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型破りな製作プロセスを経て生まれた、ソニーコンピュータサイエンス研究所 京都研究室の内装空間
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Outline

実験的空間にふさわしい、機能的でない余白を持たせた空間設計

無機質なコンクリート造の近未来的オフィス空間。そこに佇むオブジェのような、巨大な丸太の有機的な形が目を引くデスクや作業台。古くて新しい町、京都に株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所(以下、ソニーCSL)は国内初の支所、京都研究室(以下、ソニーCSL京都)を開設しました。東京、パリに次いで3拠点目となる新オフィスは、2020年4月に新しい研究室の在り方を思索しながら、少しずつ機能を拡大していく実験的な空間として開設。ロフトワーク京都が空間をプロデュースし、建築家でありアーティストの佐野文彦さん(FUMIHIKO SANO studio)が内装・家具設計を主導、ヒダクマは木材コーディネーション・家具設計製作・家具製作ディレクションを担当しました。


国内外の有能な研究者たちが、京都という地域や産学官と連携しながらサイエンスを探求するソニーCSL京都では、今後も新しい人材や新機材を投入することが考えられます。そのため、新オフィスは基本的な機能は確保しつつ、家具や動線のフレキシブルなレイアウトが実現できる、余白のある空間にしたいと考えました。オフサイトミーティングなどでFabCafe Kyotoを利用していたことがきっかけとなり、今回のオフィス内装プロジェクトをロフトワーク京都へ相談。そして自然の素材を生かした面白い空間づくりが期待できるのでは、というソニーCSLのリサーチャーの後押しもあり、佐野さんを内装設計者とした今回のチームへ正式に依頼し、プロジェクトがキックオフします。

「人類のゆたかさに貢献する」という理念の元に、新たな技術開発を模索するソニーCSL京都にふさわしい内装デザインとは何か?

佐野さんとヒダクマは存在感のある飛騨の自然物、丸太を生かした家具の製作を提案。機能的でない要素もあえて設計に取り込み、これまでにない工法の什器をつくり出すことは、ソニーCSL京都の活動の場に適していると考えたのです。木を熟知する数奇屋大工としての経験を有する佐野さん、飛騨の職人とヒダクマの挑戦によって、圧倒的な存在感を放つ家具が誕生しました。

【プロジェクト概要】

  • 支援内容
    木材コーディネーション・家具設計製作・家具製作ディレクション
  • 期間:2020年1月~7月
  • 体制
    クライアント:株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所
    プロデュース:寺井 翔茉(ロフトワーク京都)
    内装設計・家具設計:佐野文彦(FUMIHIKO SANO studio)
    木材コーディネーション・家具設計製作・家具製作ディレクション:岩岡孝太郎・浅岡秀亮(ヒダクマ)
    製作・協力:神岡林業協同組合、西野製材所、飛騨職人生活、木と暮らしの制作所

Outputs

個性の強いマテリアル同士がぶつかり合う空間

可動デスク

3本の丸太が兄弟のように支える

クリの天板と、モニター台として使用できる天板上の切り株

クリとセンを接ぎ合わせた天板

<仕様>
材料:クリ、セン、ヤマザクラ(天板)  ブナ丸太、ナラ丸太 (脚)
台数 : 2台
サイズ:3,000mm×1,400mm×H730mm
仕上げ:浸透性ウレタン塗装

大きな天板を丸太が支えるという大胆なデザイン。その重さに耐えうるキャスターを飛騨の木工職人の卓越した技により取り付け、移動可能な設計に。天板上の切り株はモニター台として使用可能。キャスターを取り付けるために組んでいる木には、丸太と同材を使用し、天板を貫いているように見せています。

スタンディングデスク

<仕様>
材料:ブナ、トチ (丸太)
台数 : 3台
サイズ:700mm×700mm×H1,000mm
仕上げ:浸透性ウレタン塗装

現場では、丸太に「御神木(トチ)」、「巨木(トチ)」、「コブ(ブナ)」と愛称を付けて呼んでいた木そのものの個性を活かした3つの家具。スタンディングでのミーティングや個人ワークが可能なデスクです。トチを製材したところ非常にユニークな木目が現れたため、横倒ししてその木目が天板となるように製作。これらもキャスターを付け、移動可能に。丸太をそのまま立ち上げた、量塊感のある什器となりました。

ソファーテーブル

<仕様>
材料:クラウォールナット(丸太)
台数 : 1台
サイズ:700mm×700mm×H400mm
仕上げ:浸透性ウレタン塗装
その他仕様:キャスター付き

長い間土場に置かれ、もっとも腐りが激しかった丸太を使用。その部分を取り除くようにグラインダーやワイヤーブラシで成形した結果、山脈のような独自のフォルムが現れました。そのユニークな多角形の形状と、角材の脚がアクセントになっているディテールが特徴。キャスター付きで移動可能。

固定デスク

<仕様>
材料:クリ
台数 : 1台
サイズ:7,760mm×800mm×H720mm
仕上げ:浸透性ウレタン塗装

7mを超える窓際に設置した長いカウンター。ダイナミックな板目で製材した、表情豊かな木目のテーブルは、なかなか手に入らないクリの長材を贅沢に使用しています。作業の際にも余裕が持てるよう、800mmの奥行きを確保しました。

その他

建具枠と框(クリ)、床の間(縮み杢トチ)、食器棚(サワクルミ)にそれぞれ特徴ある広葉樹を使用しました。

Process

ヒダクマの丸太ハンティング

佐野さん作成の当初の内装パース図

今回のプロジェクトで、ヒダクマは綺麗に製材された家具用材で什器をつくるのではなく、広葉樹の丸太をそのまま活用したらどうかと提案。そこから空間の原型が生まれていき、佐野さんは丸太、石、鋼、ガラスといった生のマテリアルを大胆に配置する内装イメージを考えていきます。

神岡林業で候補になる木を選ぶ

チップになる予定が製材機に入らず、丸太の山が崩れないよう仕切りとして使われていた丸太

こうして材の方向性が固まると、ヒダクマは神岡林業へ足を運び、ユニークで存在感のある丸太ハンティングを開始。

飛騨にて佐野さんと木選び

一つひとつの材を見ながら、幅広のクリ、サクラを可動机の天板に、ローテーブルや作業机向けに輪切りの材を使用する、といった方向性を固めていった

丸太の写真を佐野さんへ送りながら候補の丸太を絞っていきましたが、最終的には飛騨にて一緒に木を見て触って選びます。なかなか思うような木が見つからないなか、個性的なトチの巨木丸太を発見し、この材をメインにすることに。

素材が固まって来た段階での佐野さん作成のパース図

釣れた魚をみて調理方法を決める。即興演奏のような製材プロセス

西野さんが原木にノコを入れ、現れた木の顔を確認する佐野さん。使用した丸太は一年以上土場で寝かされていた古い木が多く、そのほとんどはチップになる予定だった

木を熟知した西野製材所の皆さんと佐野さんの共演作業。西野さんは1トンを超える重量の丸太をカットするために、その経験と知恵を注ぎ、限界に挑んでくれた

製材所では板状に切り出すのが通常ですが、今回はそれとは訳が違います。寝かせておいた丸太は内部の水分が抜けていないため非常に重く、数メートル移動させるのも一苦労。今回協力してくれた西野製材所を貸し切り、佐野さんとヒダクマの立ち会いのもと、二日かけてじっくり切り出していきました。

佐野さんは目の前の木と対話するように、即興的な感覚を大切にしました。西野さんに一度ノコギリを入れてもらい、それぞれの木の木目や腐り、表情を見ながら、その木がもっとも美しく見えるよう一面一面丁寧にカット面を決めました。角度を微妙に調整するべく30分ほどかけて丸太を回転させ、今度は反対側から斜めに一部カット。そのためにまた時間をかけて回転させる、といった製材所では通常行わない、根気の要る作業を繰り返します。こうして複雑な多角形の形状が姿を現します。

専用機械で樹皮を剥いでいる様子。今回の使用した木は大きすぎたり曲がっていたため機械に入らず、最終的には手作業で全ての樹皮を剥いでいった

美しい木目が現れたトチ。佐野さんは木そのものが持っている時間や個性を引き出すことを意識した

あらゆる道具を駆使して加工を進める

製材所で切った面は粗いため、天板面はカンナをかけて滑らかに仕上げた

磨き上げられた、まるで宝石のような木たち

その後もあえて詳細な家具図面は書かず、木一本一本と対話しながら加工を進めます。マルチツールやグラインダー、ワイヤーブラシ、カンナ、ノミなどさまざまなツールを用いて丸太を削ります。

こうして時間をかけてカットを続け、変色や腐りなどでチップになる運命であった丸太たちが、珠玉の作品のように輝き始めます。

凄腕木工職人の技とジグによる加工作業

木工職人・堅田さん(左)が飛騨の大工・田中さんに加工の相談中

ブラシで表面を磨く作業を。「加工作業のための基準となる面は西野製材所でつくってくれていた」と堅田さん

ヒダクマ浅岡の描いたスケッチ。一つひとつの丸太の姿を見て設計を決めた

ヒダクマが丸太の加工作業を相談したのは、飛騨の木工職人堅田さん。各丸太にキャスターを付ける位置出しはヒダクマが行っていたものの、「これだけ複雑な作業だと大工仕事になるからね。(大工の田中さんに)相談したら、昔ながらのノミで彫っていく手作業でやるしかない、って話になって」。手作業では不可能であると判断し、堅田さんは自ら道具を改造し、前例のない複雑な加工作業を担ってくれることに。

作業場の地面は1cmほどのズレが生じているため、1mm、2mm、3mm、5mmの四角いコマをつくって並べて、水平面を生み出す

まず堅田さんは、カット後でも500kg近い巨木と治具を置いて加工するための作業場をつくることに着手。土場のスペースは平らでなかったため、1トンくらいのものを置いても歪まない、真っ平らなレベル出しをします。1cmを1mm刻みで分割できるだけのコマを170個ほど用意。現場にマスキングを貼り、レーザーでレベルを計り、その上に3×6板の合板を載せて水平面をつくります。この作業だけでも一日を費やしました。

レベルに対して天板を水平に合わせることで基準を決める。上記図にある3タイプの脚は右に行くほど製作の難易度が高い(資料:堅田恒季/飛騨職人生活)

次に、平らな天板面に対して、キャスターを付ける丸太の木肌面は凹凸。木の脚組にホゾ穴を開ける位置が空中にあるため、基準となる水平面のレベルに対してx軸y軸z軸を定めるためのジグ(治具)を製作。ホゾ穴にネジでキャスターを固定する、あるいは構造となる材を組んでキャスターを取り付けました。

今回の作業のために改造したホゾ加工の機械

削っても現場で木くずが舞い散らないよう電動カンナと掃除機のホースが連絡できるように改造

キャスターの取り付けのためのホゾ穴を開けるための機械をジグにセット

可動デスクの脚はネジによる固定のため、堅田さんによると3タイプのうち一番簡単だったとのこと

ホゾ加工ための機械をジグにセットする堅田さん

ソファテーブルの脚は、角材が小さいのでネジを入れると割れてしまう。そのため、丸太本体とキャスターで角材を挟んで締めた

H型に組んでいるため基準面として5点の位置がぴったりと合うよう、もっとも苦労したというスタンディングテーブルの脚

「背が高いので今までのジグでは強度不足で揺れてしまう。そのため、新たに風呂桶のようなジグとホゾ加工のための二段階のジグをつくった。」と堅田さん

自然がつくりあげた丸太の塊を、人間が立ったり座ったりPCを使ったり、という動作に擦り合わせていくかのような加工プロセス。堅田さんはホゾ穴を開ける機械や、納品場所で粉塵が飛ばないように吸い取っていく機械まで改造。これまでにない作業であったことを物語っています。

位置の最終確認を行う

「苦労したのは道具がなかったこと。道具を改造することから始めないと、この作業はできなかった」と振り返る堅田さん。ノミを使った手作業では1ヶ月で終わらなかったであろう今回のプロセス。「今までで一番難しかったけれど、一番面白かった」と語ってくれた言葉に、生粋の職人気質を感じます。

丸太が空を飛んだ日

熟練のクレーン操縦で電線を交わしながら安全に吊り上げられた

丸太は1Fエントランスまでクレーンで運んだ

屈強な大工の息子さんたちが、重量のある天板を運んでくれた

いよいよ出来上がった丸太の什器をソニーCSL京都に納品する日。クレーン車で吊り上げての搬入となったため、オフィス前の道路は通行止めに。重なり合う電線の合間を縫うように、勢いよく丸太たちが宙に浮いていきます。
天板はクレーンで窓から、丸太は1Fエントランスまでクレーンで運びその後エレベーターを使って搬入しました。

設置作業をするヒダクマの黒田(右)と門井(左)

3階のオフィスへ無事に搬入完了。コンクリートの空間に木材が置かれることで、ソニーCSL京都の新しい空間が動きはじめました。

Members

暦本 純一|Jun Rekimoto
東京大学大学院情報学環教授
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 副所長
1986年 東京工業大学理学部情報科学科修士過程修了。 日本電気、アルバータ大学を経て、1994年より株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)に勤務。 2007年より東京大学大学院情報学環教授 (兼 ソニーCSL副所長)。人間の能力をテクノロジーにより拡張するHuman Augmentation、さらにそのネットワーク展開である Internet of Abilitiesの研究と社会実装を進める。
https://www.sonycsl.co.jp/

柏 康二郎|Kojiro Kashiwa
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所
サイトアクティベーションプロジェクトリーダー
2011年にソニー株式会社に入社後、パソコンやカメラの事業部で経理・経営管理に携わり、2014年にFIFAワールドカップのパブリックビューイングプロジェクトの事務局長を務めたことをきっかけに、2015年より株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)に出向。研究営業として、ソニーCSLの研究成果の社会実装に尽力し、2020年より京都研究室の立ち上げに携わる。
https://www.sonycsl.co.jp/

佐野 文彦|Fumihiko Sano
Fumihiko Sano studio 代表/株式会社アナクロ 代表取締役
1981年奈良県生まれ。京都、中村外二工務店にて数寄屋大工として弟子入り。年季明け後、設計事務所などを経て、2011年独立。
現場を経験したことから得た、工法や素材、寸法感覚などを活かし、コンセプトから現代における日本の文化とは何かを掘り下げ作品を製作している。2016年には文化庁文化交流使として世界16か国を歴訪し各地でプロジェクトを敢行。
様々な地域の持つ文化の新しい価値を作ることを目指し、建築、インテリア、プロダクト、インスタレーションなど、国内外で領域横断的な活動を積極的に続けている。
http://fumihikosano.jp/

寺井 翔茉|Shoma Terai
ロフトワーク京都ブランチ事業責任者
2008年立命館大学経済学部卒、ロフトワークへ新卒入社。石垣島の魅力を世界のクリエイターと再発見する「USIO Design Project / ISHIGAKI NOW」や、大学Webサイトの存在意義を問い直すことをテーマにした立教大学公式Webサイトのリニューアル、100年先に向けた100のプロジェクトを生みだす実験区「100BANCH」の立ち上げなど、幅広い分野のプロジェクトマネジメントとクリエイティブディレクションを担当。
素材とクリエイティブの出会いで新しいビジネスを生む「MTRL KYOTO」、テクノロジーとクリエイティブが交差する場「FabCafe Kyoto」を含めた「Loftwork Kyoto Branch」の事業責任者に2017年より就任。
https://loftwork.com/jp/

西野 真徳|Masanori Nishino
株式会社西野製材所 代表取締役
国内でも珍しくなった広葉樹専門の株式会社西野製材所2代目社長。その確かな目で仕入れた広葉樹を飛騨地域を中心とする家具メーカーや木工作家のニーズに合わせ、製材・販売し、飛騨地域における広葉樹流通のハブ機能を果たす。

堅田 恒季|Hisatoshi Katada
飛騨職人生活
飛騨の家具メーカーで企画設計を担当し9年勤務。その後独立し、2002年に「calm’s」を設立。オリジナルの作品をネットショップの「飛騨職人生活」にて販売。また、個人や建築家、デザイナーからのオーダー家具などを多数製作。
http://hida-cafe.com/

岩岡 孝太郎|Kotaro Iwaoka
ヒダクマ代表取締役社長 / CEO
1984年東京生まれ。千葉大学卒業後、建築設計事務所に入社し個人住宅や集合住宅の設計を担当。その後、慶應義塾大学大学院に進学しデジタルものづくりの研究制作に従事。2011年、クリエイティブな制作環境とカフェをひとつにする“FabCafe”構想を持って株式会社ロフトワークに入社。2012年、東京渋谷にオープンしたデジタルものづくりカフェFabCafeのディレクターとして企画・運営する。2015年、岐阜県飛騨市にて官民共同企業である株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)の立ち上げに参画し、2016年FabCafe Hidaをオープン、森林資源を起点とした新たなプロジェクトに挑戦する。2018年4月同取締役副社長、翌年より現職。

浅岡 秀亮 |Hideaki Asaoka
株式会社飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)所属。岐阜県飛騨市出身。名古屋芸術大学卒業後、家具メーカーやインテリアデザイン事務所で家具製作・デザインを経験。2016年にヒダクマに参加し、プロダクト開発や設計、制作、施工など幅広く担当。木に対する幅広い知識や、職人への深いリスペクトを持ち、木に新しい価値を付与すべく日々奮闘中。

Member’s Voice

ソニーコンピュータサイエンス研究所の次の研究拠点として、京都の可能性を考え出したのは昨年の2019年。もちろん新型コロナウイルスの発生はまったく想定していなかった。その時点で考えていたのは、デジタル技術が極限まで進展していく社会や暮らしで、結局もっとも重要な価値とは何なのだろうか、ということだった。デジタルを徹底的に追求した先に最終的に残るフィジカルの価値はなにか、デジタルとフィジカルの高度な両立がもたらす、真のゆたかさとは何だろう、それを研究機関として追求できるのはどんな環境なのだろうか、ということを考えていた。
未来の「ゆたかさ」を掲げて京都研究室の発足が決定されたのが2020年の2月ごろ。奇しくも新型コロナウイルスの蔓延と、研究室の設立準備作業とが完全に同期してしまった。京都と東京の二拠点型の運営形態は、そのままテレプレゼンスやテレワーキングの実践場と化している。京都らしさの象徴のような和室の会議室には、その後、大型有機ELモニターを複数台接合した没入型テレプレゼンス環境が構築され、また、ラボ内の暖簾のように見える布材が、実は透明度を制御する特殊な液晶材料であったりする。このような実験的な環境の中で「生活」しながら、真にゆたかな未来社会の構築を探求していきたい。

暦本 純一
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 副所長
京都研究室ディレクター

今回のコロナ禍の中で、オフィスの中で失われた重要なものが、「雑談」だと思っています。0から1を生み出す研究員の方にとって、考え抜くことの重要性とともに、適度なリフレッシュと雑談というのは非常に重要かと思います。そのため、敢えて研究員の方がオフィスに来たくなり、かつコミュニケーションが生まれる空間を目指し、しっかりと作っていただいたのがキッチンと和室でした。間食や食事を提供できる場と、リラックスできる空間があることにより、研究アイデア創出や、共同研究などの協業のきっかけとなる雑談が生まれるのではないかと考えております。
単に「集中できること」に重きを置いたデスクと会議室があるオフィス空間ではなく、心地よい空間であり、自然と研究員同士や、来訪者とのコミュニケーションが生まれやすい空間でありながら、さまざまな使い方ができる拡張性の高い空間に仕上げていただきました。

柏 康二郎
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所
サイトアクティベーションプロジェクトリーダー

イノベーションを起こすような場所には何が必要か。そんなことを思いながら空間を考えました。それは、自由度と刺激なのではないだろうか。インターネットによる情報のオンライン化で、ラボに人が来ないことが問題と聞いていた中で、ラボに行く理由を作る、というのが今回のテーマです。机や椅子がある、大きなテーブルは動かせる、イベントができる、キッチンがある、MTGルームがある。それは機能でしかありません。この場所にはそれらを叶えた非日常が必要だと考えました。さまざまな種類や色、テクスチャーの丸太たち。皮が残っているものもあれば、白太がなくなっているものもあります。一つひとつ違うコブの盛り上がりや木目が違い、使うに従って変化していく。日常に非日常がある。それがこのオフィスでは形にできているのではないかと考えています。

佐野 文彦
Fumihiko Sano studio 代表/株式会社アナクロ 代表取締役

ソニーCSLのみなさんのオフサイトミーティングを、私たちが運営するFabCafe Kyotoで開催されたことをきっかけに、プロジェクトのご相談をいただきました。「人類のゆたかさに貢献する」をテーマに掲げると聞いたとき、頭に浮かんだのは「石」と「木」でした。オフィスの中に、効率や機能性だけではなく、何につかうのか分からないような、でも存在感のある物体があることによって、ソニーCSLのみなさんの工夫と創造性が引出され、思いも寄らない使い方が生まれるのでは、と。
コロナによってリモートワークが一気に浸透した今、オフィスに集まる理由は「心地よさ」や「創造性が刺激される」ことにあるのだと思います。徒歩5分の距離にある私たちのスペース”FabCafe Kyoto”とも掛け合わせながら、京都を、そして人類を豊かにするチャレンジに、ともに取り組んでいければ嬉しいです。

寺井 翔茉
ロフトワーク京都ブランチ事業責任者

このカットには、製材所を閉めて通常の仕事をストップした上で、皮を剥く人・角度を調整する人、カットする人、運ぶ人というようなかたちで社員みんなでやりました。
作業は、丸太の端の一部をカットして、佐野さんに木の顔を見てもらうところから始めました。
製材というのは通常、四角くしたり、真っ直ぐな板を取りますので、今回は普通の製材ではありません。佐野さんのインスピレーションに合わせて、微妙に調整して角度を付けたり、反対側から一部斜めにカットしたり、色んな角度からカットしました。丸太は、木を落ち着かせるために寝ていた木、つまり伐ってから置かれていた古い木が多かったので、腐りなどを取りながら、だけどこれは残そうというような佐野さんの感覚に可能な限り応えていきました。
神岡林業さんに置いてあった木は、山積みしている丸太止めとして使われていた木で、最終的にはチップになる予定だった木。私たちが提供した木は製材する予定だった木です。どちらもそこまで高価なものにはならなかった木に手間をかけて、新しい価値を付けてくれたと思っています。

西野 真徳
西野製材所

浅岡さんから相談があり、丸太を見に行った時に、ちょっと持ち上げてみましたが、まったくビクともせず。
ゴロッ、ゴロッと地面にランダムに置かれてると言っていいのか、鎮座されてるというか、その間を右往左往…「これは、家具屋の仕事なのか?大工さんか彫刻家かも…」なんて、しばらくふたりとも沈黙してました。
「やりますかー」なんて。本当に出来るのか?不安になりながらも、でもふたりともニコニコしてたと思います。こんな感じで始まりました。実際の製作状況は先に記述していただいた通りです。
そして、加工も無事終わり、しばらくすると、今度は「丸太が宙を飛びましたー」と、写真と一緒にメッセージが届きました。
いつも通りメッセージでやり取りをしながら進めて、製作していったわけですが、製作内容は全くいつも通りのプロセスではなく、初めてのことばかりでした。
いつもは、製材されて板状になったものを相手に加工し、手を加えていくわけですが、こんなにわくわくする感じのデザインをそのままに完成した姿はどこか神々しく、もう家具ではなくなっていました。
今回このような貴重なプロジェクトに参加させていただき、本当にありがとうございました。

堅田恒季
飛騨職人生活

プロジェクトの初めに総合的判断から「広葉樹の丸太そのものを使いましょう」と言いました。それは、空間における有機的な存在が研究活動に創造的なきっかけを与えることを願い、佐野さんなら丸太にも新たな役割を与えられるはずと確信し、そして、広葉樹のチップになる運命を少しでも変えたいとの想いからでした。この時点では、小径木と呼ばれる板を生産するには細すぎる丸太の活用を想定したのですが、まさか1トンを超える重量の巨大広葉樹を相手にすることになるとは…
ここからは、プロセスで紹介している通り、当プロジェクトに参画いただいた皆さんの手と頭を総動員してもらい完成したわけです。京都で丸太の家具が宙に吊り上げられた瞬間、感謝と感嘆の言葉を飛騨へ向けて叫びました、心の中で、盛大に。
「木って不思議な存在だな」と改めて実感しました。自然を表象しているかのような造形の顕著さ、生身の人間では挑むことをためらう圧倒的な量感、抗えず日々変化する質感。その存在をもって尚、人を惹きつけ、挑ませ、夢中にさせる。そして、人の拠り所となり、長く時を共にし、愛でる対象となってゆくこと。素材のひとつだと括るには余りある情報量と可能性が詰まっていました。

岩岡 孝太郎
ヒダクマ

普段はしっかりと乾燥されて均等に製材された「用材」を扱っていますが、今回は自然のままの「丸太」から加工を始め、その自然の形状を生かした家具を製作しました。
土場に集まった数本の丸太は、やたらコブが生えてデコボコしているブナや、腐りが激しくてもはや雑草が生えていたミズナラ、重さ400キロを超える非常に大きなトチなど、それぞれ全く異なる木たち。そのキャラの激しさ故に「用材」にはならず、砕かれてチップか焚き物になってしまう運命の丸太です。
そんな丸太たちが、佐野さんの数寄屋建築としての目と西野製材の技術により製材され、少しずつ美しい木目が現れました。泥だらけだった丸太が、まるで宝石のようにまばゆい輝きを放って見えたのが印象的でした。その後も木は呼吸を続けて割れたり収縮したりと常に変化をし続け、毎日サイズが変わっていきました。当たり前だけど木は生きているということを、そしてその美しさに改めて気付かされました。

浅岡秀亮
ヒダクマ

文・石塚 理奈
竣工写真:田中 陽介

広葉樹の魅力を生かした空間や家具をつくりませんか?

ヒダクマでは、オフィス空間や家具・店舗什器などの提案から設計、設置まで、皆さまに寄り添ったお手伝いをいたします。どうぞお気軽にご相談ください。
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