地域に開かれた福祉施設の「島」のようなテーブル
Overview
誰もが「ともに生きることの喜び」を発見できる場
平成医療福祉グループと設計事務所のnata studioは、神奈川県横浜市のヴィラ南本宿内にあるデイサービスの庭と内部空間を改装するプロジェクトに取り組み、ヒダクマは什器製作に関わりました。
設計を手掛けたnata studioは、介護の効率やセキュリティの関係上、どうしても地域から閉ざされた空間になりがちな福祉施設を地域に開き、地域と福祉施設が支え合う存在になることで、誰もが「ともに生きることの喜び」を発見できる場になるのではと考えました。具体的には、福祉施設を物理的に開くことと、坂と庭、内部空間を「島」によって視覚的・空間的・機能的につなげることを意識し、多様な距離感が生み出せる空間づくりを試みています。
ヒダクマは「島」を構成する什器である、施設内の大小7つのテーブルを製作。テーブルに使用した樹種の選定は、施設にある木と同じ、サクラを中心にセレクト。製作過程でnata studioのおふたりが飛騨を訪問し、テーブルの樹種の並び順を決定。利用する人の多様な活動を考えながら製作したテーブルです。島の形をイメージした複雑なデザインの什器製作は、go-productsの本郷さんとノナカ木工所の野中さんのふたりの飛騨の職人さんに携わってもらいました。小倉鉄工さんに製作してもらった鉄プレートをテーブル背面に入れるなど、安全面も考慮し、飛騨地域の職人さんの技術が詰まった什器が完成。
飛騨の森の多様性が、地域と福祉施設、人と人の多様な距離感を生み出すことにつながりました。
Project 島によって生まれる多様な距離感
What we did | 木材コーディネーション 製作ディレクション |
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Credits | クライアント:ヴィラ南本宿(平成医療福祉グループ) デザイン:nata studio 製作ディレクション:江上史都、黒田晃佑(ヒダクマ) 製作:go-products、ノナカ木工所、小倉鉄工 竣工写真:ヴィラ南本宿(平成医療福祉グループ) |
Period | 2023年11月~2024年7月 |
Viewpoint nata studioの視点
(長岡稜太+武部大夢)
(Nagaoka + Takebe STUDIO)
福祉(ケア)とは外側から与えられた枠組みや制度ではなく、私たちひとりひとりが他者を思いやり、ともに支え合って生きるということの総体として浮かび上がってくる人間関係や社会のことだ。空間というのは時に凶暴なもので、外側からの圧力として福祉を拘束してしまう。本プロジェクトはそうした空間が拘束している福祉を解き、福祉を個別の人間関係に還元することが命題であった。
私たちは、空間が活動を限定してしまうことを避け、「島」と呼んでいる歪な形をした什器を多数設計した。捉えどころのない曖昧な形でありながら、確かに存在感のある島を福祉施設の内外でバラバラに配置した。誰とどう過ごすかという選択を、利用者やスタッフ、地域の人へ委ね、それらの色々な活動が福祉施設と地域を跨いでゆったりと繋がっていく環境を目指した。
今回ヒダクマに制作を依頼した最大の理由は、ヒダクマの活動が福祉の重要な問題に触れてると感じたからだ。森林の資源循環という大きな物語は、木の手触りとして物体に宿り、それがきっかけとなって他者と出会う小さな物語へと無数に枝分かれする。そうした物語の連鎖が、拘束された福祉の空間を溶かしてくれることを期待した。早速、庭に植っているサクラの話で盛り上がっている声が聞こえてくる。