Column

町の史跡を囲む支障木の活用をきっかけに生まれた、まちづくりのアイデア

FEATURED PEOPLE
登場人物
三好清超
Seicho Miyoshi
飛騨市教育委員会文化振興課文化係長(学芸員)
松本 剛
Takeshi Matsumoto
株式会社飛騨の森でクマは踊る 代表取締役COO
鈴鹿 裕子
Yuko Suzuka
森を事業部 森のコマンダー

Introduction はじめに

飛騨市教育委員会から、周辺への支障木となっている杉崎廃寺跡の16本のケヤキを伐採し、そのケヤキを処分するのではなくできる限り活用できないかとお話をいただいたことから、このプロジェクトはスタートしました。
杉崎廃寺跡とは、約1300年前の飛騨に存在していたお寺の跡です。8世紀代の地方寺院の形態がよく残る遺跡であり、国の42ヶ所の指定相当の埋蔵文化財リストに選定されています。
ヒダクマは市民に向けて杉崎廃寺跡という文化財の価値を知ってもらうことを目的に、伐採したケヤキを使用した商品の企画、出土している木簡をモチーフにしたワークショップの開催に取り組みました。

Writing:鈴鹿 裕子 Editing:ヒダクマ編集部 

人の都合に翻弄される「ケヤキ」の伐採

重要な遺跡である杉崎廃寺跡は、敷地を区別するため意図的に植樹されたケヤキに囲まれていました。そこで育った立派なケヤキたちは、用水路に葉がたまることや成長した枝葉が電線にあたるなど、地域住民の方からは伐採してほしいと声が上がり、支障木として伐採することが決まりました。

伐採当日、隣にはゲートボールを楽しむ地域の方の姿があり、何が行われているのか聞きに来てくれる方も。
速水工業株式会社安江さんによる伐採の様子。 伐採された後は、やまかわ製材舎 及川さんによって製材される。
大きく成長したケヤキはなかなか倒れず、まだそこにいたいと言っているようでした。

倒されていく大木だけでなく、ここを住処としていた生物を思うと、とても悲しい気持ちになりました。このケヤキをただの支障木とは呼ばず、可能性を秘めた「活用木」として考えようと飛騨市教育委員会の皆さんと検討を重ねました。

伐採後、風通しが良くなった敷地に雨が降り、ケヤキの涙のようだとヒダクマ松本は思ったそう。

古川西小学生を対象に木簡ワークショップを実施

地域の小学生を対象に飛騨市教育委員会の「杉崎廃寺跡」授業が行われ、その一環としてヒダクマはワークショップの企画、実施を担当。
「支障木を活用するだけでなく、その活用をきっかけに地域の方に史跡のことを知ってもらいたい」という飛騨市教育委員会の学芸員である三好さんの想いから「木簡」という珍しい出土品に着目し、木簡ワークショップを企画しました。
木簡とは紙が貴重な時代にその代わりとして日常的に墨で文字を書くために使われた木の札のこと。今回は岐阜県で初めて1300年前の古代木簡が発掘された出土品に因んで、「13年後」の自分に向けたメッセージを木簡に書き留めてみることに。

児童たちは将来の夢や、育てている猫のこと、書いている日の天気など、タイムカプセルみたいだねと話しながら楽しくワークショップを体験してくれました。感想の中には「木簡は字が書きにくく、昔の人は大変だったのかも」と、体験したことから杉崎廃寺があった時代のことを想像して興味を示していました。

「ケヤキ」から地域の魅力を広げ、皆で楽しむ

今年の8月、FabCafe Hidaで定期開催しているHidakumarketでも木簡ワークショップを開催しました。木簡どころか墨と筆を持つのも初めての子どもからHidakumarketの出店者まで多くの方が参加し、杉崎廃寺跡に興味を持ってもらうことができました。

同日午後には、杉崎区納涼夏まつりでも木簡ワークショップを開催。授業に参加していた児童が「木簡だ!」と元気よく参加してくれ、ご両親や友人に木簡の説明をしてくれたことが印象的でした。共に取り組んだ飛騨市教育委員会の方のご協力もあり、木簡をつくった参加者は1日で96名と大盛況でした。

また、この日は飛騨古川にあるクラフトビール店のヒダノオクブルワリーさんに依頼してつくっていただいたケヤキビールを販売。伐採したケヤキはビールになって地域の方たちの元へ戻りました。
買ってくださった方の中には活用木として生まれ変わったケヤキの存在を再認識し、「伐採された様子を見に行ってみる」と声をかけてくださる方も。支障木の可能性を楽しんだことがきっかけとなり地域の文化に触れる機会をつくることができた瞬間となりました。
ケヤキビールは、現在もFabCafe Hidaにて数量限定で販売中ですのでご興味のある方はぜひ足を運んでみてください。

地域にある木の多様な可能性を一緒に考えませんか?

プロジェクトを通して、わたしたちは身近な存在である支障木の可能性を知ることができました。
さらにワークショップとケヤキビールを沢山の方に楽しんでもらうだけでなく、活用木として様々な可能性が広がったことで木育活動や地域資源である杉崎廃寺跡とその魅力を知ってもらうことにつながりました。来年度以降は、杉崎地区以外の方へ杉崎廃寺跡の魅力を広げていくことを目標に活動は続いていく予定です。

ヒダクマでは、森や木と地域の歴史や文化、暮らしとのつながりを大切に、子どもから大人まで皆が楽しく学びながら改めてその価値や可能性を発見するワークショップの設計・運営を行っています。また、ヒダクマが持つ多様な専門家とのネットワークを活かし、学びや交流を促進する体験プログラムや、ユニークな製品開発をお手伝いできます。
ご興味のある方は、ヒダクマの問い合わせフォームより、お気軽にご相談ください。

Viewpoint
飛騨市教育委員会 三好清超さんの視点

杉崎廃寺跡公園のケヤキは、30年ほど前、公園内外の景観を遮蔽する役目を与えられたもののようです。そのケヤキが公園遮蔽木としての役目を終えるにあたり、ヒダクマさんと一緒にその材を活用して地域の人に杉崎廃寺跡のことを知ってもらう企画を考えました。杉崎廃寺跡を構成する重要な要素の一つ「木簡」を題材にしたワークショップを地元の古川西小学校や杉崎区納涼夏祭りで実施し、多くの方に杉崎廃寺跡の存在と、その歴史的価値を知ってもらうことができました。

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Hidakuma

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