#制作秘話
Column

扱いにくい木のコブが、ホテル客室を彩る

FEATURED PEOPLE
登場人物
黒田 晃佑
Kousuke Kuroda
ヒダクマ 森を事業部 森のクリエイティブディレクター
古田 正憲
Masanori Furuta
飛騨市森林組合 林産課 課長補佐

Introduction はじめに

木は、いくつもの要素によって構成されています。土から水分を引き上げる根、いくつもの道管(水の通り道)を束ねる幹、枝、それらを覆う樹皮、そして葉っぱ。家具をはじめとした木製品の材料として採用されるのは、主に幹の部分です。ヒダクマでも基本的には幹を製材した板を使い、豊富な樹種ごとの色味や模様、特性を考慮したものづくりをします。ただ、この記事で取り上げるのは「コブ」です。

コブ(瘤)。やまいだれ(疒)にとまる(留まる)と書くだけあって、コブは悪性の何かを溜め込んだように繊維が渦巻き、肥大し、幹からボコっと突出します。「こぶとり爺さん」という童話があるように、一般的にコブは歓迎されません。しかし、コブにはどこか魅入ってしまう、ときに禍々(まがまが)しく、ときに愛らしい造形が見て取れます。

そんな捉えどころのないコブが、今年7月に開業した「hotel around TAKAYAMA」(岐阜県高山市)のいくつかの客室にあしらわれています。客室に相応しいものをつくるために、コブが持つビジュアルの強さを和らげつつも魅力を引き出す加工を試行錯誤しました。

Writing:志田岳弥 Editing:ヒダクマ編集部 

モノとしてのコブをまろやかにする配置

5つ部屋に対し、コブは各部屋固有のパターンで配置されています。山並みのように見えるパターンもあれば、生態標本のような配置、万華鏡が生み出す図形のような配置も。多義的な配置により、コブが持つモノとしての強い個性はまろやかになりつつも、その個性に迫ろうと思えばどこまでもコブの深淵に見入ることができます。

未利用材であるコブを転換したい

コブは、森に立つ木が板になるまでのいくつかのタイミングで、母体である木の幹から削ぎ落とされます。例えば、森で伐った木を丸太の状態で町に下ろしてくる際、コブは積載効率を低下させる要因です。削ぎ落とされたコブは、多くの場合そのまま薪などとして燃やされたり、伐採現場に残されるものもあります。ものづくりの視点から見れば、いわゆる未利用材、林業用語でいえば林地残材です。そうした未利用材を見つけると、とりあえず集めて何かに転換したくなるのがヒダクマらしさのひとつかもしれません。ホテル客室を彩るコブたちは、飛騨市森林組合、地元の製材所や木材事業者の方々の協力により集まったものです。

薪用の材からわざわざコブを削ぎ落としてくださった飛騨市森林組合の古田さん

加工で失われるコブらしさ、とはいえ素で強すぎる個性

コブを加工して分かったのは、切れば切るほど、コブをコブたらしめている特徴が失われゆくということ。すでに切断面のある半球状のコブを真っ二つにカットしただけで、切り分けられたリンゴのような四分球になってしまいます。しかし、未加工のコブはあまりに主張が強く、自然物としての個性だけを装飾のよりどころにすることは、ホテルの客室という空間に対しては最適解ではないように思われました。

昇降盤でコブをカットする黒田(危ない加工ですので、真似しないでください)
コブらしさを失ったカット済みのコブ
ふたつのコブをはぎ合わせると、隕石のような塊に(しかし何も解決しなかった)
カットしたコブを鏡に置くと、湖面に浮かぶ山のよう(しかし何も解決しなかった)

コブを使った客室装飾に取り組んだのは、木のクリエイティブディレクター黒田。必要最低限の手数で、コブらしさを保ちつつも空間に相応しい装飾の形を模索しました。

また、コブは虫などの対策として熱湯で煮込んで樹皮を剥がし、内部に空洞がある場合はレジンを流し込むという下準備が必要でした。ただ、レジンを流すという単純な工程さえも、コブではままなりません。

レジンが硬化した後にカットしたコブ

試行錯誤の末、コブの個性に応じて加工方法をアレンジすることに。サイズが比較的小さく主張が強すぎないものはコブの形を残したまま配置を検討しました。サイズが大きくそのまま使えないコブは何枚にもスライス。ひとつのコブから生まれる断面の中で構成を考えることで、解体したコブらしさを再び連結させつつも、一見コブとは気づかないくらいに空間と調和する装飾を目指しました。

コブの生かし方を考える過程で生まれたデザイン(左)と、検討した配置パターン

検討した配置パターンは、156種類に及びました。その中から選りすぐった5つが「hotel around TAKAYAMA」の客室を彩っています。

冒頭にも述べたように、森や木は私たちが触れることのない要素を多分に含んでいます。その状況にはそれなりの理由がありますが、たくさんの実験を重ねることで、日々の生活に馴染ませられる森の要素がまだまだあるはずです。そのことをコブの装飾制作は示していたように思います。

Members

古田 正憲|Masanori Furuta
飛騨市森林組合 林産課 課長補佐

飛騨市出身。平成24年まで飛騨古川の料理旅館「八ツ三館」で、フロント経理チーフとして従事。 同年、前組合長からのお誘いを機に、飛騨市森林組合へ入組。 国有林事業の現場管理をメインに、冬季は薪ストーブ用の薪を製造・販売。 プライベートでは地元サッカークラブでコーチを務める。

黒田 晃佑|Kousuke Kuroda
ヒダクマ 木のクリエイティブディレクター

大阪府出身。大学で建築と木工を学んでいるうちに、光の現象に興味を持ちフィンランドへ暮らしと共にある家具や照明のデザインを学ぶために留学。そののち、木という素材の扱いを家具に限定せず考え森と関わっていくヒダクマに興味を持ち2019年から参加。人と素材、デジタルとアナログなど事象と事象のバランスを調整したり、繋ぐことで新しいものや価値を創る事を目指す。日常や生活を大切にしていて、散歩や音楽を探したりが趣味。

Member’s Voice

職業柄、林地残材の有効活用という点で、広葉樹の可能性に興味を持っていました。

中でもコブは、燃やすには火持ちは良いけど、硬いし、割りにくいし、面倒な存在。そんな中、思いもよらない「コブが欲しい」のひと言に、「コブだよ。コブ。コブ?」と言葉を失いながらも、提供し始めました。

コブを探すときは、心に余裕が生まれ、宝探しをしている様で、ストレス発散出来ますしいいですね。でもやっぱり、コブはコブ(^^)

古田 正憲|Masanori Furuta

子どもの頃、拾った石ころを蹴りながら通学路を帰って、家についた頃には達成感と共に、石ころを玄関に置いた記憶があります。そこかしこに落ちている石ころですが、置かれたその石ころは、僕にとっては記念すべき小さなトロフィーのようなものでした。

コブはきっと、幹から離れた瞬間に木のコブからこのコブになるんだと思います。

制作中の呼び方も、それぞれ切ってくれた人を頭につけて、〇〇さんのコブ。と呼ぶことにしたのでした。

黒田 晃佑|Kousuke Kuroda

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