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  • ヒダクマ秋祭り2017
パンで建築をつくる #0

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10/21(土)〜10/22(日)の2日間に飛騨古川町で行われた「ヒダクマ秋祭り」。「森と町をつなぐ」というテーマで今年も多数のプログラムが開催されました。https://hidakuma.com/events/hidakumaautumnfestival2017/

その中の一つ、パンで建築物をつくる実験プログラム「パン築」の企画と制作を行いました。どのようなプロジェクトだったのか、祭りが終わった今改めて始まりから当日までの過程を振り返りたいと思います。

背景

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ヒダクマは森林資源が豊富で多様な価値を持っている飛騨古川地域に新しいつながりを作り、日本はもちろん海外にまでその魅力を伝えていくチャレンジを続けており、木材の背景にある「森」や「自然」と「地域」の関係性を取り上げる取り組みを行ってきました。

そのヒダクマが主催するヒダクマ秋祭りも飛騨という地域にすでにある豊かな土地やコミュニティに対して感謝を示すお祭りであり、年に一度収穫の時期の秋に開催されています。

今年の祭りのテーマは「森と町をつなぐ」。

ヒダクマ秋祭りの音頭を執るヒダクマの森口さん、建築家の堀木俊さん、BioClubを運営する私の3人で飛騨古川の祭りにどんなコンテンツがあったら面白いかという話をしていたところから、飛騨の自然と街の文化のつながりが可視化されるといいね、という話になり、古川の良質な日本酒酒造や天然酵母のパン屋が町の外の人を惹きつける魅力の一つにもなっていることから、ミクロのスケールの「発酵」に視点を移し、酒やパンが人と菌が共同して食を豊かにしてきたように、「住」や「衣」にも応用するようなことができたら普段とは違った面白い視点が得られるのではないかというアイディアが生まれました。

ところで、鎌倉にはパラダイスアレイという天然酵母のパンの世界では有名なパン屋があります。そこではパン屋という営みを超え、様々な人が集うカルチャーの台風の目のような場所がうまれています。パラダイスアレイと言えばがイベント出展の際に作る巨大で装飾的なパンで有名です。二,三年飾ったまま腐らず原型をとどめています。そのパンを見たときから「パンで壁を作って空間作れそうだな」ということをぼんやりと考えていて、それが今回の「発酵」と「祭り」にリンクし、どうせなら祭りでしかできないことをやろうということになり、「パンで建築をつくる」という実験を始めてみることになりました。

とはいえ、制作実行者の私も堀木もパンを焼いたことすらなかったため、「パンで建築」をつくるために、まずは「パンとはなにか」というリサーチから始まりました。

パンとは何か?

パンとは何かを知るためにはパン屋に聞くのが一番ということで横浜のESPLANとパラダイスアレイを訪ねました。二つのパン屋から話を聞いてわかったことは主に3つ。

  • パンとイースト菌の関係
  • パンを捏ねる理由:パンが膨らむためのグルテンを作るため
  • 小麦粉と水分と酵母菌(イースト)の働きのバランスをとる仕事=パン屋

パンを作るプロセスはざっくりと

  1. ミキシング(捏ねる)
  2. 発酵
  3. 焼成

が基本です。

小麦粉と水を混ぜ、力をかけて捏ねることで「グルテン」と呼ばれる網目のような伸縮性と弾力性を併せ持った構造ができあがります。うどんのコシやパンのモチモチとした食感はこのグルテンによるもので、パンがふっくらと形をキープできるのもこのグルテンの働きなのです。パン屋といえば朝からひたすらパンを捏ねるというイメージがありますが、時間をかけてグルテンを作らないとうまくパンは膨らみません。今でこそ機械で行うミキシングですが人力で行うのはかなりの労働です。image19

また、パンはイースト菌の出すガスの力によって膨らませます。パン生地の中に添加したイースト菌がパン生地の中の糖分を食べ、アルコールと二酸化炭素に分解しそのガスによってパンがふくらみます。パン生地を焼く前にしばらく寝かせるのはパンの中の菌の生命活動によって出たガスがパンを膨らませるのを待つ時間なのです。とはいえ待てば待つほど良いわけではなく、置きすぎるとパン生地の中の糖分が食べ尽くされ、甘みや風味が損なわれてしまいます。発酵の度合いというのはパン屋によって判断が違います。
こうしたインプットを得た上でパンがどういうプロセスでできるのか、今まで経験のなかった「発酵」からパン作りを一からやってみました。

通常パン作りには簡単に短時間で働き始める「イースト」が使われますが、今回、「パンの建築」が面白いと思ったところは、通常の建築プロセスには無い「発酵」が構造を作る一番のエレメントであることだということ、そしてそれは働きだけを求めれば工業的に生成された酵母菌を使えば予想のつく結果が得られるのですが、「土地の自然を可視化する」という最初のアイディアに従い、地元の天然の酵母を呼び寄せて、パンを膨らませるための力を借りようという方向で進めることにしました。image8image2

飛騨古川市内からさらに山あいの集落にご在住で、自給自足の生活をされている塚本さんから野草から酵母菌を増やす方法を教えて頂いたり、飛騨古川の2大酒蔵のひとつ、蒲酒造さんから発酵用に酒粕を分けて頂いたりと、飛騨の発酵文化が生地作りに生かされることになりました。イースト菌よりも発酵力を蓄えるまでに温度管理や手間のかかる天然酵母発酵ですが、このプロセスを経ることでより飛騨からとれたものと時間をかけて対話をするような経験をすることができました。時間がかかり、失敗すると元の状態に戻すことができない「生きた」ものだからこそ、発酵を経験するということは、現代のスピーディーなものづくりとはまた別の体験がある様に思いました。教えて頂いた方法で飛騨の果物と酒粕で醸した酵母液はパン生地を作るタイミングまでに10日間ほど時間をかけましたがとてもいい状態で発酵させることができました。

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パン築のための建築 – オーブンとドームの躯体の設計と建設

 

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さて、パンを作る方法を理解したところで、パンを焼くためのオーブンの問題が出てきました。ヒューマンスケールのパンを作るにはオーブンもヒューマンスケールで作らなければなりません。そんな大きなオーブンをどうやってつくるのか。どの様な構造が必要なのか。ここは主に建築分野に携わる堀木が担当しました。飛騨高山は間伐材が豊富なことから陶芸の窯元や薪釜のパン屋を見つけることができました。最終的に渋草焼きの窯元、渋草柳造窯の代表の戸田さん、飛騨で薪ストーブ専門店を営志田さん、薪釜でパンを焼くブーランルージュのぼり屋さん、ノナカベーカリーの4ヶ所が協力をしてくれました。image7高山で薪釜のパン屋「ノナカベーカリー」を運営する野中さん

通常、パンを焼くときの温度は170℃〜200℃前後で20~30分。庫内の中の空気を200℃に上げ、空気の熱で焼成させます。普通のオーブンの空間よりもずっと容量が大きい窯の温度を200℃にどうやってあげるのか、また温めた空気が漏れ無いようにどう密閉性をつくるか、オーブンの素材をどういったもので作るのかという課題を解決しなければなりませんでした。

空気の温度を高温にし、かつパンを焼くのに十分な時間、熱を保ち続けるにはスムーズに熱対流が起きる様に設計する必要があり、またその他、外気温・湿度や気圧などの環境要素も影響してきます。それらの条件を検討してオーブンの構造を決めていきました。

 

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また、パンのドームの形を作るための骨組みは熱に強く加工のしやすい素材である竹を選びました。image16

竹は径の太い孟宗竹を探しましたが、鮎のヤナで竹を扱っているご主人の紹介で希少な孟宗竹が見つかりました。まるで本当に菌が人を引き寄せているのではないかと思うくらい、奇跡的な人と竹との出逢いでした。飛騨で孟宗竹を有する数件のオーナーを訪ね、あるお一人の方に竹を戴きました。それを小さな竹割り道具をつかい、一本一本を6本ずつに割いていきました。素材ー竹割き

 

125キロの小麦粉を捏ね、発酵させるには

ヒューマンスケールのパンを焼くためにはそれなりの量の小麦粉が必要だろうとは覚悟していましたが、一体何キロの小麦粉が必要なのか。今回制作したドームは高さ1600mm、直径2600mmのドームの表面積にして12.6㎡を50mm以上の厚みで覆う計算で、小麦粉の量125kgに対し50パーセントの水分を加え総量175kgのパン生地が必要という算出になりました。

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食パン1斤作るのに生地が400g程度と考えると恐ろしい量ですが、今回全て飛騨の果物から発酵させた天然酵母を使って生地を発酵させ、機械を使うことなく全て声をかけたりかけてもらったりする中で集まった地元の人たちで全て捏ねあげました。image9image11

パンを捏ねるために集まってくださった人は15名以上。飛騨コミュニティとまったくつながりのない中、いろいろな人に協力いただいたとはいえ、こんなに集まるとは思ってもみませんでした。目の前に積まれた小麦粉と黙々と向き合う今日始めて会う人たちが、元パン屋が教える役になり、パンを捏ねたことがない人がだんだんと上達して行って後から来た人に教える役に自然になっていく過程を見て、つくづく自分はこのプロジェクトの要素に過ぎないのだなと感じました。望むと望まざるとにかかわらず、本当の意味でこのプロジェクトは飛騨の人々や状況に動かされていったものだと思います。

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発酵するようにできあがるプロジェクト

今回、パン築で必要な素材や協力はできるだけ飛騨に由来するようにしたいという思いがありました。発起人である我々二人も飛騨からするとよそ者です。外部の人間がその土地で何かを作り上げるのであればその土地と作るものとの接続を作らねばならないし、そこはどんな無理をしてもこだわろうと決めた部分でした。なるべく土地の資源を使い、飛騨の人々が自発的にこのプロジェクトへ関わっていくように立ち回ることを意識していました。

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その結果、場所、材料、燃料、労働、道具、ほとんど全てを「パンで建築を作る」という提案に呼応して協力してくださることとなりました。125kgのパン生地を捏ね、60ℓの酵母液を醸し、巨大なオーブンを建て、基礎になる竹、軽トラ一台分の薪、このプロジェクトを行うための場所を提供していただきました。image15

このプロジェクトは予想もしなかったような多くの人々の手によってできています。

なぜこれだけの多様な人々が関わり協力してくださったのか。「パン」が持っている要素の複雑さもあるかもしれませんが、パン屋、陶芸家、大工、製材所、果樹園、料理人、パンを捏ねにきた町の人々、みんな予想のつく結果を期待をして関わったというより、私たちが「あなたの知識と能力が欲しい」とお願いをしたことにとっさに知識と能力で反応してくれたのだと思います。都市部にいると何かを起こす時にメリットや見返りを見据えて設計したりデザインするケースがほとんどです。

今回、「パンで建築をつくる」という既存の価値も何もない目標を提示された時にポジティブに関わってくれた人々が自分で関われる範疇を定め、与えられるものを与えてくれた。それは本当に不思議ですが発酵の過程によく似ています。image21

酒やパンを作るための酵母菌も実は数百種の菌の総称であり、発酵という現象は、酵母菌だけではなく他の数百数千種類の菌とのバランスの中で起きるもので「たまたま」人間の作り出した環境の中で強く反応する菌の働きによってパンやお酒が出来上がる。ただし、「こういうお酒」「こういうパン」という理想に近づけるには、彼らの反応を注意深く観察し、それに合わせて環境を整えていかねばなりません。

今回、「飛騨でパンで建築をつくりたい」というよそものの「提案」に対し、土地の人々が自らが提示できるものを提供し、それらを我々がつなぎ合わせることで整えられ、最終的にパン築が焼けた、という風に捉えることができるのではないでしょうか。

環境やコンディションに左右される「発酵」や「火起こし」「料理」といった要素を孕む建築を立てるには、まだまだ修行が必要なようです。

今回このような機会を与えてくださったヒダクマ秋祭り、及びこのプロジェクトに関わってくださった全ての方々に感謝申し上げます。

SPECIAL THANKS

渋草柳造窯、田中建築、復興レストラン・女川 すえひろ、ノナカベーカリー、ノボリ屋、薪ストーブのBee、Mother’s House、やわい屋(順不同)*その他掲載仕切れませんが個人的に関わってくださったたくさんの飛騨の素敵なみなさん、ありがとうございました!