#制作秘話
Column

ものがものらしくあるように。建築家の伊藤維さんによるFabCafe Tokyoのテラス什器製作解説

FEATURED PEOPLE
登場人物
伊藤 維
Tamotsu Ito
伊藤維建築設計事務所
黒田 晃佑
Kousuke Kuroda
ヒダクマ 森を事業部 森のクリエイティブディレクター

Introduction はじめに

伊藤維建築設計事務所が設計、ヒダクマが製作ディレクションを行ったFabCafe Tokyoのテラス什器。設置・撤収が容易な仮設式の什器の材料には、広葉樹のノタ材を採用しています。ノタ材は木の外側の部分で、直線部分が取れないことから普段は家具用材としては使用されない部分です。冷蔵庫の中のものだけで料理をするかのように「そこにある材料でつくる」を体現した本プロジェクト。単純にあるものを組み合わせるだけでは成立しない全体のバランスを伊藤さんはどのように捉え、料理したのでしょうか?FabCafe Tokyoのテラス什器のプロジェクトをふりかえりながら、本プロジェクトを担当したヒダクマ黒田が伊藤さんにお話をうかがいました。

Writing:松山 由樹 Photography:表 萌々花(竣工写真) Editing:ヒダクマ編集部 

FabCafe Tokyoのテラス什器(撮影:表萌々花)
広葉樹のノタ材を採用。直線部分が取れないことから普段は家具用材としては使用されない部分をテーブルに生まれ変わらせた。(撮影:表萌々花)

同じ1本の木でもアート作品にもなれば、捨てられてもしまう

伊藤さんとヒダクマとの出会いは、2019年のネリ・オックスマン&ザ・メディエイテッド・マター・グループによる森美術館 「未来と芸術展」の展示作品制作でのこと。当時伊藤さんは岐阜県産ヒノキの材料調達と木取りを担当し、製作ディレクション・製作をヒダクマが担当しました。

伊藤さんはこのアート作品の加工の際に余った端材を引き取ることにしたそうです。

伊藤維さん

「ほんとうにきれいな東濃ヒノキだったんですよ。1本の木から一方はアート作品になるのに、一方で余った部分は捨てられてしまうのはもったいないと思ったんです。」

スイスから帰国後、日本で事務所を開く際に、そういった材料をスペースの問題で捨てずに済む余白を確保するためにも都心部ではなく岐阜県を拠点にすることを選んだそう。

「山に近い工務店さんは銘木を集めていたりしますよね。そういったことに近い活動も例えばできるかなと思い、東京でなく岐阜を拠点にすることにしました。」

2019年のアート作品制作や古民家視察での学びなどをきっかけに材料を集めるようになった伊藤さん。

伊藤さんが設計した自身の事務所ステージなどの仮設建築岐阜のいちご作業所・直売所・遊び場でも伊藤さんのストックや集めてきた廃材、解体材を使っています。「あるものでつくる」という伊藤さんの手法は、FabCafe Tokyoのテラス什器のプロセスにも通じるところがあります。

冷蔵庫のもので調理するかのように、あるものでつくっていく

FabCafe Tokyoのテラスでお話する伊藤さんとヒダクマの黒田(写真右)
黒田:

維さんは日頃から材料をストックしてますよね。何をポイントに選んでいるでしょうか?

伊藤:

あるものからつくるという観点で言うと、あまり「何かを狙って選ぶ」という感じではないですね。その場その場で出会って、とりあえずストックして、自分の記憶の範囲であれあったなって思い出したものから使っているような、いまのところはそれぐらいのキャパなんです。あるものを広げて組み合わせてみて何かをつくっている感じです。

黒田:

料理を、その日の冷蔵庫にあるものだけでつくる感じに近いですね。

伊藤:

ものの見え方や存在の仕方が複数あると豊かだなと思っているので、テーブルをつくるとしても、もとは全くテーブルの材料ではなかったような、これはテーブルなのか?くらいに見える材料を選ぶことはあります。あとはあまり原理主義にならないようには気をつけていて、アップサイクル、サステナブルってなると全部をそうしないといけないと捉えられてしまいますよね。実際正しいかどうかはわからないんですけど、いろんな意味や役割に開かれて、なんか面白いとか、楽しいとか、そのように続けていく方がいいのかなと思っています。

そうやってあるものに複数性を持たせた形で設計を進めている伊藤さん。今回のFabCafe Tokyoのテラス什器においてはどのようなプロセスで設計・製作が進んでいったのでしょうか?

材料を必要以上に加工を加えない形で都市にストックする

黒田:

木材の在庫は素材生産地に集中しています。ウッドショックなどで価格が変動すると、在庫を抱えている素材生産地に負担がかかります。「材料を必要以上に加工を加えない形で都市にストックする」ということが可能になれば、木材を都市部で使用しつつ在庫としての管理が可能になるのではないかとある時思いました。

そんな時に2021年のSDレビューで、材料をどんどん組み合わせてつくった「岐阜のいちご作業所・直売所・遊び場」の考え方と組み合わせることによって、達成できるのではと考え、伊藤維さんをFabCafe Tokyoのテラス什器のプロジェクトにお誘いしました。

その後、伊藤さんが飛騨を訪問し、FabCafe Tokyoのテラス什器に使う材料選定がスタートします。伊藤さんは飛騨で、ノタ材と出会いました。

伊藤:

最初はノタ材の平らに削られている面を表面としようと考えていたんですが、FabCafe Hidaの木工房で裏面の方を削ってみました。そうすると、良い感じの部分的な水平面と砂丘のような曲線の組み合わせができてきて。テラス席では長時間滞在するわけではないし、ワーキングデスクではないテーブルなので、全部が水平でなくてもいい。こうやってMacbookも置けますし、テーブルって水平でなければいけないという固定概念を壊してもいいんだっていう解釈を与えてくれるという意味でこっちの面を使おうとなったプロセスはおもしろかったですね。

ヒダクマ黒田がFabCafe Hidaの木工房で裏面の方を削っている様子
黒田:

あと、銀色になっている部分(木の耳・樹皮の部分)がめちゃくちゃかっこいいですよね。山っぽいと言うかそれが渋谷にあるっていうのがいいなって思っています。これだけコンクリートで舗装されて、作り込まれた都市部は直線のラインがほとんどなので、自然のラインが際立つという発見がありました。

飛騨から試しにノタ材を持ってきた黒田が伊藤さんに送った写真。
黒田:

維さんにその写真を見せたら、東京砂漠ですねって言っていました 。すごく印象的で納得感がありました。砂漠って生物にとっては厳しい環境で、ある種この環境は砂漠とも言えるので的を得ていると思いました。

伊藤:

キーワードが古くてすみません(笑)。

材料やディテールの見極めから、テラス什器に求められる仮設性をどう表現していくか

(撮影:表萌々花)
黒田:

什器の設計について僕が聞いてみたいのは、脚の部分についてです。この什器はペケ脚と三角形で構成されていますよね。 仮設性を表現するために工事現場のペケ脚を引用したのでしょうか?

伊藤:

それはありますね。工事現場のペケ脚を連想させつつも、そうでもなく見えるというところを意識しました。両方の脚がペケだと仮設的過ぎるので、片方は三角形にすることにしました。

黒田:

三角形の脚の角をRにしたら可愛いんじゃないかと思って作りを考えましたが、結果的に安定性も上がりましたね。

外に置くことを想定して、Rを持たせ面支持ではなく、点支持にするという細部までこだわった工夫がなされている。
伊藤:

どうやったら簡単に組み立てられるか、というポイントは非常に大きかったです。クランプのアイデアが出てきたのも、クランプだと直感的に締めるというのが分かりますよね。ある程度直感的にわかるけど、クランプっぽさが全面に出ないというのはこだわったところです。

黒田:

実は既存で流通しているクランプかに見せかけて、少しアームの部分を短く切ったり、この什器に合わせて地味にカスタマイズしました(笑)。

伊藤:

あとは土台の部分のVU管です。ある程度大きさのある円形で、外部にも使えるものということで用いました。前向きでいいなと思ったのは、商品番号をあえて削っていないところです。

黒田:

一度削ってみたり色々試作で考えた結果そのままにしました。ものを集めてつくるときに、どれだけ前の記憶を引き継げるかどうかが大事だと思います。有象無象な存在から”もの”として認識できるかどうかは、前の記憶を保持できているか否かだと思っていて、このVU菅もなんとなく前の姿が想像できますよね。

テラスの植栽の部分に使われているVU菅。(撮影:表萌々花)
伊藤:

そうすることで自然と人工的なものの区別がなくなってくるのではないかと思います。これ(FabCafe Tokyoのテラス什器のVU菅)はなんというか「野生のVU菅」だと感じています。一旦、自然や人工物という区別なく考えていくと、周りにも野良感のある人工物はたくさんある気がしています。そうすると、ここに入れる自然の想像がどんどん広がっていくのでは?と思っています。

商品番号を削っていないVU菅。伊藤さんは野生のVU菅と表現
黒田:

ものがものらしくある佇まいってありますよね。

伊藤:

このノタ材でつくったテーブルは、テーブルという一面も持ちつつ端材であることも想像できます。逆にVU菅は新品ですが、こういった使い方がされていない未来も想像できます。こういった、ものの存在のオープンエンドさが僕がここ数年大事にしていることかもしれません。現状、ノタ材が余剰材となっているのも、産業的な事情があってのことで、それは人間が製材の標準的なありかたを規定した結果です。でも、その存在が逆にテーブルは水平の大きい面であるという固定概念を崩してくれるという、なんというか逆転したプロセスが僕はいいなと思っています。余ったものが逆に豊かに、想像を引っ掻き回してくれるという意味でも、この材とは良い出会いでした。

黒田:

そういう引っ掛かりを設計の中でつくっていくところが材料を選ぶ見極めどころなのかもしれないですね。

伊藤:

このノタ材を使って無理やり大きな水平面を作るのは違いますよね。でも、水平じゃなくて良いテーブルをつくろうとなったときに、道具は水平面を作ることに最適化されています。水平じゃなくて良いテーブルをつくるためにわざわざ特注で道具をつくるというのも違う。こういったことを通して、つくるプロセスや道具を見直す機会にもなりますね。

黒田:

今回の什器では、水平面の捉え方をテラスの用途に合わせてノタ性を残すことを考えましたが、まだまだ道具や、作り方、使い方の面で表現が変わる可能性を秘めているからおもしろいなと思います。維さんと一緒にやっておもしろかったのは、維さんは、クランプやパイプの中に入っているキャスターなど、細かい部品のことをよく知っていました。品番の選び方がすごく機能的というか、かっこいいプロダクト的なクランプがたくさんある中で、締めるという機能が最適なクランプを選んでくれたところに、維さんの個性を感じました。

伊藤:

それも、ものがものらしくあるという延長ですよね。

自分でコントロールしきれないものを、建物のスケールでどう扱っていくか

最後に、今後のプロジェクトでどういった素材をつかってみたいか、設計する際の考え方などを伺いました。

伊藤:

今、石をテーブルの脚として使おうとしています。天板を取ったら枯山水庭園みたいになるんですよ。

黒田:

置かれた石が関係性をつくっていって、空間が出来上がっていくのはすごいおもしろいですね。

伊藤:

今度、現場に行くんですけど、何をするかっていうと、手に入った石の置く向きを決めに行くんですよね。このプロジェクトに限らず、つくりたいものをつくるというよりは、自分でコントロールしきれないものと向き合って、建物のスケールでどうつくれるかは常に考えてるところですね。構造を成立させるためにどうしても計画しなきゃいけない部分がある中で、大体のノイズに対応できるように余裕をもってつくることはできます。でもそれは計画の中で余白をつくっていても、全体では計画していることから抜けられない気がしていて。計画があっても、そのときの出会いとノイズによって、こちら側も変化していく共存関係の中でつくれる建築ってどうやってできるのかなと思ってますね。

伊藤維建築設計事務所によるワコム&ヘラルボニー盛岡ビレッジ。石をテーブルの脚として使ったプロジェクト(撮影:伊藤維建築設計事務所)

伊藤:

最近イチゴもやってくれた構造設計の方と、山と林業のサイクルを作ろうとしてた学生の卒業設計を見た際に思ったことがあったんですが、そこが特殊な造作材をつくっている地域だったので、すごく特殊な技術ばっかり持ってるんです。その場合、製材所をつくるのではなくて、山を考えた方がいいと思いました。斜面だったり、生えている環境によって育つ木が違うから、山を見てから木を使うことをはじめたり、状態を見てどう伐るかを含めてできたらおもしろそうだと思いました。

黒田:

ヒダクマでも似たようなことをやってるなと思いました。特注広葉樹というんですが、実際に建築家やクリエイターたちと一緒に、森に入り、その後どう製材するのか、ということも地域のみなさんと一緒に考えます。特徴的だなと思うこととして飛騨市の場合は、伐採後の経過観察をしています。伐採した後の森がどうなっているのか、長期的に森に入ってその経過を確認しています。普通のプロセスでは、こういったことは明るみにならないので、それができるのは、すごくいいことだなって個人的には思っています。伊藤さんも是非、また来てください!

あとがき

このインタビューから今までどれだけ固定概念に囚われていたかに気づくことができました。ノタ材を使ったテーブルは「テーブルは全部が水平でなくてもいい」という、まさにその固定概念を覆す考え方です。現在は当たり前のように製材された板材を購入し、使っていますが、「材料は森に入って調達する」といった考えも今後はもっと当たり前になるかもしれません。
ヒダクマの拠点とする飛騨地域では、10月頃に伐期を迎えます。伐採前に森に入り、立ち木の状態から木を選んでみませんか?というのが「未来の建築プロジェクト向け特注広葉樹」の取り組みです。この対談の中で話されていた「ものがものらしくある」といったことを体現するひとつかもしれません。

ヒダクマ 松山 由樹

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