Column

持続可能な社会への移行を促すエコシステム設計のための飛騨フィールドワーク

Introduction はじめに

渋谷にあるロフトワークで、2023年1月から3月にかけて開催された、Transition Leaders Program。このプログラムで取り扱われているトランジションデザインとは、21世紀の社会が直面する複雑性の高い地球規模の課題に対処する方法として研究が進んでいるデザインアプローチのこと。具体的には、長期的な未来ビジョンを描き、ボトムアップの様々な活動を結集することで、持続可能な社会への移行を促していきます。
問題の定め方、問題の起源の遡り方、理想の未来の描き方、道筋の描き方など、多様な内容で全8回、約2ヶ月間にわたるプログラムが実施。そのうちのひとつに、共創型事業の現場を体感するフィールドワークが岐阜県飛騨市で行われました。
今回のコラムでは、フィールドワークの内容と、多様な業界から集まった未来を切り拓きたいメンバーたちの様子を、参加者のひとりでもある飯澤からお送りします。

Writing:飯澤 絹子 Editing:ヒダクマ編集部 

心を躍らせながら飛騨へ

毎週土曜の終日に行われていたTransition Leaders Program。申し込み時に志望動機を提出する必要があったこともあるのか、プログラム初日から、とても熱い時間を過ごしていました。
通常業務でできないけれどやりたいことに取り組める喜び。講義を聞けるだけでなく実際にワークをしながら第一線でご活躍されている先生方とディスカッションできる貴重さ。社内では理解してもらえないけど、ここなら話せる仲間がいる!
学生時代に戻ったかのような新鮮さでプログラムを楽しむ中、みんなで一際気になっていたのは岐阜県飛騨市でのフィールドワークでした。
共創型のプロジェクトとは、具体的にどのようなものなのか。プログラムの最終アウトプットとして提出するエコシステムは林業や自然に関するものではないけれど、どのように参考にできるだろうか。楽しみ半分、学び取れるかのドキドキが半分の状態でした。

さまざまな業種の企業から約30名が飛騨に集結。会場となったFabCafe Hidaは活気に満ちていた。

地域一体での動きを直接見聞きし、体感する1泊2日

今回のフィールドワークのテーマは「共創型事業の現場を体感し、トレースする」。フィールドリサーチとレクチャーを通じて、林業の新たなバリューチェーンの構築に向けた地域一体での動きを体感し、飛騨古川という町を味わい、感じたことをシェアをする、盛り沢山な1泊2日でした。

はじめは広葉樹を集める土場と製材所への訪問。
広い土地に沢山の木々が横たわっていました。普段家具としての木しか見ないので、ひとつひとつ人が関わりながら製材されていく様子に圧巻されました。自然の一部だったものが、人の手によって見たことのある「もの」に変わっていくのを感じたからです。

広葉樹を集めて仕分けする集材所である、土場(どば)。
広葉樹を専門に扱う製材所。

大切に育てられた木だけれど、曲がっている木は売り物にならなくなってしまう。だから、「曲がり」を活用した加工ができるよう、ヒダクマでは3Dスキャンなど、デジタル技術を利用して曲がり木を活用している。製材の行程で剥かれた木の樹皮は、牧場で飛騨牛のお布団になっている、など木を大切に思って加工し、活用しようと工夫されていると感じました。

製材の行程で剥かれる木の樹皮。牛の寝床に敷かれる。

土場・製作所に隣接する、飛騨の広葉樹で作られた建築「ヒダクマ森の端(もりのは)オフィス」の見学も。飛騨の広葉樹を余すことなく使ったあたたかみのある建物で、うっかり長居したくなってしまうような居心地の良さが印象的でした。断熱材は飛騨牛のお布団にもなっているカンナ屑。コンセントプレートも広葉樹で、さながら森です。

ヒダクマの森の端オフィス。
森の端オフィスの断熱材。
森の端オフィスのコンセントプレート。

フィールドワーク後のレクチャーでは、官民共同事業体としてヒダクマを設立した経緯や地域内外の人々との連携による取り組みをご紹介いただきました。森、地域、人にとって豊かな取り組みだと感じていましたが、利害関係者は多く、所謂「余所者」として、どのように信頼をしてもらうかなど、地道な取り組みを積み重ねられた結果として現在の形になったことが伝わってきました。

「森と人の物語が紡ぐ地域の連関、持続可能性」というテーマで実施した松本によるレクチャー。官民共同事業体設立の経緯や、地域内外の人々との連携による取り組みを紹介した。

翌日に行われた家具の老舗メーカー飛騨産業の岡田明子さんからは、地元のメーカーとして、新たなバリューチェーンの構築の取り組みについて伺いました。飛騨の林業を守るために、いわば競合である他社と手を取り合うことになった経緯からは、他者を受け入れるのを厭わない飛騨の文化も関係しているとわかりました。岡田さんのお話を伺う前から、見学やレクチャーの時だけでなく、町散策で出会った方も、ご飯のケータリングをご用意くださった方も、気さくに接して、良くしてくださったことが印象にあったため、参加者みんなで頷きました。

飛騨産業の代表岡田さんからは「地域の循環の輪」と題し、家具メーカー飛騨産業の最新の取り組みから、「飛騨の家具フェスティバル」を事例に“地域の連帯”が持つ可能性について語り合った。
参加者の皆さんは、1泊2日の中で飛騨の食文化にも触れながら、フィールドワーク。
食事を囲みながら、参加者同士で交流したり、ディスカッションしたりした。

生まれた共通言語と絆に支えられて、ラストスパートを駆け抜ける

東京に戻った私たちは、チームメンバーの所属会社や専門にちなんだテーマを設けて、エコシステムにアイデアをまとめていきました。飛騨でのフィールドワークにより、業界や職種を跨いだバリューチェーンの解像度が上がったことで、ディスカッションしやすくなりました。「ヒダクマで言うと〇〇な感じをイメージしたんだけど…」のような共通言語が生まれたと同時に、飛騨での好事例から、どのような要素があるとエコシステムを成り立たせられるのかが話しやすくなりました。
「トランジションデザインは専門領域が広く、「必要なことはなんでもやる!」です」と説明くださった先生もいらっしゃったほど、てんこ盛りなプログラムでした。限られた時間の中でひとつのエコシステムを展示できるところまでまとめられたのは、飛騨での五感で味わうフィールドワークがあったからこそでした。また、飛騨で寝食を共にし、夜中までトランジションデザインの話、仕事の話で盛り上がってからの一体感の増し方は、普段味わえないものでした。大人になっても無邪気さを持ちながら、同じ志を持つ者同士で学び、手を動かせたことに感謝です。

トランジション・リーダーズ・プログラムに参加したメンバーたちは、最終的にエコシステムをチームごとにまとめ、展示。

フィールドワークはもちろんのこと、飛騨で出会ったみなさんのあたたかさ、美味しい空気、ご飯、お酒も私たちのワークを後押ししてくれたことを最後に記して、筆をおきます。

「Transition Leaders Program」の詳細はこちら

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ヒダクマでは企業の方向けの合宿プログラムの企画・設計・運営を行っています。合宿のフィールドとなるのは、岐阜県の最北端にある山に囲まれた自然豊かな飛騨地域。地域資源である広葉樹の森を、活用する官民連携での取り組み「広葉樹のまちづくり」を推進する地域です。

ヒダクマでは、森を起点とした官民連携の取り組みを、さまざまなステークホルダーとの関わりから考える共創型イノベーションや、森・地域の持つ可能性から地球規模の課題に対するサーキュラーエコノミー・ネイチャーポジティブを考えること、日常とは違う飛騨という環境で共に過ごし議論することで生まれるチームビルドアップなどの合宿が可能。プログラムから木を使った空間づくりや新規事業/商品/サービス開発への展開、人材育成に関わる活動をサポートします。
目的やご要望に合わせてアレンジを行うことで、飛騨での滞在を通じてご自身の今後の活動のアイデアやヒントを発見できることを目指します。

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