非日常空間をオフィスにつくる意義とは?ーー建築家・佐野文彦さんの木の見立てと作法
Introduction
はじめに
ヒダクマはソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL京都)の内装プロジェクトを通して、木の美しさの引き出し方を考えるオンライン企画を開催しました。ゲストは、本設計を担当した建築家の佐野文彦さん。数奇屋大工としての経験から得た知識や技術を軸に、アーティストとして遊び心のある数々の空間やプロダクトを生み出している佐野さんから木の見立てや作法についてお話をうかがいました。
コロナ禍でオフィスの必要性についての議論が加熱する昨今、今のオフィスに必要な要素とは?ものを見立てる佐野さんの流儀とは?当日のトークの模様をお楽しみください。
コロナ禍でオフィスの必要性についての議論が加熱する昨今、今のオフィスに必要な要素とは?ものを見立てる佐野さんの流儀とは?当日のトークの模様をお楽しみください。
【イベント概要】
開催日時:2020年1月27日(水)16:00-17:30
会場:オンライン開催(Zoom)
スピーカー:
佐野文彦(Fumihiko Sano studio 代表/株式会社アナクロ 代表取締役)
岩岡孝太郎・浅岡秀亮(ヒダクマ)
主催:株式会社飛騨の森でクマは踊
木の塊をそのまま見せることで引き出される魅力
ソニーCSL京都の家具製作では、佐野さんとヒダクマはまず飛騨の土場へ足を運び、そこで紙パルプになる運命であった丸太を家具用材として目利きしました。いずれの丸太も長らく雨ざらしの状態で置かれていたことから、割れ目に雑草が生えていたり、虫が住みついていたため、製作では虫の駆除に苦労します。また丸太であるがゆえに天板の水平面を出すことも大変なことでした。一般的な素材を使った方が製作プロセスもコントロールしやすいなか、なぜあえてこの素材に取り組んだのでしょうか。
木を切らずとも見抜く力
丸太は西野製材所を貸し切って一つひとつカットされました。「製材所で丸太がカットされていくことで、宝石のように美しくなっていくことが印象的だった」と語る浅岡が、佐野さんに聞いてみたかったことがあります。それは、カットする時に木の表情の出方を予測できていたのかどうかでした。
非日常性のある、行く意味のあるオフィス
コロナ禍でリモートワークが活発になり、改めてオフィスの意義や在り方を考える人も多いのではないでしょうか。イベントでも参加者から下記のような質問をいただき、佐野さんや岩岡が答えました。
桃山時代と現代を往来するアーティストが創り出す空間事例
本来使うものと違う見方をして、ものづくりに導入する「見立て」を普段から実践しているという佐野さんから近作を紹介するプレゼンテーションが行われました。自然物をそのまま持ってきたような荒々しくダイナミックなオフィス空間や、静的で上品な面持ちを持った料亭、宿などから、一見対照的な事例に通貫する佐野さんのマインドや作法が浮かび上がります。
ビズリーチ 渋谷新南口ビル
ビズリーチ(東京・渋谷)のプロジェクトで求められたのは、700平米のワンフロアに「今まで見たことのないようなオフィス」をつくること。エンジニアやプログラマーたちが自然素材のなかで、五感に刺激を受けながら働ける唯一無二のオフィスを設計しました。
今だからできる数寄屋のかたちを追求する
日本料理「ときわ」
一方、日本料理「ときわ」(東京・西麻布)の内装計画は数寄屋建築の技法を結集させたようなデザイン。佐野さんは数寄屋の表現について、木材としての格や質の見せ方、繊細なディテールの表現が必要とされ、そこの面白さ、ウィットに富んだ感じをどうプレゼンテーションしていくかが数寄屋だと語ります。
菱屋
築80年ほどの古民家をリノベーションした宿・菱屋(京都・福知山)。できるだけ地元の材料を使い、地元の職人さんに依頼してほしいというオファーがあり、地元の和紙作家や造園屋と協働でつくられました。部屋の壁を和紙張りにしたり、藍染文化が育まれた土地であることから、土壁に藍を練り込ませ、絶妙な色合いを表現しています。
“魚籠に花を生ける”ように。機能を満たしてこその「見立て」
改めて、佐野さんにとって「見立て」とは何か?と問うと、佐野さんは「牛乳瓶に花を生けてみる」、「櫛でパスタを食べてみる」といった例を挙げ、こう話してくれました。
文:石塚 理奈
あとがき
今回、ソニーCSL京都の事例や佐野さんの近作から、佐野さんの粋な遊びの感覚に触れ、その感覚がこれまでの経験やコミュニケーションから育まれたものであることも認識することができました。作品のお話から、歴史が流れていること、今とつながっていることを強く感じさせられました。
イベントの最後、佐野さんは、腐ったような草が生えている木や真っ黒い木でも、5mm削るだけで新品のように見えると言い、「木そのものの裏側に美しいものが隠れて眠っている」と語りました。佐野さんや飛騨の職人たちの力により引き出されたソニーCSL京都の丸太たちは、これからも家具として美しさを遺憾なく発揮していくことでしょう。
Editing:井上 彩(ヒダクマ編集部)








