#制作秘話
Column

sustimo Lab.プロジェクト(2)サスティーモ®の加工実験と未来像を林業のネットワークから考える

Introduction はじめに

 100%植物資源によるバイオマス成形材料「サスティーモ®」を製造販売している合同会社ELEMUS(以下、エレムス)が、2組のデザイナーと共同で取り組んでいるsustimo Lab.プロジェクトを紹介する全3回のレポート。初回でお伝えしたsustimo Lab.プロジェクト発足後、プロジェクトメンバーが小雪が降る飛騨市内を訪れた。そこで、ヒダクマと林業従事者らが共に自然環境の再生(リジェネラティブ)を目指す取り組みを見学した。さらに、FabCafe Hidaで行われた材料の加工実験の様子も今回のレポートでお伝えしたい。

Writing:Kakeru Asano Photography:Kentaro Saito, Mizuki Imai & Asano Kakeru 

広葉樹の森と林業の生態系

 日本最大の漆産地である岩手県浄法寺を訪れてから約2週間が経過した。sustimo Lab.プロジェクトメンバーは、サスティーモ®の原材料として、飛騨市の広葉樹から木粉を作るための現地訪問と、カフェに併設された木工房での簡単な加工実験を行う1泊2日の短期合宿のためにFabCafe Hidaを訪れた。エレムスCMOの稲木孝至氏、参加デザイナーの秋山かおり氏、堀内康広氏とTRUNK DESIGN Inc.のスタッフらを現地で迎えたのは、ヒダクマ代表取締役の松本剛氏だ。

 FabCafe Hidaの周辺には広葉樹の集材所や製材所が点在しており、飛騨の匠文化館では優れた建築技術を持つ職人の歴史が伝えられている。市面積の93%を占める広葉樹を中心とした森林が創り出す町並みは、まさに飛騨市ならではのものだ。スギなどの針葉樹に比べて、ケヤキやブナなどの広葉樹はゆっくりと成長するため、重くて硬い性質を持つ。飛騨市の木は70~80年生で丸太の直径が細い小径木が多いと言われている。また急峻な地形を持ち、豪雪地帯である飛騨では雪の重みで曲がった木が多い。さらに多樹種であり、安定的に供給できず大量生産に向かないことから、現在ではそのほとんどがパルプやチップ、薪などの燃料として安価に取引され、ごくわずかな材料だけが家具の材料として使用されている。時代の変遷とともに、職人や木材を供給する製材所も姿を消しつつあるのだ。

 そこで、ヒダクマでは、従来の広葉樹を取り巻くネットワークが縮小している現状からの脱却を目指し、その個性を活かした製品開発の併走や、森林とデザイナーや建築家などのクリエイターをつなぐ環境の構築をおこなっている。松本氏によれば、森林の視点から森と人との関係を再考することで、持続可能な資源活用の方法を模索しているとのことだ。

松本氏によるヒダクマの取り組みを紹介するショートレクチャー
斜面に広がる育成複層林。時期を分けて伐採することで年齢や樹種の異なる多様な生態系を生み出すことができる。
伐採跡地に入る一行。遠くからはよく見えなかったが、若い木々が陽の光を浴びて成長していることが分かる。
病害虫が引き起こす立ち枯れを起こしている樹木(中央)。近年、日本の雑木林や森林で問題となっている「ナラ枯れ」だ。人の手で伐採を行わないと被害はどんどん広がるそうだ。

 続いて訪れたのは、2022年に新たにオープンした「森の端オフィス」だ。この拠点では、森林資源の活用と森づくりの連動推進を目指している。飛騨市地域おこし協力隊の及川幹氏から、広葉樹活用コンシェルジュの活動について伺った。木材流通に課題を感じている及川氏は、素材を生産する川上、製材を行う川中、製造販売を行う川下の業者をつなぐために、中間土場(どば)に注目していると話す。独自の広葉樹サプライチェーン構築を目指す「飛騨市広葉樹活用推進コンソーシアム」では、飛騨地域の川上から川下までの事業者が連携し、これまで森から市外のチップ工場に直送されていた小径広葉樹を中間土場に集め、多様な製品の製造や新たな販路拡大に取り組んでいる。エレムスのCMOである稲木氏は、サスティーモ®の製造過程で必要な木粉の利用などで協力できることがあればと産地間の連携に興味を示した。

顧客のニーズを汲み取って原木選びを手伝うことで川上から川下を繋げることに繋がると話す及川氏。
森の端オフィスの向かいにある柳木材に運び込まれた丸太、カットされた際に出る木粉、剥ぎ取られた樹皮
さまざまな形状、サイズ、樹種の木材がたくさん並んでいる
出荷されるのを待つ薪を手に取る稲木CMO
樹皮には石ころなどの不純物があるため木粉にはできないと話す稲木CMO(中央)、製材所にあるさまざまな資源を観察する秋山氏(左)と堀内氏(右)

切って磨いた加工実験

 FabCafe Hidaに併設されている木工房に戻った一同は、「万が一、サスティーモ®の削り粉などでかぶれないように」という配慮のもと、稲木CMOからゴム手袋を受け取り、エレムスで制作したサンプルや端材を使って加工実験に着手。プロダクトのアイデアを引き出すために、秋山氏は「漆素材ならではの磨き」から生まれる深い色味と光沢に、堀内氏らは「産地の業者に加工を依頼できるか」を確かめるために、切断や切削に注目した。エレムスでは物性評価をおこなっている最中だが、仕上げに影響する加工実験をこの機会に深めたいと考える稲木CMOの熱意が伝わってくる。

 ヒダクマの黒田氏がテーブルソーで9mm厚ほどの板材サスティーモ®を切断したところ、普段の木材とは少し異なる独特の甘い香りが切断面から漂ったという。切断面を詳しく観察しても、表面と中心部で大きな差異は見られず、均一に硬化している様子が確認できる。色は異なるが、切断面はまるでカットした象牙のようだ。

切断面を確認する稲木CMO、堀内氏、秋山氏

 細長い板材をサンドペーパーで目を徐々に細かくしながら磨いてみる。金型成型した状態の板材もそれなりの光沢感と艶やかな表情をしているが、磨くことでより滑らかなツヤ感が生まれた。色味はわずかに赤みがかった濃い茶色に見え、研磨剤のピカールで仕上げると、高級な水ようかんのような見た目になる。研磨した素材の仕上がりに対し、デザイナーの両氏は「漆の特徴を引き継いでいることが一目でわかる」と満足した表情だ。稲木CMOは「今まで磨いたことがなかったが、こんな表情が出るとは驚いた」と新たな可能性を感じているようだ。

研磨加工中の様子
研磨をした上部はつやつやテカテカと高級感が増した

100年後も続く関係性を目指すサスティーモ®

 短い実験時間であったが、木材のように加工できる側面もあることがわかった。堀内氏は、「板材のサイズをもっと大きくしたり、厚みのある板材にすれば、既存製品の材料と置き換えて試作が可能になる」と稲木CMOに提案。2023年末には少し大きなサイズ(300x100x30mm)の板材を作ることができる金型が届く予定だと「1月中に試作を届けたい」と稲木CMOはすぐに返答。年明けからも実験の繰り返しによるさらなる開発が続く見込みだ。

 粉体と漆を原材料とするサスティーモ®の普及は、森林や林業に関わるあらゆるネットワークに影響を及ぼす可能性がある。100年後も漆文化やウルシ栽培が継続されるように、新たな森林管理の方法も視野に入れた挑戦的な試みが始まっている。次回のレポートでは、プロダクト開発に向けた実験の中間報告を予定している。

加工実験を施したサンプルの数々(※写真にあるものには試作が含まれています)

 

sustimo Lab.サンプル送付の希望

エレムスは素材サンプル(有料)の作成を進めております。ご希望の方はリンク先のフォームよりメールアドレスをご登録ください。2024年春をめどに準備が整い次第、順次、ご案内申し上げます。

サスティーモ®サンプル送付ウェイティングリストへの登録はこちら。

 

 

 


 

筆者プロフィール

Photo: Kinugasa Natsumi

浅野 翔|Asano Kakeru

1987年兵庫県生まれ、名古屋育ち。2014年京都工芸繊維大学大学院デザイン経営工学専攻修了。同年から、名古屋を拠点にデザインリサーチャーとして活動を始める。
「デザインリサーチによる社会包摂の実現」を理念に掲げ、調査設計、ブランド・商品開発、経営戦略の立案まで、幅広いジャンルで一貫したデザイン活動を行っている。
「未知の課題と可能性を拓く、デザインリサーチ手法」を掲げ、文脈の理解〈コンテクスト〉と物語の構築〈ヴィジョン〉を通した、一貫性のある提案を行う。
https://kakeruasano.com

Contact Us

私たちとプロジェクトをはじめてみませんか?

Hidakuma

飛騨の森でクマは踊る
FabCafe Hida:〒509-4235
岐阜県飛騨市古川町弐之町6-17 
飛騨古川駅から徒歩5分
TEL 0577-57-7686 FAX 0577-57-7687

森の端オフィス:〒509-4256
岐阜県飛騨市古川町高野287-1 
FabCafe Hidaから徒歩10分