飛騨市の水と土の関わり ー 地下水(後編)
Introduction
はじめに
飛騨市主催で開催されたセミナー「広葉樹が育む水の秘密に迫る」のレポート後編です。登壇した岐阜大学 応用生物科学部の大西健夫教授は、水文学(自然界における水の循環)を専門とし、2021年(令和3年)より飛騨市をフィールドに森林と水質の関係性について調査・分析・研究しています。後編は、セミナーでの最後のトピックとなる古川盆地の地下水についてのお話です。
Writing:井上 彩(ヒダクマ) Photography:飛騨市提供
Writing:井上 彩(ヒダクマ) Photography:飛騨市提供
飛騨市では、豊かな森、水、土、食の親和性を背景に、生産者の皆さんのこだわりや農家自慢の食材ひとつひとつを下記サイトでご紹介しています。
■飛騨市公式食の情報サイトHIDAICHI:https://hidaichi.jp/
飛騨の地下水は、冬季の間に消雪用水として利用されていたり、水道の水源になっている重要な資源です。古川盆地の地下水がどのように涵養されているのか。地下水がどこから来てどこへいくのかを大西教授は調べています。
水の収支・地表面での水の出入り
地下水の動きから潜在的に存在している量を調べる
地下水の流動データを可視化し、営みにつなげる
大西教授は、地下水の賦存量を調べていく中での重要な情報として、地下水の帯水層(水を帯びている層)の深さがどれくらいなのかということを調べました。以前、飛騨市が消雪用水を開発するにあたり、色んな地質調査をした時に得られたボーリングデータや、各地点においてどれくらいまで帯水層があるのかを調査した電気探査のデータを集め、図を作成。その図から対象地域はすり鉢状になっていて、地表面からどのくらいの深さまで地下水を蓄えている層があるのかがわかります。
このすり鉢状の構造がわかると、今後地下水流動モデルのシミュレーションをすることができると大西教授は言います。
最後に大西教授から、今回のセミナーのまとめがありました。
あとがき
今回のセミナーで、飛騨市の森林からもたらされる水とおいしい農作物にどんな関係があるのかを、簡単に説明できないことがよくわかりました。この取り組みが、短期的な成果というより、継続的で地道な調査・分析により、私たちにこれからの自然との関わり、暮らしつながるヒントや、本質的な問いを与えてくれるような研究であり、来年もひきつづき飛騨で研究活動を行ってもらえることはありがたいです。会の最後に、大西教授に今後の活動についておうかがいしたところ、飛騨市の各セクターに集まっているデータは十分に活用されておらず、今後行政との連携をさらに図っていきたいことと、地域の水・土などの自然資源がリアルタイムにわかるようなプラットフォームをつくりたいという展望を話してくれました。
(本文には記載がないですが)大西教授がセミナーの途中で、「長い歴史の中で育まれてきた土壌の中に有史以来つくられてきた広葉樹を利用する生業があり、生業の中に今がある。そこに歴史の重層的なこの地域の貴重さというものが見えてくる」と語ってくれたことに、私自身はっとさせられました。サステナビリティを考える時に、千年、一万年、もっと前の歴史と、それと同じくらい先の未来に思いを馳せて想像することが大切なのではないかと気づきました。その上で、点在する多様な情報、人々の思いや関係といったものを緩やかにつなげ形にしていくことが必要であるようにも思いました。
最後に、今後大西教授が行う研究をはじめ、地域に根ざした自然と人の関係に関する多様な研究が飛騨地域で継続的に活発に行われることを願います。継続的な研究には、市民や行政の地域の皆さんと、企業や教育・研究機関などの地域内外の人との関係性や協力体制が大事であると考えます。ヒダクマとして微力ながらもその入口や媒介として関わっていけたらと思っています。