広葉樹を活かし多様な居場所をつくった鈴与本社オフィスの内装・家具
多様な居場所のグラデーション
本記事では、総合物流会社の鈴与株式会社のオフィスリニューアルで、ヒダクマが製作に関わった一つひとつの製品情報をお届けします。働く人の多様な居場所づくりのために使用された広葉樹の使い方とは。各プロダクトのこだわりや仕様を紹介します。さらに本プロジェクトに関わった建築家の後藤さん、ロフトワークの高橋さん、ヒダクマ浅岡のボイスも掲載しています。
製作プロセスはこちらにまとめていますので、合わせてご覧ください。
広葉樹フローリング
本館「CODO」の空間全体に使われている広葉樹フローリング。既存の無機質な空間から木のあたたかみのある印象へと生まれ変わりました。
ヒダクマが後藤さんに提案したサンプルをもとに、それぞれの場に合わせて樹種は選ばれています。
経年変化で次第に色が濃くなっていくミズナラ、クリのミックス。3種のサクラミックスは、高級感のある艶と美しい桃色が特徴。白に近い色の木だけで統一したセン、トチ、サワクルミのミックスは、より一層それぞれの木の個性を際立たせています。今年一番良く取れた「旬の木」であるブナの床も作られました。ブナは1種でも切った断面によって見え方がそれぞれ異なるので、面白い表情を楽しめます。
<仕様>
樹種:
・ミズナラ、クリのミックス
・ヤマザクラ、カバザクラ、ミズメザクラの3種のサクラミックス
・セン、トチ、サワクルミのミックス
・ブナ
仕上げ:浸透性ガラス塗装
楕円・円・豆型の広葉樹テーブル
楕円・円・豆型のテーブルは20台ほど。広葉樹の天板は、テーブルごとに全て樹種が異なります。広葉樹フローリングやその他の床などに合わせて、樹種は選定されており、空間に一体感を持たせています。ミーティングや個人仕様、ランチなど様々なシチュエーションに応じてカスタマイズできるようすべてキャスター付き。
絶妙な曲線を描く楕円テーブルは、「スーパー楕円」と呼ばれる計算された形。この緩やかな曲線は、導線や人が座ったときの目線の位置関係に気持ちの良い距離感をもたらしてくれるそうで、スタジアムや交差点などでも採用されています。
グレーの床に呼応するような落ち着きのあるマットな質感のグレーのテーブルは、リノリウムのようなFENIX NTMという素材。アクセントとなって空間をバランスよく引き締めています。
<仕様>
樹種:天板 / サワクルミ、トチ、クリ、ナラ、ブナ、サクラ、カバ、FENIX NTMなど
台数:
[オープンスペース]
家具大円テーブル1台、円テーブル2台、楕円テーブル4台、豆型テーブル2台
[ボックス上家具]
大楕円テーブル1台、丸テーブル7台、ローテーブル4台、ちゃぶ台テーブル2台
ヒノキとトチのちゃぶ台
畳の和室スペースにある広葉樹テーブルのひとつ。優しい木目のトチとヒノキを使った、リラックススペースにぴったりなちゃぶ台です。スチールの脚は、特殊な処理を施した渋い仕上がり。
<仕様>
材料:天板|ヒノキ、トチ 脚|スチール 溶融亜鉛メッキ仕上げ
台数:Lサイズ1台、Sサイズ1台
サイズ:L|φ1200×H380 S|φ900×H340
仕上げ:浸透性ガラス塗装
グラデーションカウンター
およそ27mにも及ぶ窓際カウンター。窓には、アーティスト/テキスタイルデザイナーの森山茜さんによる、赤から緑色へと緩やかにグラデーションしていく大きなカーテンが取り付けられています。そのカーテンの色味に対応するようなカウンターを作れないかと模索した結果、「ホエビソ(赤)」→「ヤマザクラ(赤褐色)」→「カバ(ピンク)」→「トチ(白)」→「ホオノキ(緑)」という木の並べ順で「木のグラデーション」を生み出しました。赤に近い部分は、キッチンがあるなど活発に使われる場で、緑にいくにつれてリラックスしたりひとりで集中しやすいような場という、空間の使い方も変化していきます。
<仕様>
材料:ホエビソ、ヤマザクラ、カバ、トチ、ホオノキ
サイズ:W26800×D445×H670
仕上げ:浸透性ガラス塗装
多機能屋台
イベントでも通常業務でも大活躍する多機能屋台。イベント時の「受付カウンター」として設計した屋台ですが、普段使いでは「収納」「マガジンラック」「電源ハブ」など多機能に使えるようにしました。100Vコンセントが全部で6口ついており、テーブルの近くに持っていって電源ハブとして使うことが可能。移動の際に邪魔にならないよう、サイドにコードをコンパクトに収納できます。
色は空間に調和するよう、本体、コンセントプラグ、コード、スイッチなどは全てグレーに揃えています。
<仕様>
材料:フレーム|スチール ボックス| 外部:FENIX NTM 内部:ポリエステル化粧板
サイズ:W1200 × D430 × H1800
仕上げ:フレーム|ジンク塗装 ボックス|化粧板仕上げ
Member’s Voice
歴史ある企業の、空間から働き方を変えていく実験的なプロジェクトとして、本社最上階にある講堂の改装と、隣接して新築された別館の内装について、それぞれ同時に設計しました。どちらも立体的な空間構成で、床だったところが視点が変わると机になったり、ベンチになったりと、使い方を自由に発見していけるようなオフィスを目指しました。触る、踏む、座るなど、多様な使い方が可能になる素材として、木を使うことを想定し、早い段階からヒダクマに相談に乗っていただきました。そのサポートのおかげで、色、節、硬さ、経年変化、生産数や加工方法の違いなど、樹種ごと、個体ごとの差の大きい木という材料の特性を組み込んだ設計ができ、多くの樹種を使った表情豊かな空間になりました。
後藤周平建築設計事務所
後藤 周平
オフィスリニューアルで目指したのは、社員⼀⼈ひとりが主体的に働き方を考え、⼤胆に⾏動できる環境を整えること。新しい発想が生まれるための余白を、場所の意味やそこでの過ごし方をあいまいにすることで創り出そうと、大きなワンスペースに様々な居場所のグラデーションをつくるアイデアが浮かびました。既存のコンクリート躯体やプレファブの無機質な空間に、あたたかみのあるホンモノの素材を使うことで居心地が良くなることはもちろんのこと、機能的なグラデーションが一目で伝わるように、多様な樹種を丁寧に組み合わせて意匠的にも表現しました。さらに、家具とも空間ともいえない段差と、さらにその多様な段差に点在するテーブル天板を、人が触れる要素として同一の樹種で構成することで、私たちのアイデアが居心地としてもデザインとしても「もう一段上のレベル」に昇華することができ、社内外に好評のオフィスとなりました。まさにこの、木材コーディネーション×オリジナル家具製作を連携したサービスとして提供できることが、ヒダクマの唯一無二の個性だと思います。なにより広葉樹を自由自在につかえることがとにかく楽しい!
株式会社ロフトワーク
Layout Unit プロデューサー
高橋 卓
このプロジェクトでは10種類を超える広葉樹を使用しました。その中には、森には沢山あるけれど普段あまり木材としては使われない木も多く含まれています。
ただ無闇に色々な樹種を使用するのではなくそれぞれの場所に意味のある木の使い方をするにはどうすればいいか、後藤さんや飛騨の木工パートナーと一緒に考え抜きました。
靴で歩く場所では汚れが目立ちにくい木目の木、リラックスする場所では白くて優しい木目の木、手に触れるところは手触りの良い木など、それぞれの機能に応じてそれに相応しい素材が存在します。
木は、そんな期待に応えられるもっとも柔軟な素材であるということを、改めて実感しました。
ヒダクマ
浅岡 秀亮
会社概要
鈴与株式会社
1801年の創業以来、200年以上に渡って「共生(ともいき)」の精神のもと物流を中心としたサービスを展開しながら、国内外にそのネットワークを広げている地域密着型のグローバル企業です。お客様の物流をトータルでコーディネートするため「海貨・航空貨物事業」、「倉庫・DC事業」、「国内運輸事業」を有機的に結びつけ、顧客への高度なSCM(サプライチェーンマネジメント)の提案や3PL(サードパーティーロジスティクス)の推進など、最先端の物流ソリューションを提供しています。
https://www.suzuyo.co.jp/
写真:長谷川 健太 (写真1-2を除く、Outputsの写真全て)