースとヒダクマは、まずフィールドリサーチからプロジェクトに着手し、地域の景観が持つ特徴を家具デザインに落とし込むことにチャレンジしました。そこでキーワードになったのは、本巣市を南北に流れる「川」。
ベンチの配置は、歩く人々の流れをつくります。座る人の視点になると、ひとつの方向性を持った木目の中で、節によって木目の滞留が生じていたり、樹脂で埋められた木の割れ目が淵のような暗い影になっている様が見て取れます。木が秘めていた川らしさは、製作過程で偶然出てきた唯一の表情であり、コントロールできないが故に曲がり木が大量生産型の家具用材になりにくいという確証でもあります。ベンチの川らしさを一層際立たせるのは、デジタルファブリケーションと飛騨の職人の技による魚の契り(ちぎり)と、座点から広がる水の波紋。また、有機的なベンチのアクセントになるよう、台座は本巣市北部の根尾谷断層やそこから産出する菊花石を模した、直線的なシェイプにデザインされています。台座の素材には、小径木活用に有効である、細かく切削した木を接着剤で成形した木質素材「ストランドボード」を採用しました。
Project 様々なスケールで現れる木の川らしさ
What we did | 家具製作ディレクション 木材調達・コーディネーション フィールドリサーチ |
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Credits | クライアント:モレラ岐阜、株式会社スペース 企画・家具デザイン:上野太凡、長谷川滉一郎(株式会社スペース) 製作ディレクション:門井慈子、浅岡秀亮(ヒダクマ) 木材調達・コーディネーション:門井慈子、浅岡秀亮、志田岳弥(ヒダクマ) 製作:田中建築、丸藤工業、エスウッド、FabCafe Hida 製材:西野製材所、カネモク 木材乾燥:カネモク |
Period | 2022年8月~12月 |
Viewpoint 株式会社スペース 長谷川さんの視点
本巣のフィールドワークを行いながら、モレラ岐阜の立地や地域の特性に向き合ったとき、南北に長い平面形状や施設の中央を通るメインストリートと岐阜県を流れる1本の川の親和性を感じた。そこで通りを川に見立て、そこに置く家具にも川要素を持たせられないかと考えた。飛騨の工場を訪れて森の木々が製材される工程を学びながら、木の表情の自然さを川らしさとして読み替えた家具デザインとした。そして、木々の特性に逆らわずに寄り添いながら加工していく職人さんの手によって、多様な表情を見せる広葉樹の雄大な形や模様、テクスチャが、家具スケールに落とし込まれた川意匠として生まれ変わった。施設を訪れた人たちがこのサステナブルな家具に座ったり触れたりする中での小さな気づきから、本巣の川や自然と心を通わせる瞬間が生まれることを願っている。