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「伐らない林業」のひみつ|「森のレッスン」vo.1レポート

『森のレッスン』

ヒダクマでは、「FabCafe Hida」にいろいろな人を招いて、森と共に暮らす方法をみんなで学ぶ勉強会『森のレッスン』をはじめました。

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2018年12月に開催された第1回目『刈らない林業~木材だけではない森の価値』は、飛騨市林業振興課の「広葉樹のまちづくりセミナー*」の第3回目としても開催。(  * 詳しくはこちら:「飛騨市広葉樹のまちづくりセミナー」

ゲストとしてお招きしたのは、緑が豊かな秩父でそこに自生している資源を使って循環させ、持続可能な「伐らない林業」に挑戦しているTAP&SAP代表の井原愛子さん。

埼玉県秩父市出身の井原さんは、外資系の企業で働いていましたが、地元で国産メープルシロップがつくられていることを知り、自分も関わりたいと思ってUターンしました。

秩父の森は、もともとはカエデが好んで生えている環境で、日本に存在する28種類のカエデのうち21種類が秩父に自生しているそうです。「純国産のメープルシロップ」という特産品を基点にして、秩父の豊かな森を活かし未来へ残していくための取り組みをされています。

メープルシロップを基点に、森の恵みの出口をつくる

森のレッスンvol.1 FabCafe Hidaでの様子

当日は、飛騨市内だけではなく県外からも、森林林組合の方々、木工職人さん、薬草やアロマの活用に取り組む方、行政職員、森林文化アカデミーの学生の皆さんなど森の多面的活用に興味がある様々な立場の方にお越しいただきました。

最初に井原さんは、社名の「TAP&SAP」の由来をお話ししてくれました。
TAPは木から樹液を採ることで、SAPは樹液。TAPは蛇口という意味もあり、TAP&SAPを通じて、森から様々な恵みが流れ出てくるような出口になりたいという思いからつけられたそうです。

「秩父のカエデからメープルシロップを採取してお土産品として販売する取り組みは、1999年から行われていました。私は、秩父でのメープルの活動のきっかけをつくった『NPO法人秩父百年の森』のエコツアーに参加して、地元の森の恵みやそれを活かそうと取り組んできた人たちに感化されたんです。」

当時はせっかくのよい取り組みが、まだまだ世間一般には認知されておらず、自分が外資系の家具販売会社で培ったマーケティングの経験が活かせるではないか、と井原さんは思ったそうです。

井原さんは仕事を辞めて2014年に帰郷し、『NPO法人秩父百年の森』のメンバーとなり林業再生と山村地域活性化の取り組みを始めました。カエデの樹液の採取やキハダの商品開発などを行う『秩父樹液生産協同組合』とも一緒に森の恵みを活かした商品の販売も行行っています。

2016年春には、秩父の土産物を扱っている事業者の団体『秩父観光土産品協同組合』が秩父ミューズパークという自然公園の中に日本初のシュガーハウスである『MAPLE BASE(メープルベース)』をオープン。井原さんはカフェやショップが併設されたそこで、秩父のカエデから採取したメープルシロップやそれをアレンジしたメニューを提供したり、ツアーやワークショップを行い、秩父のメープルブランドの形成に取り組んでいます。

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ちなみに、『MAPLE BASE』がオープンしたのが2016年4月27日。レッスンの会場である飛騨の森林活用の交流拠点である滞在型ものづくりカフェの『FabCafe Hida』も同じ2016年4月の16日にオープン。

「ほぼ同じ時期にオープンした、同じように森林資源を活用の拠点として、勝手に親近感をもって注目してたんです。だから今回ここに来ることができてとても嬉しいです。」と井原さん。

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「第三の蜜」と銘打った『秘蜜』(ひみつ)という商品についてもご紹介いただきました。

シーズンの終わりの春先になると黒ずんでえぐみが出てしまうメープルシロップを試しに蜜蜂に与えてみたところできたもの。量産化するにはメープルシロップだけでは量が足りなかったため、果汁や野菜のジュースなども使って商品化したユニークなものです。

このように、井原さんは、既存のスギヒノキを中心とした「伐る林業」ではなく、カエデやキハダの恵みを使った「伐らない林業」をおこなうことで、複合的に未来に続く森づくりと地域づくりに挑戦しています。

そのために、木材だけではない森の素材を商品にしていくことが必要だと感じています。

「一般の方々が森に関わりたいと思っても、直接山の仕事、例えば植林や伐採をするのは難しいです。でも、森の恵みであるメープルシロップを食べたり購入したりすることで、森に関わってもらうことができます。この活動を通じて、秩父の森の現状を多くの方々に知ってもらいたいと思っています。だから、社名に込めた思いのとおり出口をつくること、つまり商品と買ってくれる人を増やすことが大切です。」

井原さんは、緑豊かな秩父の森を地元の人たちが誇りをもち、森と関わってくれるようになってほしいと言います。森づくりはなにが正解かはわかりませんが、長い目でみて、地元の森を考えてくれる人たちを少しずつ増やしていくことが必要だと話してくれました。

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謎の使命感

井原さんのお話しの後には、井原さんと、聞き手であるヒダクマの松本と、会場のみなさんとのディスカッションが行われました。

井原さん(写真・右)と聞き手のヒダクマ松本(写真・左)

松本:メープルシロップや秘蜜など、外からはポップに見える取り組みですが、相当泥臭い地道なことをされているのがよくわかりました。

井原:実はそうなんです。

松本:カエデの森づくりをして、そこから樹液を採取、加工、販売するのも、『NPO法人秩父百年の森』、『秩父樹液生産協同組合』、『秩父観光土産物協働組合』の3つの組織をはじめとした多くの方が役割分担して実現している。「林業六次産業化」と言うと、ひとつの組織が全部やることがよいと思われたりもしますが、そうでないからうまく成り立っているように思いました。森の生態系のように絶妙なバランスで。

井原:そのとおりです。それぞれが支え合いながら良い意味での緊張感の中で採ってつくって売るというしくみができあがっているので、ひとつの組織の都合でやめられないようになっています。

松本:そもそも井原さんは、そんなめんどくさそうな関係性の中で、どういう思いでなにを目指しておられるんでしょう?例えば、ビジネスとして拡大していきたいのか、秩父の地域をよくしたいのか、日本の「伐る林業」のあり方を変えたいのか。

井原:最初は、地元でメープルシロップをつくっているという話を聞いて、好奇心でツアーに参加してみたのがきっかけです。その取り組みを知って、こんなすごいことが行われているのか!この取り組みを持続させなきゃいけない!という使命感を感じて、「私がやります!」と言ってしまいました。
それで、具体的になにをやるかも決めないまま会社を辞めて(笑)、まずはメープルシロップの本場のカナダに修行に行きました。今もそのまま自分がやれることをやっているだけなんです。

松本:最初のそれは何の使命感なんですか?

井原:謎の使命感です(笑)

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松本:謎の(笑)
さっきのスライドに、「伐る林業」「伐らない林業」という言葉が並んでいる図がありました。井原さんが「伐らない林業」を標榜しているのに対して、飛騨市やヒダクマでは主に小径木広葉樹の価値化など「持続可能な伐る林業」を中心に取り組んでいます。「伐らない林業」の立場から、従来の「伐る林業」に対してどのように見ておられますか?

井原:「伐る」「伐らない」の二項対立ではなく、森にはいろんな可能性があるってことを伝えたいです。伐ること自体が問題なのではなく、伐ることしか考えてないのが問題なんじゃないかと。

松本:「伐る林業」は、例えば、60年育てた丸太を伐って1本がいくらで売れるかの世界。稼げる対象は木材だけ。それがお金になるまでの時間も長い。それに、林業は物理的に人目に触れない山奥で行われていて、その価値化、生産や流通に関わる人も限られています。
井原さんの取り組みは、「伐る林業」を否定するのではなく、そんな木材を伐るだけの林業の「キャッシュポイント」(稼ぎどころ)と「タッチポイント」(人々との接点)を増やすことなのかなと思いました。

参加者のみなさんとのディスカッション

参加者:お話しを聞いていて、そのタッチポイントをつくることって、本当に大切だと思いました。井原さんも松本さんも元々それぞれの取り組みをご存じで、コンタクトをとったという話がありました。そういう接点をつくるにあたって意識されていることや具体的にされていることってなんですか?

松本:井原さんの取り組みを知ったのはメープルシロップやキハダサイダーなどの、ユニークでストーリーのある商品からです。こういう仕事をしているので、興味をもってオンラインで買ってみました。それでいつか秩父に行ってみたいって思ってて。ワークショップをするって情報があったので上京ついでに行ってみました。ついでにいくには秩父は遠かったですけど(笑)。

井原:そうですね。松本さんが今年の春に秩父まで来てくれて。飛騨から来たっておっしゃったので、「飛騨と言えばヒダクマさんの取り組みに興味があるんです」っていったら、「そのヒダクマです」って(笑)。で、今回、こうやってイベントで私を呼んでいただいて飛騨に来ることができて、すごく嬉しいです。

松本:やっぱりちゃんとした商品やサービスがメディアになって接点をつくるんだと思います。
一方で、それが生まれる過程でも、やりたいことの旗を立ててみれば、共感してくれる人が集まってきてくれるという経験は多くあります。かっこよくみせてるけど実態が伴ってないって業界の人から怒られたりしますけど(笑)。でも、仲間が集まれば可能性は広がるし、続けていけば実態は伴ってくる。
そのためには、今回のようなトークイベントやツアーのようなリアルに参加していただける森に関わる機会をつくるのもいいと思います。そうすると井原さんのような謎の使命感を持ってくれる人があらわれて(笑)、木材以外で森を活用す色々な可能性がぐっと広がる。それを続けていくことが、『刈らない林業』をつくっていくのではないでしょうか?

井原:はい。だから、森のことを伝える機会をつくる『MAPLE BASE』や『FabCafe Hida』のような場所は、運営は本当にたいへんですけど、大切なものだと思っています。
これからは旅行業の許可を取得して、秩父エリアで本格的に自社主催のエコツアーを増やしていく予定です。私が感じたように、やっぱり現場を体験してもらって地元の方々の思いやこれまでの積み重ねを知ってもらうのが一番強いので。

松本:森を活用する拠点を運営しながら、森の出口をつくっている同士の同期として、またお話ししましょう。お越しいただいたみなさんも、機会があればぜひ秩父に遊びに行ってみてください。
本日はみなさん、ありがとうございました。


 

番外編:秩父の森の恵みを飛騨のカフェで

当日、会場の『FabCafeHida』で、秩父の「森のサイダー」や「天然カエデ樹液」を販売し、『TAP&SAP』の第3の蜜『秘蜜』を使用した特別メニューを用意してお客様に召し上がっていただきました。

当日のメニュー

  • ホットな秘蜜~飛騨りんごを浮かべて~
    「秘蜜」だけを使用した、秘蜜そのものの味を感じることができるドリンク。
  • 白いスコーン~秘蜜を添えて~
    「秘蜜 林檎(夏蜜)」のパッケージをイメージした白いスコーン。牧成舎の牛乳を使用した優しい味のスコーンと秘蜜の味が口いっぱいに広がる。
  • 黒のベーグル~秘蜜を添えて~
    「秘蜜 林檎(夏蜜)」のパッケージをイメージした「MOTHER’S HOUSE」 の黒いベーグル。チャコールベーグルにくるみの食感、クリームチーズと秘蜜の相性は抜群。

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今後のイベントのお知らせ

【井原さんより「メープルエコツアー」のご案内】
秩父のメープルの仕掛け人である島崎さんのガイドのもと、カエデの森を散策しながら、カエデの樹液採取の様子を見学したり、日本初のシュガーハウス<MAPLE BASE>では、ディレクターである井原さんからカナダ仕込みのメープルシロップ作りの話や機械のデモンストレーション、ワークショップやティータイムなど、五感に響く体験ができるこの時期しか体験できない、大人気のメープルエコツアー。
2019年2月17日(日)、2月24日(日)、3月3日(日)に開催されます。
ぜひご参加ください。詳しくはこちら。

【ヒダクマより、次回の「森のレッスン」のお知らせ】
『森のレッスン』vol.2は、2019年2月4日(月)、木材コーディネーター鈴木直子さんによる「森と人をつなぐ仕事~木材コーディネーターがつくる木の新しい流通と場」です。どうぞお気軽にご参加くださいませ。

プロフィール

話し手:井原愛子 株式会社TAP&SAP代表取締役
埼玉県秩父市生まれ、在住。学生時代のイギリス留学を経て、海外の音楽やライフスタイルに興味を持つ。大学卒業後、イケアジャパン株式会社に入社し、物流から販売まで様々な部門を経験。マーケティングや販売プロモーションなどの企画・プロデュース業務を経て、2013年秩父の森づくりを行っているNPOの活動に参加したことにより、秩父にUターンを決意、2014年帰郷。山と街をつなぐ秩父の地域プロデューサーとして、持ち前の旺盛な好奇心とフットワークの軽さを生かしてアクティブに活動中。好きな葉っぱはカエデ、好きな匂いはカツラの木の葉(秋になると甘い香りがするのです)
第13回さいたま輝き荻野吟子賞 さわやかチャレンジ部門受賞/埼玉県森林審議会委員(第34期)

聞き手:松本剛 株式会社トビムシ/株式会社飛騨の森でクマは踊る取締役COO(Chief Operating Officer)兼CFO(Chief Forest Officer)
環境コンサルティング会社を経て、2009年、株式会社トビムシに参画。2015年、岐阜県飛騨市に飛騨市と株式会社トビムシと株式会社ロフトワークで、森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す官民共同事業体「株式会社飛騨の森でクマは踊る」を設立、取締役就任。カレー好き。好きな木材はホオノキ、好きな匂いはクロモジの枝。

今後もヒダクマの「森レッスン」をどうぞお楽しみに!