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#1 マテリアル先行型ものづくりへ

コラムの連載開始にあたり、まえがき(ヒダクマ編集部より)

ヒダクマは来月5周年を迎えます。これまで建築家やデザイナー、地域の職人さんたちとの協働で、100を超える広葉樹を使った家具や製作プロジェクトを実施してきました。新しい仲間も増え、その動きは変化し続けています。今のヒダクマの活動にある指針や、今後のヒダクマの方向性を読者のみなさまに伝えたい。そう思った時、ありきたりかもしれませんが、ヒダクマの代表である岩岡と松本の声でヒダクマの輪郭を描こうと考えました。きっかけは今年はじめの社内ミーティング。岩岡がヒダクマのミッション、ビジョンについて思考をめぐらせながら話をしているのを聞き、届けたいのはこのような声であるという確信がありました。個々のプロジェクトの成果やそのプロセスを記録した記事には載っていない話です。形になっていない、ぐにゃぐにゃしているのか、光ったと思ったらふっと消えてなくなってしまいそうな流動的な思考の言葉。それが常に変化しているヒダクマを浮かび上がらせるために必要な大事な欠片であると考えます。このコラムで今という瞬間を少しずつでも発信し、記録し、共に考えるようなきっかけをつくることができたら。そんな思いからこの連載を始めます。不定期連載、岩岡の声でお届けします。

 


 

 

マテリアル先行型ものづくりへ

 

いつこの状況が終わるのか(アフター・コロナ)ではなく、この状況とどう共存していくか(ウィズ・コロナ)へ対する準備にシフトしてきた印象がある。STAY HOMEの呼びかけにより、人は移動を抑え、人との距離を保っている。現在の状況の先には、多くの人が待ち望んでいる元どおりの自由な社会ではなく、引き続き移動と距離を抑制しながら徐々に新しい社会(秩序・習慣・経済など)へと移行していくという見方だ。人の往来のあり方が見直される一方で、情報の往来の自由さが際立つ。物流機能が保持される前提で、モノの往来も自由なままでいられるだろう。これまで道路・線路・航路の上を人とモノはフィジカルな存在として同等に移動をしてきた。これからは、人とモノを別のフィジカルさで扱うことをより一層深く考える必要があるだろう。

ヒダクマなりにウィズ・コロナの社会で、「ものづくり」という最終成果物がモノである産業において、人がモノを手にするまでの間に存在する、フィジカル(身体的なモノ)とデジタル(モノに紐づいた情報)の関係性について考えてみたい。

この関係性(関係を結ぶまでのプロセス)についての三分類を以下に示す。

<人がモノを手にするまでのプロセス分類化>

・情報を閲覧して用意されたモノを選択する仕組み・・・カタログ閲覧型
・情報を入力することでモノが生産される仕組み・・・オンデマンド印刷型
・モノの元となる情報を得て相互作用でモノが生まれる仕組み・・・マテリアル先行型

この分類に従えば、いわゆる商品を提供(販売)するECストアはカタログ閲覧型になる。設計図(データ)を入稿する、あるいは、好みや断片的な数値を入力して、曖昧なイメージを具現化してオーダーする(セミ)カスタマイズなサービスはオンデマンド印刷型だ。ここでの印刷は、紙メディアの印刷物に限定せず、情報を物質へと変換する手法(プリント)による成果物全般を指す。
マテリアル先行型では、モノが用意されていない、情報が決定された時点で生産に移る点においてオンデマンド印刷型と共通している。大きく異なる点は、人が必ずしもモノを欲していない状態、つまり、興味・関心を持った程度の弱い動機からスタートすること、そして、モノとしての具体的イメージではなく、モノの元となる素材・原料(マテリアル)の情報(弱い情報とも言える)を手掛かりにしている2点である。弱い動機・弱い情報の間に相互作用を起こし、強い具体像として結ぶためには、一方向でも一往復でもない、幾度ものフィジカルとデジタルのやりとり(コミュニケーション)が必要となる。

<マテリアル先行型ものづくりの特徴まとめ>

・弱い動機からスタートする
・弱い情報を手掛かりにする
・繰り返しのコミュニケーションの末に強いモノが生まれる

お気づきの通り、マテリアル先行型は分類のひとつにあげるほど一般的ではないと思う。ヒダクマの過去のプロジェクトでも、カタログ閲覧型やオンデマンド印刷型の方法を取ることが少なくなかった。サービスとしてわかりやすいためフィットする場合が多い。しかし、森をモノ(木材)として扱うことに異議を唱え、多面的に森の可能性・新たな価値を引き出すことで、より持続的でより豊かな森と人との関わりを再構築することをミッションとしているので、マテリアル先行型の機会を増やしていくことを目指している。弱い動機と弱い情報の間に化学反応を起こすためには、森をどのように情報として書き出したら良いかが課題となっている。森の情報として比較的取得しやすく・流通しやすいのは、樹種・位置(産地)・材積(立米)などの定量データである。モノの元として森を捉えれば、それは木材としての情報である。直接的にモノへの結びつきは強いが、非常にスペック的であり、カタログ閲覧型に陥りやすい。僕らは常に「森はモノ(木材)ではない」との原点に立ち戻る。
そして、今問題となるのが「現場で会う」ことをコミュニケーションの要にしてきたことだ。定量データだけでは説明できない広葉樹の森のあらゆる多様性を情報化する手間を省き、フィジカルで得られる情報量と偶然性にも大いに期待をして、プロジェクトの要所でほぼ必ず「飛騨に来ませんか?」と招待をしてきた。ウィズ・コロナへ移行後は再開はされる(だろう)が、コミュニケーションの多角化は必要だ。
いずれもこの状況以前からの課題として取り組み、いくつかの実験・実証をしてきたが、今を与えられた移行準備期間だと考え、改めて飛騨の森からフィジカルとデジタルの関係性、森と人との関わり方について新たな方法を提示していきたい。

 

Kotaro's window

建築家の佐野文彦さんとヒダクマの浅岡とのzoomでの打合せ 2020.04.22

Author

岩岡 孝太郎|Kotaro Iwaoka
ヒダクマ代表取締役社長 / CEO
1984年東京生まれ。千葉大学卒業後、建築設計事務所に入社し個人住宅や集合住宅の設計を担当。その後、慶應義塾大学大学院に進学しデジタルものづくりの研究制作に従事。2011年、クリエイティブな制作環境とカフェをひとつにする“FabCafe”構想を持って株式会社ロフトワークに入社。2012年、東京渋谷にオープンしたデジタルものづくりカフェFabCafeのディレクターとして企画・運営する。2015年、岐阜県飛騨市にて官民共同企業である株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)の立ち上げに参画し、2016年FabCafe Hidaをオープン、森林資源を起点とした新たなプロジェクトに挑戦する。2018年4月同取締役副社長、翌年より現職。

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