Column

大人も子どもも森林に親しめる街へ。それぞれが描く「つくばの未来図」

FEATURED PEOPLE
登場人物
松本 剛
Takeshi Matsumoto
ヒダクマ 代表取締役/COO
二方 紗耶
Saya Futakata
森を事業部 森のメッセンジャー

Introduction はじめに

どんなに良い仕組みを作っても、効果的な働きかけがなければ利用者がいない事態になりかねません。つくば市が2025年4月から運用している「つくば市森林バンク制度」は、森林所有者と活用希望者をつなげる試みです。全国でも例がない仕組みだけに、サポート役に採用されたヒダクマも知恵を絞り、今まで培ってきたネットワークを惜しみなく提供しました。

森林の所有者と利用希望者の交流会を兼ねた説明会は15回、各分野からユニークな講師を招いたイベント・ワークショップは10回開催。例えば、9月に開催した刈払機講習会「Weeeeeeeeding」。レジャー感覚で学べる「チェーンソーによる伐採等特別教育」を行っている株式会社百森(岡山県西栗倉村)を紹介し、つくば市の平地林での刈払機用のプログラムを共同開発しました。

参加者は安心して楽しく刈払機の操作を学べることを前面に出した結果、キャンセル待ちも出るほどの人気に。当日は、草や篠竹を安全かつ積極的に刈り進めました。最後に、参加者それぞれで開拓した森林を全員歩いて見学。達成感を共有するとともに、参加者同士の交流も生まれました。

こうした働きかけが功を奏し、12月末までに所有者と利用者のマッチングが11件成立。順調な滑り出しの裏には、制度の運用担当者であるつくば市役所のおふたりと、ヒダクマの担当2名による「森と人とのつながりの再生」への熱い想いがあります。

Writing:大宮 冬洋 Photography:Yo Tanaka(FUNC LLC) 

本音を出し合い、可能性が芽吹く。対話と交流から始まる森の再生

つくば市役所にて2025年5月から毎月開催してきた説明会兼交流会。森林バンク制度の概要と利用方法を一方的に説明するだけではなく、森林の所有者と利用希望者が自由に発言して交流できる場です。

筆者が8月の午前の部(参加者17名)に参加した時のことです。ヒダクマの担当者である松本 剛による説明の直後に、広大な天然林の所有者が「森林バンク制度なんかより市街化調整区域を外してくれ」と繰り返し要求しました。森林を転用して住宅や商業施設用に土地を売りたい、とのことです。会場に緊張感が走りましたが、結果としてバイオマス発電用に広い森林を探しているという企業の担当者と出会えていました。

その後、竹林所有者の男性が「うちの竹は質がいいと思うから使い道を考えてほしい。つくばの人たちはいろんなアイディアがありそう」とのんびり発言。急に場が和みました。

他にも、「うちの森を太陽光パネルにはしたくない」「不法投棄に困っている」「ダニの繁殖が心配」といった所有者たちの本音が聞ける一方、「若い頃に林業をしていたので役に立てるかも」「大学で教員をしているので教育の場としても森を利用したい」という利用希望者がいて、相互の交流も進んでいました。

最終的には明るい雰囲気で終わった交流会。紛糾や混乱のリスクを負ってでも参加者が率直な意見を言える場を設ける大切さを筆者は感じました。

剪定バサミで「ゾーン」に入る。効率を超えた先に現れた木漏れ日とそよ風

森林の整備と利活用をより具体的に考えて学ぶのがワークショップです。計10回、アロマ作りから刈払機講習まで多様な分野から講師を招いて実施しました。鳥獣対策・森林保全室の高橋萌さんは、5月の「つくばの森林環境再生ワークショップ」(参加者8名)で森林整備に関する新しい視点を得られたと語ります。

「つくば市の隣にある石岡市より、上林製材所の方が講師を務めて下さいました。つくばの森林に多く生える篠竹の除草は刈払機の利用が主流です。でも、刈払機は怖いという人もいますし、篠竹の成長点の上を伐採するのですぐにまた伸びてしまいます。このワークショップでは、剪定バサミを使用して成長点より下の地際で篠竹を切り落とす作業を行いました。チョキチョキやっているとゾーンに入ります!」

作業前と作業後で森林の様相が大きく変化しました。木漏れ日や風の通りが感じられる空間になったのです。偶然通りかかった近所に住む方からも「何が潜んでいるかわからない怖いイメージが一気に開放的に変わった」という声をいただきました。

参加者からは「機械を使わずに森林を保全できる。動力が嫌いな人や苦手な人に良い草刈り方法だ」という感想の一方で、「つくば市の荒れ果てた森全体をこのやり方で利活用するには時間と労力がかかり過ぎて難しい」という意見も。つくばの森林をより身近に、そして自分事として考える機会となりました。

「ワガママ」と感泣が原動力。十人十色のアイディアが描く新しい森

8月に開催された「森とワガママソン」(参加者21名)は、「つくばの森林でこんなことがしたい!」というワガママをひとりずつ発表。ワガママが似ている人を集めて4チームに分けてさらに議論を深めました。

「教育チーム」は、年間を通じて老若男女が楽しく学べる場としての森林を発表。「レジャーチーム」はサバイバルゲームやツリーハウス、焚火などが自由にできる「欲望まみれのキャンプ場」構想を披露しました。

筆者も参加した「ビジネスチーム」は、年会費50万円でオーナーを20組募り、交代で天然林を独り占めする、というアイディアを提出しました。本来の所有者がいて、利用者は時間差で独占。民泊の森林版です。

北欧に住んでいたことがあるという市民が入った「仕組みチーム」は、アクセスライセンスを持った人が気軽に各森林に入れるような制度設計を提案。新たな視点を提供していました。

各グループによる発表には笑いと拍手が起こりました。その様子をじっと見ていた後藤 佑太さん(鳥獣対策・森林保全室。高橋さんの先輩職員)は最後の挨拶で号泣。後藤さんは普段、年間100件もの苦情に対応しています。木の枝が道路にかかっていて危ない、落ち葉が雨どいに詰まってしまう、などなど。そんなつくばの森林について、多くの人が前向きな活用法を考えて楽しげに話し合っていたことに感極まったそうです。

地域の知恵が集まる場所へ。「森×〇〇」の掛け算で社会課題を解決する

12月に開催した「森で防災WS」(延べ60名以上が参加)の講師は以前に説明会兼交流会に参加した女性でした。市民参加者が講師になったことにはヒダクマの松本が感慨深げに振り返ります。

「森林を活用した防災活動をやりたいという利用希望を持っていた、つくばセルフ防災ラボを主宰する橘敦子さんです。ワークショップの講師の選定基準は『知識や技術を楽しく学べるように教えられる方』。ヒダクマのネットワークを使って遠方からも多様な講師を招きましたが、地域の方に教えていただけるならばそれに越したことはありません」

さきほど感涙していた後藤さんは前向きな市民の姿に押されて、やる気爆発。「月1ペースでは足りない」と思うほど今後のイベントの企画案を練っているようです。

「個人的に関心があるのはアグロフォレストリーです。森の中で農業をするという考え方で、落ち葉などの天然資源だけで土づくりをする『菌ちゃん農法』などをぜひ試してみたいです。山菜などの食べられる植物を増やすことにも興味があります。森林×農業、ですね。防災や健康など、森林とかけ合わせることでいろんな社会課題を解決できるかもしれません」

子どもたちの歓声が教えてくれたこと。「身近な森」を次世代に渡す

2025年2月にヒダクマに入社し、松本と一緒につくば市の森林バンク制度に携わってきた二方 紗耶。忘れられないのは11月に開催した「森と遊ぶフェス」(延べ100名以上が参加)です。筑波大学の芸術学部に通う学生に森林の活用方法を考えてもらい、ピクニックや茶室、テントサウナ、映画上映などを実施。つくば市内の子どもたちも多数参加し、彼らが森の中を走り回っている姿に、二方は自分の幼い頃を見た思いがしました。神奈川県横須賀市の実家近くの林で「ひみつ基地」を作って友だちと遊んで育ったのです。

「森林バンク制度は当初から『市民に森をより身近に感じてもらうこと』を目標としています。このワークショップで、子どもたちは森を求めているんだと私は確信しました。あの嬉しそうな姿を見たら、『森を森として残していくべきだ。自分の子どもの頃のように森と関わって遊び育つ子どもが多くいてほしい』と思う大人が増えるのではないでしょうか」

つくば市の高橋さんが「森と遊ぶフェス」の様子を動画に収めて所有者の方に見せたところ、「自分の森だとは思えないぐらい素敵」と言っていただけたそうです。

森林バンク制度では、所有者と利用者のマッチングが11件成立。樹木の豊富な花を活用した養蜂、家族で楽しむ森林整備、セカンドライフやリトリートの場として……。今年から整備と活用が本格化します。
かつては住民の暮らしに欠かせなかったつくばの森林。近代化の進行で「不気味で邪魔で厄介な存在」となっていました。今、人々の熱い想いと試行錯誤によって、「身近でありがたい森林」へと再生しつつあります。

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