#制作秘話
Column

建築家・古市さんに聞く「木のある空間の魅力」

FEATURED PEOPLE
登場人物
古市 淑乃
Yoshino Furuichi
古市淑乃建築設計事務所 一級建築士

Introduction はじめに

とある集合住宅の一室。ロフトワークが運営するクリエイターのためのレジデンス《 Kanamaison(カナメゾン)》。飛騨のサクラの木をふんだんに使用し、デザイン、アートが調和した空間は、過ごす人の創造性を心地よく刺激します。《 Kanamaison 》は、建築家・古市淑乃さんとアーティストの森山茜さん、ヒダクマとのコラボレーションにより生まれました。

ここが生まれたきっかけやプロセスを、古市さんのインタビューで振り返ります。飛騨の木の魅力や、木がもたらすあたたかさ、制作過程での古市さんとヒダクマとの関わりのお話。古市さんがリニューアルデザインで初めてヒダクマと関わったFabCafe Tokyoでお話を伺いました。

Photography:Gottingham (Kanamaisonの写真のみ) Editing:ヒダクマ編集部 

Kanamaison(カナメゾン)をつくることになったきっかけを教えてください。

古市:

はじめにこの部屋を持っている方から、ここを何かに使えないかという話がロフトワークにあったんです。その頃ロフトワークは京都や各所にグループができて、国内外から人が来始めていました。ロフトワークに関わるクリエイターやスタッフが東京に来た時に滞在できたり、使えるスペースがあったらいいのではないかということで決まったんです。

かなり思い切ったフルリノベーションです。

古市:

私はクリエイターが使う空間を作りたいという思いがありました。元々あの場所は一般のマンションの一室で、いわゆる2DKだったんです。そのままの状態で使えないことはないんですけど、クリエイターが何かするっていう時にあまりにも普通の住宅すぎるなって。また、ひとりで滞在する時に、片方の部屋に閉じられちゃうのは狭苦しくてもったいないと感じました。そこで、全体を使って伸びやかに、空間を体験したり、滞在できるようにつくろうと考えたんです。躯体のかたちを活かし、部屋ごとに高低差をつけることで、自然と空間が分割されて、奥行きが生まれました。そんな折、ちょうどヒダクマが立ち上がりの時期で、飛騨の木を使ってみようという話になったんです。

壁を剥がしているのでコンクリートの冷たい印象がありそうですが、実際に過ごしてみてそんな感じがしないのは、木の存在があるからかもしれません。

古市:

そうですね。壁を剥がしてみると、想像以上に荒々しい印象でした。そこに木の色味や様々な樹種を組み合わせることで、あたたかさみたいなものが出るのではないかと考えたんです。それとは別にアーティストの森山茜さんがこのプロジェクトに参加するということは最初から決まっていました。森山さんが計画していた手染めのカーテンやそのほか優しい色味と質感のファブリックも柔らかい印象を持つものだったので、全体の空間のバランスがとれるんじゃないかと思いました。

古市さんは飛騨に行ったことはありますか?

古市:

結構、何回もあります。ヒダクマと関わった最初のプロジェクトは、ここ(FabCafe Tokyo)のリニューアルでした。FabCafeをやった時は、広葉樹のバリエーションのことを全然知らなくて、とにかく木を使ってみようという感じでした。その後、何回か飛騨に行って、それぞれの樹種や特性を知り始めたら、その木独特の質感に触れられるだけで、空間の印象ってガラッと変わることがわかったんです。床に色んな広葉樹を組み合わせてみると、それだけで普通のフローリングと違って見えます。サクラの木で収納を作ったりして、丁寧に木の使い方を選んで空間を作っていきました。

Kanamaisonはオールサクラと言っていいほど、サクラの木が使われていますね。

古市:

サクラって経年変化でピンクに色づいていくんですね。経年変化していく様子を愛せる木がいいなって思ったんです。木の色の変化って難しくて、元々購入した時には綺麗な色だなって思っていても、日焼けすると古ぼけた印象になっていく木もあります。そこに合った樹種を選ぶことで、その変化まですごく楽しみになるような場所がつくれるんだなって、ここをつくって気づきました。というか、本当に、私が一番サクラが好きになっちゃって(笑)  なんて可愛い木なんだって。

なるほど。サクラがいっぱい使われている、本当のところがわかりました(笑) 制作過程で、古市さんとヒダクマとの関わりはどのようなものでしたか?

古市:

広葉樹って反ったり、思う色味にならなかったりするんです。広葉樹を使うという経験があまりなくて大変で、そんな時ヒダクマに相談しました。樹種の木目の出方や、水回りに適した木かどうかは、浅岡さんに聞いたり。家具や建具はこちら側でかたちのイメージをつくってから、強度や広葉樹の特性についてヒダクマと話し合って進めました。特に窓枠に関して「大丈夫かな?」というところは、地元の職人さんやヒダクマから、ここにはこういう補強を入れるといいとか、扉のおさまり方をおすすめしてもらって調整しました。

古市さんにお話いただいた木のあたたかさを、Kanamaisonにいる時に感じる気がします。

古市:

空間に木を使うことで、寂しさを感じさせないような木の優しさがすごく響いてくるんだなぁっていうことがわかったんです。その後、オフィスで飛騨の木を使ったり、今回新しく住宅の依頼があって、それもマンションのリノベーションなのですが、木を使うことに決まりました。年配のひとり暮らしの方の住宅なのですが、大きく空間構成を変えられないので、素材とか質感であたたかさをつくってあげたいと思ったんです。これは飛騨の木があるとすごく安心するんじゃないかなって。その人と木のある景色がふわっと浮かんだんですね。やっぱり一度使うと、どんどん魅力を感じます。

 

(終わり)

プロフィール

古市 淑乃 (ふるいち・よしの)一級建築士

1985年三重県四日市市生まれ。2010年名古屋市立大学大学院博士前期課程修了。2010-12年吉村靖孝建築設計事務所勤務。2012-15年成瀬・猪熊建築設計事務所勤務、2015-16年同事務所パートナー。2015年古市淑乃建築設計事務所設立。2018年より京都造形芸術大学 非常勤講師。 https://ysnfric.com

 

《Kanamaison (カナメゾン) 》

空間設計:古市淑乃建築設計事務所
ファブリックデザイン:森山茜
家具・建具・内装制作:すぎした工房、浅岡秀亮(ヒダクマ)
家具・建具・内装制作ディレクション:浅岡秀亮(ヒダクマ)
写真:Gottingham  (Kanamaisonの写真のみ)

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