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Column

【寄稿】「想いが交わり、育まれる森」UWC ISAK Japan Harmony with Nature

FEATURED PEOPLE
登場人物
UWC ISAK Japan Harmony with Nature
Kai, Dan, Fua, Keitaro, Arata, Christ, Yuka, and Camila
津田 吉晃
Yoshiaki Tsuda
筑波大学 生命環境系 山岳科学センター菅平高原実験所 准教授
松本 剛
Takeshi Matsumoto
ヒダクマ 代表取締役/COO

Introduction はじめに

この記事は、昨年3月にヒダクマを訪れてくれた軽井沢の全寮制インターナショナルハイスクール「ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン」(以下、ISAK)のプロジェクトチーム「Harmony with Nature」のメンバーが執筆した活動レポートです。

彼らがヒダクマに来たきっかけをつくってくれたのは津田吉晃先生。筑波大学 生命環境系山岳科学センター菅平高原実験所 准教授で、以前からヒダクマとつながりがあり、ISAKで学生の研究プロジェクトのメンターをされています。学生たちから科学、森林、アートとビジネスの調和について取り組みたいというプロジェクト内容を聞いた津田先生は、彼らに「ヒダクマに行ってきたら?」と提案してくれたのです。

2泊3日の飛騨の合宿プログラムで、彼らは飛騨の美しい里山「種蔵」や広葉樹の森を地元の人の話を聞きながら歩いたり、広葉樹の製材を行う西野製材所、組木の技術を学べる飛騨の匠文化館、そして飛騨の家具職人・鈴木岳人さん(KOIVU)の工房を訪問。同時期ヒダクマに来ていた建築家・tomito architectureの冨永美保さん、林恭正さんと一緒に談笑しているシーンもありました。ツアーから帰った後、FabCafeで付箋にたくさんアイデアを書き込んで話し合っていた姿も印象的でした。それは、真っ白なスケッチブックに、伸び伸びと、色とりどりの気持ちの良い線を描いていくような感じです。私たちは彼らの高い集中力に圧倒され、彼らの言葉の水々しさに心が澄んでいくような気持ちにさえなりました。

彼らがはじめに立てた仮説、そして飛騨滞在で何を感じ、それがどのようなアイデア・かたちにつながったのか。レポートから森の持つ可能性を存分に感じていただけると思います。レポートの最後には、津田先生とヒダクマの松本のボイスをお届けします。ぜひご覧ください。

これからの人と自然の関わり方
自然と人をつなぐ間が生命のように育まれていく
多様な視点が文化として蓄積され、発展する森がUWC ISAK Japanに生まれる。
生徒は、自分と仲間と自然の強みを活かすことを学び、
軽井沢の文化は、形を変えて、森に息づく。

  • Introduction
  • Hidakuma訪問
  • 飛騨のサイクル
  • UWC ISAK Japan の森のサイクル
  • プロトタイプ: ART in Forest
  • 今後のプロジェクト

Introduction

私たち Harmony with Nature は2019年10月に、人間と自然の新しい関係を構築したいという想いから発足した。近代化・テクノロジーの発展とともに、私たちの生活は自然から隔離されてしまっている。自然は私たちの五感をひらき、忙しい毎日の中に余白を作ってくれる。環境破壊が問題になっている今こそ、自己と自然に向き合う必要があるのではないか。そこで、私たちは森の柔軟性、多様性に着目して、学校の森を舞台に活動している。

学校の森は、国から譲り受けた緑あふれる場所だったが、その森に入る生徒はほぼいない。たまにランニングする生徒がいる程度だ。その事実を受け止めつつも、私たちは森を、森林浴や散歩したりといったリラックスの場としてだけでなく、何かインスピレーションを受けて創造力を引き出してくれる場としても捉えていた。

学校で机にかじりつくように勉強していると、頭ばかり使い、つい自分の体がどう感じているのかを疎かにしてしまう。その無理した結果、突然のストレス反応に悩まされる人は少なからずいる。そんな時、森に行ってみるとどうだろう。木登りしたり、寝転がって空を眺めたり,花の香りを嗅いでみたり。意識的に体で森を感じてみる。そして、なぜ自分がそんなことをしてみたい!と思ったのかを深掘りしてみる。そうすると、案外自分が気づいていなかった思いや記憶に気づくかもしれない。自分に似ている生き物を探してみようと思うのも面白い。そして、なぜ似ていると思ったのか考えてみる。そうやって、問いを持った時、脳と体が繋がっている。それがバランスのとれたwell-beingな状態なのだろう。

森の価値はそれだけではない。森にいろいろなバックグラウンドの人が集まって、新しいことをやってみたらどうだろう。科学者や政治家、芸術家、学校の先生、子供などなど。森に触れ何かをやってみるという過程で、お互いの知識や感性を共有する。多様な視点が集まれば、多様な価値観が森の中に育まれる。世界の課題に対しての新たな解決案が出てくるかもしれない。UWC ISAK Japanには84カ国から生徒が集まる。軽井沢は文化のまち、この地から多くの文学作品が生み出された。多様な文化と興味が組み合わさるこの森の可能性は計り知れない。※「おもしろい人」募集中です!

こんな未来を実現するためには、以下のようなプロセスがあるのではないか。

仮説:森に行く-本物に触れる -在り方が変わる-行動が変わる

ただ、これはあくまで僕らの妄想。こんなものが実際に存在するのなら、それはどんな場所なのだろう。どうやって達成されているのだろう。僕たちの仮説はどうやって現実となるんだろう。これらの問いを探求するためにヒダクマを訪問した。

Hidakuma訪問

岡田さんの森
私の国コンゴ共和国では、森は経済成長の柱でもあり、犠牲でもある。国際市場に売られているのだ。その点、森の使い方は飛騨とは大きく異なる。岡田さんの森に自生していたクロモジは折ってみるといい香り。

種蔵
住む家を壊しても蔵だけは守れ。厳しい自然の中には、脈々と受け継がれてきた豊かで素朴な人々の営みが隠れていた。「人間が生きている」それは、ただただ美しかった。

製材所
製材された木材を乾燥させて、実際に使うには約一年の歳月がかかるという。製材された多種多様な形、大きさ、厚さの木。それぞれの特徴や良さを見出し、その木材だけに適した使い方を考える。

土場
普通だったら森に放置されてしまうようなこんな形をした木。使ってくれるデザイナーがいるかも知れないと、木を伐った人はわざわざ土場まで持ってきた。そして想いは形を変えてつながっていく。

木工職人
案内人の鈴木さんは、昔ヨーロッパで修行をしていた。特に印象的だったのは、ヨーロッパ特有の”マイナス”のデザイン。最初は何かといろいろなものを足していきがちだが、あえてどんどん引いてみる。ただ”引く”というだけなのに、全く新しい概念を得ることができた。

組み木
種蔵と比較した時に、同じ自然に囲まれた文化でも人間の自然の中での立ち位置に大きな差を感じた。組み木はまさに人間の知恵と自然の素材を組み込んだ伝統であると感じた。

Hidakumaのつなぐ役割
ヒダクマってどんな場所だろう。3日間の滞在と交流を思い返すと、ヒダクマは「あそぶ」場所だった!ヒダクマが人を呼ぶ時、そこに決まった設計図はない。代わりにあるのは「こんなことしたい!」というワクワクとパッション。え?それで成り立つの?と思うかもしれない。けれど、それを求めて飛騨に集まってくる人たちは意外と多い。ヒダクマに来ていた建築家の方が教えてくれた。「建築というと、すでにプランがあって、これをつくるというのが決まっている。でもヒダクマにはそれがない。一緒に作りましょうって感じでそれがたまらなく楽しい。」ランチでの談笑や、ちょっとした冗談がアイディアになることもよくあるのだという。好きなことをして笑っていると身体が自然としなやかになるのかもしれない。ワクワクはいつも常識の外にある。予期できぬ既存の外で、知らない分野の人たちとの出会いが、子どものような未知に踏み出す冒険心をくすぐる。ヒダクマのワクワクを求める「あそび」の哲学が、今日も飛騨に新たな価値をもたらしている。

飛騨のサイクル

飛騨には、自然と人とが互いに近い関係があった。あそぶための森が、製材するために整えられた他の地域とは違う木々を残した。そして普通は薪にしか使えない木を製材所に並べるからこそ、その木にしかない新たなアイディアが生まれる。製材所で出たおがくずは、近くの酪農家に運ばれ、牛の寝床となる。自然と人の暮らしの関わりが、飛騨特有の文化を形づくる。

UWC ISAK Japanの森のサイクル

木の循環をISAKの森で考えると?

プロトタイプ: ART in Forest

FEEL
五感を使う (普段、勉強などで脳ばかりを使っているからこそ、意識的に「感じる」ことで、普段無意識的に使う身体に意識を持つ。)

REFLECT
興味を抱いたものに、なぜ興味を持ったのか問いを立てる。自分がなぜその感覚を得たのか、自分との繋がりを探す。感覚を別のものに例えてみる。
→つまり、自分と向き合う。身体と脳が繋がりをもつようになる。自分の気づいていなかった価値観やストレスに気づくかもしれない。

CREATE
アート作品が表現した視点を文章で書く。
(ex.これはRicardoの作品で、自然に生息していた葉を生きている状態でアートの一部とし、枝の集合の上により重い石を積み上げるという反自然的な行為によって、自然と人の関係を表現した。そしてこの作品そのものが自然の流れの中でまた森へと還っていく)

その後のReflect…
ex. 森を訪れこの作品を見た小澤は、一つの小枝では支えられない大きな岩を、集まった何十もの小枝たちによって支えられている、その自然の力強さを見た。そして、これを建築に活かせるのではないかという新たな視点が生まれた。

小澤がアイディアを体現し、新たなアートを作る。そして、また新たな人がそれを見てreflectする。訪れた人の数だけ新たな視点が生まれるだろう。訪れ、森を見て、視点を生んで、新たなアートを作る。そのサイクルが森に人の文化を生む。

今後のプロジェクト

世界の訳せない森

木漏れ日、わびさび、哀れのように、元の日本語から他の言語に訳すことが難しいと感じたことはないだろうか。日本語に限らず、ドイツ語のWaldeinsamkeit(森の中でひとりぼっちでいる気分)は他の言語にはない概念だそうだ。こうした言葉で伝えられない概念は、森の豊かな自然に置き換えることで伝わるのではないか。森の多様性をもって、言語の限界に挑戦するプロジェクト。

となりのもやもや

「あ、ひらめいた!」
「何を?」
「うーん、なんかうまく説明はできないな」
そうはいったものの、このひらめき、また僕の脳で熟成させるだけではもったいない。そうだ、僕のもやもやを森に預かってもらおう!
小さな石の上に置かれたもやもや、昼は風に吹かれて木々を旅し、夜は腐食層とともに深い眠りにつく。他のもやもやとくっついたり離れたり、形を変えながら森を生きる。もやもやの住む森へようこそ。
*もやもやの生態:問いの形をとることが多いが、パズル、パラドックス、心象スケッチと様々な形で現れる。自然と人間の共進化の産物だという。好奇心がある人にしか見えない。科学者はここで夏を過ごして研究の問いを考えるそう。もやもやもれっきとした共同研究者。

Underwoodも木下も、みんなで一緒に、動いちゃお。

フレッシュな森でこそ体験できる、清々しい空気と爽快感のあるwork out session. 外国のUnderwoodさんから日本の木下さんまで、誰でも参加OK。初心者でも安心なセッションです。タイトルは、少しいらっとしたものを最後に残せと言っていた鈴木さんの名言を参考にして命名させていただきました。もっと森に、軽〜く来て欲しい。そんな想いを込めて、僕たちなりに遊び心を加えてみました。

あ、僕が真の森美術館です。

生物の原点となる自然。その森から文明を作り上げ、旅立って行った人類達は今こそ!森にもう一度価値を見出すべきである。そこで科学の産物であるテクノロジーを用いた、もう一つの森美術館を提案する!テクノロジーを用いたアート、オンラインで参加できる見学ツアー。コロナ禍の中で、テクノロジーと森が共生し、新たな物を生み出す!

ありがとうございました!

文:UWC ISAK Japan Harmony with Nature

Members Voice

ひょんなことで2019年9月からUWC-ISAKの学生自由研究のメンターを務めた。特にこのHarmony with Natureグループは最初のミーティングで彼らのアイデアを聞いた瞬間から、“何かヒダクマっぽいぞ”と思い、彼らのプレゼンを聞いた直後にはすでにヒダクマHP紹介していた。実は当時さらにいくつかの企業にもコンタクトしたのだが“我が社の利益になりませんので”、と意見交換すらも即答で拒否されたこともあった。次世代を国際的に担う彼らの若い感性にもとづく超先駆的で独自性あふれるアイデアを聞かないなんてもったいよ!と内心思ったものである。ただ、森の新しい価値を見出すことを謳っているヒダクマはこれら企業とは違い、彼らのプロジェクトに面白さ、価値を見出してくれ、オンラインでの意見交換なども複数回行うことができた。特にヒダクマでの現地訪問で山主、伐採業者、製材所、デザイナーなどをつないだ飛騨の地域社会サイクルを彼らが地肌で感じられた意味は大きく、その後のHarmony with Natureの信念に基づく森の感じ方のプロトタイプ提案に繋がった。我々は地球規模での様々な問題に直面している。ヒト(ホモ・サピエンス)がアフリカから地球各地に分布拡大して以降、人間社会が森と密接な関係にあることは明白であるが、それは将来も変わらないだろう。次世代を担う彼らにはこのプロジェクトで得たものを胸にぜひ世界で活躍してほしいと思っている。また我々も彼らのような斬新なアイデアを理解できる感性をもっていたいと改めて思った。
(これら内容はヒダクマスタッフ含めた我々全員の共同研究として第132回日本森林学会大会(2021年3月オンライン開催)高校生部門に発表予定です)

津田 吉晃
筑波大学 生命環境系 山岳科学センター菅平高原実験所 准教授

“ヒダクマは「あそぶ」場所だった!”という彼らの言葉。
ヨハン・ホイジンガは、著書『ホモ・ルーデンス』の中で、「人間とは、ホモ・ルーデンス=遊ぶ人のことである。遊びは文化に先行しており、人類が育んだあらゆる文化はすべて遊びの中から生まれた。つまり、遊びこそが人間活動の本質である。」と言っている。
そして、第一章では「遊びの形式的特徴」を次のようにまとめている。
“遊びは自由な行為であり、「ほんとのことではない」としてありきたりの生活の埒外にあると考えられる。にもかかわらず、それは遊ぶ人を完全にとりこにするが、だからといって何か物質的利益と結びつくわけでは全くなく、また他面、何かの効用を織り込まれているものでもない。それは自ら進んで限定した時間と空間の中で遂行され、一定の法則に従って秩序正しく進行し、しかも共同体的規範を作り出す。それは自らを好んで秘密で取り囲み、あるいは仮装をもってありきたりの世界とは別のものであることを強調する。”
これはまさに、既存の林業や木材業の枠にとらわれず森の価値を捉えなおそうとする僕らヒダクマの活動の目指すところだ。
2020年3月、世界が変わる前に飛騨の森で一緒に過ごした彼らと、それぞれの時間と空間の中で、これまでの「ありきたりの世界とは別の」新しい世界をつくっていくことができたらと思う。

松本 剛
ヒダクマ 代表取締役COO / トビムシ

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