飛騨市の水と土の関わり ー 土(中編)
Introduction
はじめに
飛騨市主催で開催されたセミナー「広葉樹が育む水の秘密に迫る」のレポート中編。登壇したのは、水文学(自然界における水の循環)を専門とし、2021年(令和3年)より飛騨市をフィールドに森林と水質の関係性について調査・分析・研究する岐阜大学 応用生物科学部の大西健夫教授。中編で紹介するのは「飛騨の土」ついてのお話です。
Writing:井上 彩(ヒダクマ) Photography:飛騨市提供
Writing:井上 彩(ヒダクマ) Photography:飛騨市提供
飛騨市では、豊かな森、水、土、食の親和性を背景に、生産者の皆さんのこだわりや農家自慢の食材ひとつひとつを下記サイトでご紹介しています。
■飛騨市公式食の情報サイトHIDAICHI:https://hidaichi.jp/
土の履歴
大西教授は、土壌が形成される「時間」「母岩」「植生」「地形」「気候」という五大要素を紹介しながら、岩盤が風化して様々な鉱物が溶け出し下から供給される無機物と、地表に生えている植物や動物の死骸などの有機物の出会いというところにできるのが土であると解説。
黒ボク土の特徴①リンが欠乏しやすい
21世紀に森林土壌分類の大きな見直しが行われ、最近では非アロフェン質の(非火山灰性とも呼ばれる)ものも黒ボク土だと見直されてきたことにより、黒ボク土の分布域が広がったとのこと。黒ボク土とは、日本に見られる特徴的な土壌で、火山灰由来の暗土(あんど)と呼ばれてきた土壌です。非アロフェン質黒ボク土を見てみると、高山から飛騨市、富山に分布しています。
黒ボク土の特徴②イオンをたくさん吸着する
黒ボク土の形成に縄文人が関わっている?
黒ボク土はどのように形成されてきたのか?黒ボク土の形成に、縄文人がいた頃から火入れをしたり、焼畑的なことをやっていたことが大きな役割を果たしたのではないかということが、まだ十分な検証はされていないですが、有力な学説として出てきているそうです。火入れをすることによって、植物体が燃えて、燃えカスが炭になり、それが土壌に供給されると、その後地表面から分解されていった有機物がどんどん炭に吸着し、土壌に炭素を吸着してそのような特性を帯びるようになったのではないかと言われているそうです。
大西教授は、飛騨市でそういった土壌に相当する土壌がどれくらいあるのかを調べています。山奥の黒内、昔の遺跡が出てくる場所の近くである上野、上気多の3地点で土壌を採って調査。50cmくらいの穴を掘り、10cmごとに土を採取し分析しました。通常の褐色森林土だと、下の方は黄土色、上の方だけ黒い土壌なんだそうですが、いずれも全然違い、黒いということがわかったそうです。
大西教授はひとつの重要な指標として炭素と窒素の量の比率であるC/N比を紹介。
かつては草原性の植生だった?
プラントオパール
大西教授はさらに別の観点から草原性の植生を裏付けるために、プラントオパールの分析を実施したと話します。特にイネ科の植物の骨格を形成するケイ酸は、岩石の一番硬い部分を形成するような物質なので、そうそう分解されません。形として土壌の中に残存することがわかっており、植物由来のプラントオパールとして半永久的に残ります。大西教授は、専門の研究機関である古環境研究所に依頼し、土壌・深さごとに分析してもらいました。
飛騨市にはいろんな水田の土壌がある中で、大西教授が注目し調査したのは泥炭土。その理由は、殿川流域のとある場所でつくられるお米が非常においしいと言われており、その水田の土壌に興味を持ったことがきっかけとのこと。殿川流域の泥炭土の地点で、先の土壌の分析と同様に、50-60cmの穴を掘り、分析をしました。