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林縁レボリューション #1 ダンスをしたいのは誰?

コラムの連載開始にあたり、まえがき
林縁(りんえん)とは、森林の周辺部、草地や裸地に接する部分。つまり、森と人の境界のことです。日本の高度経済成長にともなって里山の暮らしと環境は変貌しました。そして中山間地は過疎化が進み、林縁はまた書き換えられています。放置林や獣害等の問題も林縁の変化といえるでしょう。ヒダクマの取り組みもその物語のひとつかもしれません。
ヒダクマのファウンダーで共同代表の松本が、飛騨市の広葉樹のまちづくりやヒダクマのビジネスを通じて考えた、森と関わりを持って「林縁を能動的に書き換えていくこと」について、コラムの形でお届けします。
まずはじめに、ヒダクマ設立5周年を機に「飛騨の森でクマは踊る」の社名から考える、ヒダクマの目指す世界と今この時について。


 

 

#1 ダンスをしたいのは誰?

「株式会社飛騨の森でクマは踊る」。通称ヒダクマ。
変な名前だね、とよく言われる。変な会社名のまとめサイトにのせられたり、クマの愛護団体と勘違いした人たちから電話があったりもした。
いつもは「クマが喜んで踊りだすような豊かな森をイメージとして掲げてる」と説明している。
ヒダクマは、飛騨市も出資している第三セクター(官民共同事業体)だ。地域の資源である広葉樹の森を活かし経済循環を創出するという使命を持って生まれた。だからといって、例えば「飛騨市広葉樹活用地方創生株式会社」みたいな名前にすると、全然わくわくしない。新しいチャレンジなんてできそうにない。森をひらき、たくさんの人に遊び心や可能性を感じて関わりたいと思ってもらえるような「イメージ」を社名にした。

飛騨の森。それは広葉樹の森を指す。林業の対象にならず、「雑木林」や「非経済林」と言われる広葉樹の森は、飛騨の森の7割、日本の森の半分以上を占めている。
ヒダクマはこの5年で、とてもささやかで部分的ではあるけれども、広葉樹の森の可能性を示すことができたと思う。世界中から建築家やデザイナー、それを志す学生たちが森や木のことを学びたいと飛騨に来てくれる。僕らは、合宿プログラムやワークショップを企画運営する。そして彼らと一緒に、今まで使われてこなかった不揃いな広葉樹を、都市の空間や家具、プロダクトに変えて届けている。儲からないと言われる林業分野の第三セクターで、補助金に頼らずビジネスとして黒字化することもできた。
だけど、掲げるイメージには遠い。僕らが今やっているビジネスをそのまま成長させることが、社名の通り「クマが踊る豊かな森」をつくるかというと、そうではない。飛騨の森に人を呼び、その森の木で家具をつくることでは、飛騨の森でクマは踊らない。
もっと飛騨の森の木を使ってものづくりができれば、輸入材を使う量は減る(日本は森林率世界三位の森林大国なのに木材の自給率は3割程度で、「飛騨の家具」のほとんどは外国の木でつくっている)。そうすれば、他の国の森林伐採を減らすことができて、どこかの国の森のクマは喜ぶかもしれないけれど。

クマ。クマは森の王者と言われ、森のシンボルだ。森は僕ら人間にたくさんの富を与えてくれる。木材だけじゃない。山菜、鹿や猪。空気や水。そこからつながる田んぼや畑、川や海。魚。それらがつくる風景と営み。
同時に森は脅威でもある。クマが人里に降りてきて人間に危害を加える。それを獣害と言って捕獲や駆除をする。電柵を設置する。高すぎる堤防を立てて津波を防ごうとするように、自分たちと森の間に障壁をつくり分断する。
僕らは、「クマを守る」とか「森を再生する」なんておこがましいことは言えない。ただ、自分たちが森からの富を受け取らなければ生きていけない以上、「森とのいい関係」をつくるべきだと思う。森が与えてくれるものは、僕らが受け取って使わせてもらうことではじめて価値が生まれる。放置されて誰も立ち入らない森からは価値は生まれない。豊かな森とは、より多くの人(だけではなく、クマに象徴される森の動物や植物、つまり生きとし生けるものみんな)が豊かな関係性を持ち続けることができる森だ。
例えば、僕らが木を使いたいのならば(使わなければならないのなら)、これまでの大量生産大量消費の流通や規格に当て嵌めるのではなく、森の声を聴き、木々の都合や個性に合わせたものづくりをする。再生すべきは森ではなく、僕らの森への態度や関わり方だ。ヒダクマが、チップになって燃やされてしまう不揃いな広葉樹で都市のオフィスの家具をつくっているのは、そのほんのとば口のひとつにすぎない。

2020年1月 柳木材の土場にて。曲がり木を活かすプロジェクトの作業風景。

踊る。人々は昔から踊ってきた。踊りは民衆の中から生まれた。だから、中央的なものではない。舞は専門的技能をもつ少人数で演じられるが、踊りは特殊な舞台や技能は必要とせず、素人が群れをなして踊る。日本では南北朝の内乱後、室町時代に念仏踊りや分霊踊りが登場し、応仁・文明の乱の後、京都では風流踊が爆発的に流行した。時代の変わり目に、感情表現として、祈りとして、共感性を高めて広げるコミュニケーションとして、人は踊る。
時は2020年。昨年秋には大きな台風が日本中を襲い、冬にはこの飛騨でさえほとんど雪が降らなかった。気候変動ははっきりとあらわれた。そしてこの春、新型コロナウイルスによりグローバルな社会経済システムの脆さが顕在化し、地域循環共生圏の重要性が叫ばれている。

僕らのまわりには森がある。見捨てられたその飛騨の森で(踊る阿呆と言われながら)まずは僕らが踊ってみた5年だった。2015年に変な名前の会社が立ち上がり、2017年には飛騨市役所に「林業振興課」が創設された。そして今年2020年、飛騨地域の林業・木材事業者による「飛騨市広葉樹活用推進コンソーシアム」が設立される。
昨年から、日本全国で森を活かそうとする(志を共にする)人たちの視察や研修合宿が激増した。視察に来てくれた林業地としての大先輩である奈良県吉野町の皆さんは、冗談半分に「奈良の公園で鹿は踊る」を立ち上げようかなんて言ってくれた。
いつの間にか仲間は増えていて、飛騨で、日本の世界のどこかで、踊りの輪は広がっている。

2018年12月 ヒダクマ忘年会。いつもお世話になっている皆様と。

次回は、もっとみんなに森に関わってもらうために、森とよそよそしくならないためにはどうしたらいいのか、ヒダクマでやっていること、やってみたいことをご紹介したい。

 

2015年4月 渋谷にてヒダクマ設立お披露目会

2015年6月 旧熊崎邸リノベーション

2016年4月 ヒダクマの拠点である滞在型ものづくりカフェ「FabCafe Hida」オープン

2019年6月 飛騨市広葉樹モデル林にて市内の林業・木材・木工事業者による現地検討会

2019年12月 FabCafe Hidaにて地域の皆様への活動報告会

ご案内

ヒダクマのサービス(CREATION&STAY)https://hidakuma.com/services/
ヒダクマの視察 https://hidakuma.com/blog/visit/

社名の踊るクマに関係しておまけの話をひとつ。林業においてドイツという国は先進地で、学ぶことは多い。林業ではないけれど、僕らのお手本にしたい会社がドイツにある。それは世界一のグミメーカー「HARIBOハリボー」。創業者のジョハネス・ハンス・リーゲル氏が生まれ故郷ボンの郊外に小さなお菓子店を開き、自分の名前と生まれ故郷の頭文字をとって「HARIBO」と名づけた。ハンスは創業から2年後の1922年にお祭りのサーカスで踊るクマを観てヒントを得て、夫婦二人で踊る小さなクマのグミ「Dancing Bear グミベア」をつくった。HARIBOの創業は1920年。そう、今年2020年が100周年の年なのだ。飛騨の森で踊るクマも、世界中で踊る小さなグミのクマのように、世界の人々に夢と美味しさを届け、95年後も在る会社を目指します。

Author

松本 剛|Takeshi Matsumoto
株式会社飛騨の森でクマは踊る 代表取締役 COO
環境事業会社勤務を経て、株式会社トビムシに参画。2015年、飛騨市、トビムシ、株式会社ロフトワークの三者で「株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)」設立、取締役就任。2016年に木工房併設の滞在型ものづくりカフェ「FabCafe Hida」をオープン。2019年より現職。

 

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