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木づかいで生まれる、多様なライフスタイルを許容する新しい住まいのかたち
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矢野建築設計事務所とヒダクマによる、都心のマンションリノベーションプロジェクトに見る、これからの住空間

開口部から差し込む光と中庭に望める緑が心地よい、東京都心の好立地な分譲マンション――

ヒダクマと矢野建築設計事務所が協働し、施主である夫婦ふたり、猫一匹が生活するメゾネット形式の住宅をリノベーションしました。自分たちらしい生活スタイルを追求する施主は、こんなユニークなオーダーを製作チームへ依頼します。

それぞれが趣味を楽しむための「道場」のような、そして夜には寝室の機能も果たす、空っぽの大きなふたつの部屋が欲しい―――

空間づくりに求められたのは、猫が自由に行き来できるよう、扉は常に開け放っていられるような開放感。さらには将来的にいつまで住むかわからないため、リセールバリューも視野に入れた設計デザインにすることでした。

製作チームが主軸素材に選んだのは、表情豊かで硬い質感の広葉樹クリ。耐久性が高く、水湿に強いため、古くから住宅の土台に使われてきた、建材のなかでもトップクラスの木材です。特にこの材を推した矢野建築設計事務所は、「道場やダンススタジオのような清々しくて凛とした空気感を出すには、プレーンな色味でありながら強さのあるクリがふさわしい」と考えたのです。

現在、そして未来の所有者を見据えた空間デザインを試みた今回のプロジェクト。空間に必要な構成要素を丁寧に紡ぐこと、また空間に適した素材そのものの良さを引き出す設計を得意とする矢野建築設計事務所。木の特性とその扱いを熟知したヒダクマ。両者の持ち味が掛け合わされ、さまざまな活動と休息の場にふさわしい、有機的でおおらかな住まいへと変貌を遂げました。

【プロジェクト概要】

  • 支援内容:木材コーディネーション・家具製作・製作ディレクション
  • 期間:2020年7月〜2021年2月
  • 体制:
    空間設計 : 矢野建築設計事務所
    プロジェクト総括:岩岡 孝太郎(ヒダクマ)
    木材コーディネーション・製作・製作ディレクション:浅岡 秀亮(ヒダクマ)
    製作:株式会社カネモク、片桐銘木工業株式会社、有限会社イーシー・キッツ、すぎした工房、go-products(順不同)
    施工:有限会社イーシー・キッツ

Outputs

クリの強さ、表情の豊かさが存分に感じられる空間

フローリング

水や腐食にも強いため、趣味の運動やダンスなどの汗をかく場所にも適しているクリ

細く曲がった木が多く、量産には不向きな広葉樹をフローリングに活用できるよう、ヒダクマが考案した「70・90・100」規格の板を使用。3種の幅の板材を組み合わせることで、材料のロス削減を実現しています。
今回はメゾネット形式の2フロアの床一面に、存在感のあるクリを使用しました。その理由として、「クリは環孔材特有のはっきりとした木目を持ちますが、色の個体差がなく、大きな面積で使うことで一つひとつの存在感が薄れ、全体として抽象度が増します。それにより、部屋全体の軽やかさや清々しい雰囲気が人の記憶に残るんです」と語る矢野さん。時間の経過で自然と飴色に変色するクリは、リセールバリューの観点からも付加価値をつけられると考えました。

<仕様>
材料:クリ無垢材
サイズ:77平米
仕上げ:天然オイル塗装

キッチン収納

元々設置されていたシステムキッチンに、クリの突板を全面に貼り付けた造作家具。突板は既製品を購入するのが一般的ですが、ヒダクマは購入したクリの原木を桂むきし、オリジナルの突板をつくりました。床や建具と同素材とすることで、凛とした統一感を出しています。

<仕様>
材料:クリ突板フラッシュ
仕上げ: 天然オイル塗装

引き戸

渋い色目のクリの引き戸は、「美術館にあるような扉を」という施主からの依頼を受けてデザイン。板目と柾目がバランスよく出るように製材し、ランダムに組み合わせることで豊かな表情を見せています。
薄いグレーの壁や天井は粒感のある左官仕上げにし、硬質な床の物質感を和らげています。

<仕様>
材料:クリ突板フラッシュ
仕上げ: 天然オイル塗装

玄関収納

玄関の柱間に取りつけたクリ無垢材の造作棚。下から光を放たせた、優しい印象のエントランス空間です。

<仕様>
材料:クリ無垢材
サイズ:幅3,000mm
仕上げ: 天然オイル塗装

トイレ収納

キッチンと同様、クリの突板で収納スペースを製作。

<仕様>
材料:天板/クリ無垢材、箱/クリ突板フラッシュ
仕上げ: ポリウレタン塗装

親子扉

床から天井まで延びたスケール感のある扉建具は飛騨の職人が手がけました。(※写真内右にある扉)

<仕様>
材料:クリ無垢材
仕上げ: 天然オイル塗装

階段・手すり

縮杢は木が曲がる部分で木目が縮み、まるで皺が寄ったように見えるのが特徴。施主のご趣味である居合道にちなんで、刀の刃文の面白さに通じるような木目のトチを選んだ。

階段は上下のフロアの連続性、そして空間の広がりを持たせるために、クリ素材を用いています。
手が触れる部分には良い素材を使いたい、という施主の思いに応え、ヒダクマの浅岡は5種類の手すりのサンプルを提案。建築家矢野さんをも唸らせた希少な縮杢(ちぢみもく)の入ったトチが選ばれました。あえて細い構造とすることで、意匠としても空間に映える存在に。

<仕様>
材料:階段/クリ無垢材、手すり/ 縮杢トチ
仕上げ: 天然オイル塗装

Process

使う素材の背景を知る、森への訪問

施主であるご夫婦には、リフォーム済みの状態で取得した中古マンションで長年生活するうちに明らかになった使いづらい点を改善し、デッドスペースをなくした開放的な空間を心地良く利用したい、また、趣味のダンスや居合道やゴルフのレッスンを充実させたいという思いがありました。ご縁あって依頼いただいたヒダクマは、その思いを汲み取りながら製作の進行管理を実施。クライアント・設計・製作チーム全員で常に最新情報を共有しながら意思決定を図っていきました。

ヒダクマが提案した当初の内装イメージ

まずはご主人が飛騨を訪問し、個性豊かな広葉樹のストーリー、製材所などを紹介しました。その時にある在庫を使う、というサステナブルな樹種選びをすることで一致。矢野建築設計事務所と連携し、素材の選定、設計を開始しました。3Dイメージを用いてイメージを提案しながら、デザインを詰めていきました。

素材・ディテールへのこだわり

矢野建築設計事務所作成の図面

デザインが決まった後は、詳細な設計に落とし込むべく施工会社イーシーキッツと連携しながら作業を進めました。

クリの突板を施す前の旧キッチン

まずは壁や構造を全面的に取り壊し、スケルトンにして一から施工した。

飛騨にて造作家具の素材となるクリの原木を購入し、片桐銘木でヒダクマオリジナルの突板を一から製作。空間のトーンを統一するためにも、素材の品質管理も徹底して行いました。
大詰めの搬入、組立、施工の段階では、製作チーム総出で床や家具の塗装を実施。こうして、ご夫婦と猫が暮らすためのプレーンでおおらかな空間が生まれました。

Members

矢野 泰司|Taiji Yano
1983年、高知県生まれ。2007年、東京理科大学を卒業。2009年、東京理科大学大学院修士課程修了(小嶋一浩研究室)後、2010年から2013年にかけて長谷川逸子・建築計画工房に勤務する。2013年、矢野建築設計事務所設立。
https://officeyano.co.jp/

矢野 雄司|Yuji Yano
1987年、高知県生まれ。2009年、横浜国立大学を卒業。2011、横浜国立大学大学院Y-GSA修了。2011年から 2014年にかけて、末光弘和+末光陽子 / SUEP.に勤務。同年、矢野建築設計事務所に参画。
https://officeyano.co.jp/

岩岡 孝太郎|Kotaro Iwaoka
ヒダクマ代表取締役社長 / CEO
1984年東京生まれ。千葉大学卒業後、建築設計事務所で勤務。その後、慶應義塾大学大学院(SFC)修士課程修了。2011年、“FabCafe”構想を持って株式会社ロフトワークに入社。2012年、FabCafeをオープン、ディレクターとして企画・運営する。2015年、株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)の立ち上げに参画し、2016年FabCafe Hidaをオープン、2019年より現職。

浅岡 秀亮 |Hideaki Asaoka
株式会社飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)所属。
岐阜県飛騨市出身。名古屋芸術大学卒業後、家具メーカーやインテリアデザイン事務所で家具製作・デザインを経験。2016年にヒダクマに参加し、プロダクト開発や設計、制作、施工など幅広く担当。木に対する幅広い知識や、職人への深いリスペクトを持ち、木に新しい価値を付与すべく日々奮闘中。

Member’s Voice

お施主さんから、一般的なリビングや寝室はいらないので、「道場のような空っぽの部屋」がほしいと初回の打合せで要望を聞いた時は驚きました。その後、打合せを重ねていくと、今の時代の働き方や家での過ごし方について考えるヒントが多く詰まったプロジェクトだと徐々に思い至りました。
くつろいで休息する場所でもあり、仕事をしたり、運動をしたりというように機能を限定するのではなく、多機能化することを許容する場所の在り方が問われていました。昔の日本の住空間は田の字プランで縁側で庭とつながり、土間があり、冠婚葬祭も家で行い、様々な使い方を許容できる懐の深い構成でした。nLDKがあまりにも普及しすぎた日本の住宅状況において、もう少し機能の枠組みをほぐして、様々なライフスタイルに対応していくルーズさが今後は必要だと思います。
これから、益々テレワークが普及すると、家で過ごす時間が増えていきますが、長い時間人が滞在する場所にはできるだけ自然素材を使っていきたいです。その中でも広葉樹は温かみがありながら抽象的で、ある程度硬さがあり、色も豊富なので、使う度に発見のある素材だと感じています。

矢野建築設計事務所

「トチの縮杢が刀の刃文のようで綺麗ですね」
そうコメントをいただいた階段の手すりの素材は、ヒダクマ秘蔵の縮杢トチです。3年ほど前に仕入れて、ここぞという時に使うために大切にとっておいた僕の秘密のコレクションでした。その木目の美しさたるや、あまりにも気に入り過ぎてどうせ使うならこの木目の素晴らしさを理解してくれる方に使ってほしい……と思い込みすぎた結果、ずっと使い時を逃していたのでした。そんな中、手すりの素材は変わったものを使いたいというお施主さん。ここはこの縮杢トチにあらずんば木を扱う者にあらず。思い切って提案しました。木目が刀の刃文のようだ、と言われた時、「そういうことなんです!」と思いました。ガンダム、刀の刃文、縮杢トチ、これぞ世界3大男のロマン。クリづくしの空間の中で、ひときわ輝きを放つトチの美しい木目を見た時、これを選んでよかったと、お施主さんも僕もそう思えたことが本当に良かったと思います。

浅岡 秀亮
ヒダクマ

文:石塚 理奈
竣工写真:長谷川 健太

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