ヒダクマができた時は、そこで竹田さんとヒダクマとの関係は変わったけど、それ以降は変わってないですか？ずっと子どものようにヒダクマを見守ってこられましたか。

いや、全然、もう自立して見える。既に私の中では子どもじゃないですよ。

いつの時点で子どもじゃなかったですか？僕と竹田さんとでは違うかもしれない。僕はずっと子どものイメージがあるから。

色々ありますよ。例えば黒字を出した時とか。

もう大人になったなって感じですか。

ええ。雇用が10人を超えたとか、株主総会などで色々聞くじゃないですか。それがすごく嬉しくて。あと、これは自立とはちょっと違いますけど、最初の頃は私がヒダクマに出向すればいいという話もあったじゃないですか。実は自分も行けたらいいなと思ってたんですけど、実際ヒダクマの社員さんの働きぶりを見た時に、これは無理だなってすぐ分かりました。ヒダクマのクリエイティブな仕事は役所の人間ができるような仕事じゃないなと思って。例えば、役所がやるような仕事をヒダクマでしてくださいって言われたらできるかもしれないですけど、そういう仕事ってヒダクマではあまり必要とされないじゃないですか。だから自立という意味ではなく、自分の手が届かないというか、自分ではできないことをヒダクマはやっているという思いは早い段階から持ってます。松本さんの認識とはちょっと違うかもしれませんが。

このインタビュー企画で、ヒダクマに対して何かコメントを求められるんじゃないかって色々考えたんですけど、出てこないんですよ。あるとすれば、ありがとうございますってことくらいです。10年間皆さんがここまでやってこられて、若い社員さんもたくさんいて、色々難しいことや厳しいことはあるにせよ、ここまで成長した。ゼロからスタートした会社が年間1億数千万円を売り上げるようになって、それが継続するって、すごいことだと思うんですよ。おだてるつもりは全くないですが、今はそういう気持ちですね。

質問を変えると、会社をつくるもともとのきっかけは、飛騨市として地域のためにっていうことでしたよね。

そうです。

こうやって補助金も一切もらわずに生き延びてるってことだけでも意味があるっていう考え方もあるかもしれないけど、そもそも地域の課題解決のためにこういうものが必要だって思っていたことに対して、実際にどのくらいの役割を果たしてきたのかということで言うと、どうですか。

私は十分果たしていると思っています。まず「広葉樹のまちづくり」っていう取り組み自体、ヒダクマがなかったら成立していないと思うんですよ。なぜかと言うと、一般的に使えないと思われているものを価値あるものとして使うためには、誰かが実践しないといつまでたっても使えないままなんです。そう考えれば、ヒダクマがリスクを冒してそこを実践したから、小径木が活用できるようになったと思っています。広葉樹の活用では先進地と言われるようになったのは、最初にその役割をヒダクマが担ってくれたからです。

だけどそれは一方で、損な役割でもあるんです。開発にたくさんコストをかけて、どのように使えるかという実践をずっとやってきた。その中にはやっぱり使えないというものもたくさんあったと思うんですけど、使えるものをしっかりかたちとして示していったことで、小径木を使う仕組みができてきたということだと思います。最初から仕組みがあって、その中でヒダクマが生まれたのではなくて、順番としては、まずヒダクマが小径木でも使えることを示したことが、飛騨市広葉樹活用推進コンソーシアムの設立につながったという感じです。だからその役割はとても大きくて、ヒダクマは間違いなくコンソーシアムや広葉樹のまちづくりになくてはならない人や会社のひとつだと自分は思ってます。

今の竹田さんの話で言うと、ヒダクマはパイオニアプランツ（先駆植物：植物の生育にとって厳しい環境である場所で一番最初に芽を出し、他の木々が育つことができる土壌づくりをする）なのかもしれません。そして、それによって他の植物が育っていって森ができている。広葉樹のまちづくりや、飛騨市広葉樹活用推進コンソーシアムや、新しい製材所が育っていっている。だからある意味、10年で役割は果たしたという考え方もあると思うんです。つまり、これで終わってもいいよねっていう考え方もあると思うんですけど、ヒダクマがまだ続いていくべき理由や、次に期待する役割がありますか？

あるジャーナリストの方がここに来た時に、「ビジネスとして大変ですよね」と言われて、それはどういう意味か尋ねたところ、「常に新しいことをやってかないと続いていかないビジネスですよね」というようなことを言われたことがあるんです。なるほど確かにそうだなって思いました。そうだとすれば、仮に小径木を使うことが当たり前になったら、大きな家具メーカーも小径木で家具を作るわけじゃないですか。そうなった時にはヒダクマが、何かまた新しいものを生み出したり、常に先頭を走ってもらうことで、なるほどさすが飛騨だね、という評価につながっていくんだと思います。飛騨は小径木の活用から入ったけど、それが普通になれば次はこんなことやりだしたよ、みたいなことは、やっぱりヒダクマの役割だと思っていて、そう考えると、ヒダクマにはこれからもこれまで以上に頑張ってほしいなって思ってます。

さらに新しいものを生み出すこと。

ええ。だからひょっとしたらこれからは広葉樹だけにこだわる必要はないのかもしれません。森というもっと広い視点で、他の地域にはない森と人との関わり方とか、そんな新しいことにチャレンジする会社でもいいのかもしれないですね。

正直に言うと、最初は岩岡さん苦手でした（笑）。というか、私はロフトワーク的なクリエイティブな話は内容が理解ができなかったんです。あと、当時の岩岡さんは行政とあまりご縁がなかったからか、行政ならではの約束事についてなかなか理解してもらえず、FabCafeでちょっと言い合いのようになったこともありました。岩岡さんは覚えてないと思いますけど。

森の端オフィスを建てる前に、地域の重鎮（林業会社の社長）にヒダクマがめちゃくちゃ怒られた時がありましたけど、あのあたりから岩岡さんは、大きく変わったような気がしています。下手したら飛騨の人間より飛騨っぽくなったんじゃないかっていうぐらい、変わったと思うんです。私はそのことを、ご本人に話したこともあるんですけど、岩岡さんは「そうかな」って。「それ、竹田さんが変わったっていうことかもしれませんよ」って言われて、それもあるかなとは思いましたけど、やっぱり岩岡さんが飛騨に馴染んだんだと思います。当然今は松本さんも岩岡さんもとてもお付き合いしやすいし、何でも話せます。

いい話ですね。

逆に、私から岩岡さんに聞きたいのは、なぜ地域のディープな組織に自ら進んで参加するようになったかっていうこと。今は実際、楽しんで行かれてるじゃないですか。昔から飛騨に暮らす人間として、ああいうふうになったきっかけを知りたいです。

田中一也さん（田中建築の代表）から誘われたんだと思います。

岩岡さんが気付かない間に、そうしたお付き合いの中でどんどん飛騨化していったのかもしれないですよね。岩岡さんの中で、これいいじゃん、楽しいじゃんって感じで価値が変化したんじゃないかなと思います。

もともと山登りもしてなかったんじゃないかな。

そうですよね。私もびっくりしました。最初にトレラン始めたって聞いた時、え？と思いました。

多分そうだと思います。ただ私はトレランをやらないので、しばらくは一緒に山に行くことはなかったです。その後しばらくして一緒に山に行こうって話になったんですが、トレランって軽装備で走るから、重い荷物を背負うと弱くなる人もいるんですよ。岩岡さんもそうなるのかなと思ったら、重い荷物を背負ってもめちゃくちゃ強かった。しかも仕事中のあの前向きさが山でも発揮されていた（笑）。以前、一緒に山を夜通し50kmくらい歩いたことがあるんですけど、最後の方になって、私が「岩岡さん、そろそろ限界かも」なんて言っても、岩岡さんは私の前を「よいしょー！」とか言いながらドンドン歩くわけですよ。これも飛騨に来てからの大きな変化でしょうね。

なんでしょう、飛騨化っていう言葉じゃない気がするけど（笑）、変わったと思います。出会った頃だったら、新しいことを提案する時に、なんでこんな面白いことをやらないんですかと言っていたのを、今は自然と地域の関係する人の立場や気持ちを慮っている。以前は、ただピュアだったとも言えるかもしれません。

そう。ストレートだったんですよ、岩岡さんって全てにおいて。今では、逆に飛騨の人とお付き合いをするテクニックを身に付けちゃった。

岩岡さんの話って、聞く人によってはイメージが湧きにくいことがあると思うんです。それは多分、岩岡さんは常に先を考えているからなんだと思います。だから、最初から先まで見据えて何かを考えたり、実行したりしてる人には刺さるんですけど、自分の目の前の仕事とか、自分の身の回りしか見てないような人だと、理解し難いのかなと思いますね、私みたいに（笑）。岩岡さんといえば、印象深かったのは飛騨市役所応接室リニューアルのプロポーザル選考会で初めて岩岡さんのプレゼンを聞いた時ですね。本当に感激しました。そこにいたみんなで、「すごい」って言いながら、思わず「これぞプロのプレゼンだ！」って言っちゃいました。