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Column

「デザインをリアルに落とし込むために必要なスキルとは?」SUPPOSE DESIGN OFFICEによるFabCafe Nagoya空間解説(後編)

FEATURED PEOPLE
登場人物
吉田 愛
Ai Yoshida
建築家
廣川 大樹
Daiki Hirokawa
SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd.
林 千晶
Chiaki Hayashi
株式会社飛騨の森でクマは踊る 取締役会長
黒田 晃佑
Kousuke Kuroda
ヒダクマ 森を事業部 森のクリエイティブディレクター

Introduction はじめに

2020年11月に行われた「パンの耳的な広葉樹の利用法とは?木架構が映えるFabCafe Nagoyaの空間解説」のオンラインイベントの様子を前編・後編に分けてお届けしています。
後編は、トークセッションをレポート。ここからはロフトワーク代表(当時)/ヒダクマ会長の林千晶がファシリテーターを務め、改めてSUPPOSE DESIGN OFFICE(以下 サポーズ)の「前提を疑う」という考え方を紐解きます。また、それぞれが入社2年目という廣川さん(サポーズ)・黒田(ヒダクマ)のものづくりに対する考えや、FabCafe Nagoyaのこれからについて語り合いました。
*前編はこちら。
左からサポーズの廣川大樹さん・吉田愛さん、ヒダクマ黒田晃佑、ロフトワーク/ヒダクマの林千晶。

永遠につづく大喜利のように変換し続ける

林:

愛さんから「疑うこと」を前提にサポーズをずっと切り盛りしてきたと聞き、とても共感しています。ロフトワークも先週、季刊誌第2号を出したのですが、タイトルがずばり、「ロフトワークが考える“疑う”とは?」です。例えば、FabCafe Bangkokが考えたのは、医療でさえもFabCafeで何ができるの?。医療は専門的な領域だから、一般の人たちが手出しができないじゃないかというところを疑う。私たちだってできることあるんじゃないの?と源流に戻るっていう話から始まり、途中には「おいしくない日本酒」の開発秘話まで紹介しています(笑)。

吉田:

おいしくない日本酒?

林:

おいしくないって言われた日本酒から、それを商品化したんです。「双子座のスピカ」っていう商品なんですけど、これ、ワインみたいな味がするんです。だから、日本酒好きにはおいしくない。だけど、初めて日本酒を飲む人にはワインみたいな味が好評で、人気商品になっています。今回、FabCafe Nagoyaを設計してもらう時にも、いろんなことを疑ってかかったら、実はできないと思ってたことができたり、マイナスがポジティブに変わったりしたんじゃないかな。そういう意味では、ロフトワークとサポーズって、似ていますよね。

吉田:

一緒ですよね(笑)。私たちも最初からそう思ってたわけではなくて、できないことが多いなかで変わっていったんです。例えば、クライアントが私たちのデザインに期待して頼んでくれたかというと最初はそんなことはなくて、別にデザインはこんな感じでいいですというような、いわゆる面白くないプロジェクトもあったんですね。でも、それをどうやったら面白くできるだろうと前提を疑うことで何かが見えてくる。建築の形やデザインをどうしたいのかというより、新しい何かが生み出せるか、どういうふうにこれを変えることができるかと考えます。

林:

ロフトワークも最初にオーダーがきた時に、「一歩遡って考える」、それを心がけています。クライアントからのオーダーに対して、そのまま進めると、本当の目的に答えられないことが多いから。そういうところ、サポーズではどう捉えてるのか教えてもらえますか?

吉田:

それは私もいつもみんなに言ってることですね。

廣川:

1年前大学生だった時に、主体性って重要だとは常々思っていましたが、いざサポーズに入ってみるとより深いところを求められます。苦しみもがく時間をしっかり使うところは、やっぱりサポーズに来てよかったなと思うところです。サポーズが一歩遡って考えるところは、もともといいなと思って入っていますので。

天井架構の施工の様子
現場に立つ廣川さん
吉田:

クライアントの要望の奥にどうしたいかが隠れています。その本質を見ないとプロジェクトが面白くなっていかないんじゃないかなと思います。何か順当にいかないというか。例えば、先程お話したカウンターも、迫力をつくるために丸太1本を置いてもできるけれど、その迫力をどう解釈して、どう置き換えるかを永遠に大喜利のようにやり続ける。

(写真:長谷川 健太)

リアルに落とし込む術ーー入社2年目のふたりの挑戦。

林:

黒田くんは、木の破片を集めて、どこに使うんだろうって思ってたら、「木テラゾ」っていうテーブルに変わっていて驚きました。それが生まれた経緯や、リアルに落とす時の難しさはありましたか?ちなみに、黒田くんと廣川くんはふたりとも新入社員なんですよね。

黒田:

「木テラゾ」が生まれたきっかけは、僕からコンクリートに木を入れたら面白いんじゃないかと廣川さんに投げかけたんです。廣川さんも一回やってみます?と言ってくれました(笑)。その後どうやってつくっていくか、本当にいろんなパターンがあって、そこで意見が食い違ったこともあったり…。このようなばらばらな素材に対してどれだけ設計者の意図を落とし込むか、形や位置まで完璧にやるのか、あるいはもう少し即興的にある種の緩さ、ずらしのような部分を入れるのかというところで、廣川さんとちょっと食い違ってもめました。

どこまでをコントロールする・しないのか、試行錯誤した木テラゾのカフェテーブル
黒田:

こういうことは緻密に計算しないとできないことで、うまくやらないとただのワイルドなものになってしまいます。僕はサポーズさんが全て計算してコントロールされると思ったので、ソフトを使ったシュミレーションを提案しましたが、違っていて廣川さんはもう少し緩くいってもいいんじゃないかというふうにおっしゃられましたよね。

廣川:

全部が全部決められた位置というよりも、木に性格があるように、隣同士の合わせ合いでできたらと考えたんです。結果的にいいランダムさができたなと思っています。今回木のコントロールできないところに向き合うなかで、コントロールできないことを知っている黒田さんという存在がいて、わからないけどできますか?って聞くことができたのは大きかったです。

素材に向き合うということ

一度は天井架構の縦材に用いる候補となった枝。最終的には使用せず、耳材を使用した。
林:

木以外にも、何か面白いなと思って使った素材はありますか?

吉田:

はい。土を使った例で、3階の高さがある2階建ての住宅で、2層分の空間がある1階の床に土を使いました。その空間には窓があるのですが穴だけ開いていてガラスは入っていない。後々ガラスを入れたり、空間にもうひとつフロアつくったりできる未完成という概念の建築です。その床には土が正解だなと思いました。

林:

なるほどね。廣川さんは何か挑戦したい素材はありますか?

廣川:

今回天井架構の素材の候補に挙がったものの扱えなかった枝です。みっつのベクトルに対して、いろんな部分を組み合わせることが難しかったため使えなかったんです。もっとコントロールできないものってあるんじゃないかと思っているので、そういったものが見つかれば向き合っていきたいです。

林:

やっぱりサポーズですね。反骨精神っていうか、だってコントロールできるものじゃないものを探して、そこと向き合っていきたいっていうことだもんね。

吉田:

あえて苦行に向かっていく(笑)。

林:

黒田くんは、挑戦したい素材がありますか?

黒田:

衣食住でいう、衣、着るための素材がいいんじゃないかなと思っていて。

吉田:

え……転職?

黒田:

転職じゃなくて(笑)。セルロースファイバーという素材で、木材からつくることができる素材です。最近では車のボディに使用する研究などがされています。木材の元々の形態に左右されない木質素材に僕は興味があります。また、森の素材を使って染色したり、色をつくることにも興味がありますね。今は基本的に木材は家具や建築に用いられることが多いですが、それ以外の用途を増やすことが重要だと思っていて、先にお話した繊維質の素材もそうですけど今度は衣服の周辺が面白そうだなと思っています。

森にあるロクショウグサレキンは黒田が染色に使えないかと考えている素材のひとつ。
吉田:

面白そうですね!

林:

黒田くんとか廣川くんと話してると、こういうふうに使えるんだって、目から鱗になることが多いです。新しい発見がどんどんできることがすごく素敵だなぁと思って今回プロジェクトやらせてもらったんですけど、どうですか。逆に、20年選手と組んで(笑)。

黒田:

基本的に廣川さんとのやりとりでしたが、ただ、たまに廣川さんの奥にいる愛さんも見え隠れしてる時がありました(笑)。

吉田:

(笑)

黒田:

これは愛さんかなと(笑)。廣川さんが打ち合わせの際にいくつかポイントを話してくれていたと思います。奥に愛さんがいらっしゃる時の打ち合わせは面白くて、目の前にある単純なディテールの話をしているようで、空間全体の構成やさらにその先にもつながっているような、遠くの話をしているんだなと後々気付かされました。「これを何とかつくってください。」と言われる度、それはちょっと無理なんじゃないかな…と思いながらですが。

吉田:

(笑)

林:

むちゃを言う。

黒田:

最初は僕も、いや、それはちょっと…と言うんですけど、やってみたらここまでいけたということが何度もありました。そういう部分が最終的にかたちになっていると思います。

廣川:

林さんや愛さんとコミュニケーションを取っていると、予定調和ではない、自分が知らない世界の言葉をいただけます。そこに対して向き合うことが自分たちには重要で、とても貴重な期間でした。

長く愛されるような場所に

林:

最後に一言、FabCafe Nagoyaがどんなふうに使われていてほしいか、未来に向けてのイメージ、あるいは期待をひとりずつ語ってもらおうと思います。まず、廣川さんからお願いできますか?

廣川:

天井架構をデザインしたことは、このプロジェクトにおいて大きなことではあると思うんですが、自分はこの大きなカウンターが好きです。今、カウンターにお客さんがいらっしゃるように、人が集う風景を公園からも建物の中からも見ることができる。そういった内と外の関係がつながっていくといいなと思ってます。

吉田:

今日、家具が入って初めて見せてもらったんです。人がいて家具があって、さらにどんどん変わっていってほしいです。その都度できれば私たちも関わりながら空間がアップデートされていき、長く愛されるような場所になったらいいなと思っています。

黒田:

この工事期間中に感染症があり、現場に来た時も真っ只中の状況でした。僕はこのご時世にカフェという人が集まる場所をつくることにどれほどの意味があるのだろう、つくっていいのかなという思いも実はありました。そんな時この通りを歩いていた人が「(FabCafe Nagoyaができることが)すごく楽しみだね」って言っていたのを聞いたんです。この場所が将来あること、こうやっておしゃべりの中に出てくるように人と人の間に現れるなら、つくってみてもいいんじゃないかと思えるようになりました。今も人が使ってくれているのを眺めるのが本当にうれしくって、つくってよかったと心から思っています。

林:

ありがとうございます。ちなみに、私は何回かFabCafe Nagoyaに来てるんですけど、意外だったのが、子ども連れがすごく多いんですよ。子どもと遊びながらここでコーヒーを買って飲んでいたり、あるいは、カウンター席に子どもと一緒にいるっていうような、今までロフトワークがアプローチできなかった、子連れ層のニーズにも答えてるんだなという意味で、新しい場面を見てうれしい気持ちがあります。リアルな場があるっていうことも、私たちが出会うきっかけになったし、今日聞いてくださっているオンラインの皆さんもFabCafe Nagoyaにぜひお越しいただきたいと思っています。今日は本当に素敵な時間をありがとうございました。

一同:

ありがとうございました。

あとがき

今回、サステナビリティがテーマのひとつであったFabCafe Nagoyaの内装デザインが、クリエイティブに遊び心を持って生み出されたことを垣間見ることができました。吉田さんと廣川さん、林、黒田の会話からは、サポーズの源流に遡るという思考の輪郭がくっきりと浮かび上がり、そこにある強さやできた空間そのものに魅了されずにはいられませんでした。
ところで、ヒダクマは自社を「あなたの創造性をかたちにするまでをサポートする“ファースト・プロダクト・カンパニー”」であると謳っています。この文章にあるプロダクトという言葉、私たちは語源であるpro(前へ)・duct(導く)を意識して使っています。このことを思い出したのは、一見目の前のディテールの話をしているような吉田さんの言葉を受け、無理だろうなと思いながらもやってみたら遠くにいけたという黒田の話からでした。人が人を導く/導かれることで生まれるかたち、私たちを取り巻く森、環境が導くかたちに思いを馳せたり、これから時代や土地の文化、人々との相互作用のなかで進化していくFabCafe Nagoyaをぜひたくさんの方に体感してもらえたらと願っております。

Editing:ヒダクマ 井上彩

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